From Darwin to Derrida その163

 
 

第13章 意味の起源について その2

 
第13章では意味が扱われるようだ.議論の前にRNAワールド世界で複製子と触媒をかねていたRNAを念頭に置き,RNA分子の働きがやや詳しく扱われる.
 
 

リボザイムとリボスイッチ

 

  • 化学反応を触媒するRNAはリボザイムと呼ばれる.一部のリボザイムは特定の分子に特異的に結合する配列部位を持っている.このような配列はアプタマー(ラテン語の「適した」”aptus”から)と呼ばれる.アプタマーが結合する相手はリガンド(ラテン語の「結合に適した」”ligandus”から)になる.アプタマーとリガンドの(進化による)適合は,リボザイムが環境から化学反応として利用するものを選び出す方法だ.リガンドが結合すれば,それは化学反応を生じさせる.アプタマーはまた(リガンドを化学反応に参加させることなく)RNAの活動を示す物事のセンサーとしても使われる.そのようにセンサー(アプタマー)とエフェクター(発現プラットフォーム)が機能的に結びついたRNAはリボスイッチと呼ばれる.

 
RNAは単に情報を伝えるだけでなく,現在でも触媒としての機能を持っている.この場合それはリボザイムと呼ばれ,そのリボザイムにある結合配列がアプタマー,そこに結合するものがリガンドと呼ばれる.私はこの当たりにはあまりなじみがないので,なかなか勉強になる.そしてヘイグ流の用語法ではアプタマーとリガンドの結合はリボゾームによる選択になる.
さらにアプタマーは(触媒ではなく)単なるセンサーとしても働き,その場合にはリボスイッチと呼ばれる.ここはちょっとわかりにくい. 

  • リボザイムとリボスイッチはリガンドがあれば化学反応を生じさせる分子デバイスだ.リボザイムは反応に影響を与える道具だが,リボスイッチは反応を選ぶための情報を使う解釈者だ.リボザイムの機能はリガンドのある場合に化学反応を起こし,リガンドがない場合に化学反応を起こさないことだ.道具と解釈者の違いはリガンドの有無に対する反応が「意図」されているかにある.「意図」というのはリガンドの有無に化学反応の有無が結びつくことが適応的に利益があるという意味だ,リボゾームにとってリガンドがないことはその機能達成への妨げになる.しかしリボスイッチはリガンドがないときにその反応を起こさないことを「好む」のだ.リボザイムは世界の中で行動し,リボスイッチは世界を解釈する.

 
なかなか難しい.リボザイムとリガンドと化学反応の話はよくわかる.リボザイムはリガンドがあれば化学反応を促進し,ないときにはそうしない.リボスイッチの話は難しい.ここでちょっと調べるとリボスイッチとはmRNA分子の一部分でそこに結合が生じれば遺伝子発現に影響を与えるものだそうだ.ということでアプタマー配列がリガンド配列と結合することによって何かの化学反応を触媒する場合にはリボザイム,遺伝子発現に影響を与える場合にはリボスイッチと呼ばれるということになる.
そしてヘイグがここで言いたいのはRNAの特定配列(アプタマー)がリボザイムとして働くときにはこの分子領域はリガンドの有無で化学反応を起こしたり起こさなかったりする「行動者」であり,リボスイッチとして働くときには,それはリガンドの有無による遺伝子発現への影響が適応的な利益があることが想定されているために「解釈者」であるということだ.やはり難しい.リボザイムの能力が自然淘汰にかかることもあるような気もするし,そうなればリボザイムも「解釈者」になるのではないだろうか.

ともあれここではアプタマーとリボスイッチに関する論文が参照されている.分子生物学的には有名なものなのだろう
www.nature.com

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov