From Darwin to Derrida その172

 

第13章 意味の起源について その10

 
ヘイグの意味についての論考.エリオットの詩を引用しながらタイムスケールの問題が考察される.いきなりソシュールが登場し,その共時性と通時性についてのヘイグの考察が披露された.

 

決定的アクション その1

 

  • リボスイッチの機能はその進化的過去からの通時的な情報とその環境的現在からの共時的情報に依存する.進化的な情報はRNA配列に書き込まれ,複製系列の過去の自由度「何でありえたか」と,リボスイッチの機能的反応のレパートリーの記述「何でありうるか」を示している.環境的情報は現実の反応「何であるか」を将来の自由度のなかから選択する.

 
ここはソシュールの解釈を通じてリボスイッチにかかるいくつかのタイムスケールの問題を整理し直したということになる.
機能が進化的な過去からの通時的な情報に依存するというのは,それが適応的機能を持つという意味だ,そして環境的現在からの共時的情報に依存するというのはその適応的機能は環境条件に応じて調整されるというという意味になるだろう.そしてそのような自然淘汰を経たRNA配列は過去の淘汰にかかる情報,現在の機能制御の条件についての情報を含んでいる.さらに現在の環境は制御条件を1つに決定する.
 

  • メカニズムにかかる共時的視点から見ると,配座の変化に関するリガンドとアプタマーの役割は因果的に同一だ.しかし適応の意味にかかる通時的視点から見ると,主体としての進化するRNAと客体としての変化しないリガンドの間には文法的な区別がある.

 
機能メカニズム的(至近因的)にはリガンドとアプタマーが結合することにより機能が変化するので,この両者に因果要因としての差はない.しかし進化的(究極因的)にはアプタマーはRNA配列の一部としての進化産物であるが,リガンドはそうではないという違いがあるということになる.
 

  • リボスイッチのエネルギー地形はその形にある.一部の配座は自然淘汰の客体となるに十分な頻度で現れるが,一部の配座はリボスイッチの機能を推測する際には無視できるほど稀にしか現れない.進化したエネルギー地形は自然淘汰により形作られるもので,微小な摂動に敏感で(バタフライエフェクト),大きな摂動には鈍感な(バスタブエフェクト)様相をとる.これによりリボスイッチは,不適切な摂動には鈍感で,適切な入力には敏感になることができる.そしてそれに対応するリガンドはある牽引領域から別の牽引領域にフリップする.

 
ここはリボスイッチの切り替えがノイズの影響を避けてうまく行われるのはそれが自然淘汰産物だからということをいっているのだろう.
 

  • 1つのアプタマーが1つの発現プラットフォームに結びついているようなパラダイム的(範例的)なリボスイッチを考えてみよう.アプタマーは,リガンドにより実現される配座に安定化するまで,潜在的な配座群の中で可逆的な変動(揺らぎ)をする.このリガンドに誘発されるアプタマーの安定化は発現プラットフォームにアロステリックな(高分子のある結合部位の結合が別の部位の機能的変化を生じさせるような)シフトを引き起こし,そのシフトは転写の終了のような不可逆的な化学反応を引き起こす.アプタマーと発現プラットフォームのこの進化した構造は,アプタマーのリガンドの感知による不可逆的な反応が生じるまでは,それぞれ「不確か(uncertain)」,「非決定(undecided)」の状態にある
  • リボスイッチは「決定」(不可逆作用)が何らかの「理由」(リガンドの感知)により生じるという理由のある選択(a reasoned choice)であることの例だ.この入力と出力を持つアロステリックなメカニズムは,物理科学的に恣意的(physicochemically arbitrary)だが,適応的な意味(adaptive sense)がある.

 
そして前段の主張が具体的に解説されている.選択により意味が生まれているということになる.