From Darwin to Derrida その176

 

第13章 意味の起源について その14

 
意味についてのヘイグの考察.意味を作るのは突然変異ではなく,淘汰なのだということを,サルのタイプライターの逸話で解説し,そこを理解できない批判者のポンコツぶりを見た.ここから「淘汰が意味を作る」というところがさらに深堀りされる.

意味論的刈り込み

 
冒頭ではショウジョウバエの人為突然変異実験で有名なハーマン・マラーによる「The Darwinian and Modern Conceptions of Natural Selection」という論文の文章が引用されている.

  • (自然淘汰)は,それがしばしば比較される樹木の剪定より遥かに「創造的」だ.またそれは,木のブロックの中に潜在的にありうる無限のイメージから1つのイメージを選び出し,それに沿って木のブロックを削り出すよりも「創造的」だ.もしこれが創造的でないというなら,彫刻をおこすどんな彫刻家も,無限の組み合わせから言葉を選ぶどんな詩人も創造を行っていないということになる.

Hermann Muller(1949)

 
意味の創造にとっては「選び篩い落とす」ことが重要だということを彫刻家の技から説明するのはわかりやすい.
https://www.jstor.org/stable/3143335

 

  • 全ての実在するTPPアプタマーのトークンツリー(token tree)を想像し,その分岐の収斂パスに従って,それら全ての共通祖先RNA,つまり原初トークン(urtoken)まで遡ってみよう.現存するあるアプタマーの直接の祖先は1つのDNA配列だ.そのDNA配列の祖先系列はDNA配列が続き,そしてどこかでRNA配列になり,そこからは排他的にRNA配列となる.
  • このRNA原初トークンは間違いなくTPPと高い親和性を持っていただろう.しかし私たちがさらに祖先を遡るとTPPとの親和性は下がっていくだろう,そして最後には親和性のない基幹トークン(stem-token)に達する.(これを示す系統樹が図示されている)

 
ここで系統樹を用いた説明になる.なぜphylogenetic treeとせずにtoken treeとするのかはよく分からない.描かれた系統樹は基幹トークンが一番下にあり,樹上に広がった先端の1つが原初トークンとされ,この1つの原初トークンからまた樹上に広がるように書かれている.この下側の基幹トークンから原初トークンにいたる系統樹における道筋でTPPとの親和性が選択されたということになる.
 

  • つぎにこの基幹トークンからはじめてその子孫を追って見よう.この枝は自然淘汰により激しく刈り込まれている.ほとんどの突然変異はTPPとの親和性に影響を与えないか,親和性を下げるものだが,しかし親和性を下げる突然変異はその後で刈り込みを受けているだろう.
  • そこには基幹トークンから原初トークンへと続く唯一の経路がある.それは遡って録画された「祖先へのヴィデオテープ」を前向きに再生して得られた道だ.
  • TPP親和性を増すような稀な突然変異は,この経路に特に多く見つかる.もしこのトークンツリーがランダムに刈り込まれていたたなら,このような原初トークンへの突然変異パスは得られないだろう.なぜならこの配列空間は超天文数スケールだからだ.しかし枝が環境によって刈り込まれるならこれが可能になる.なぜなら新しい突然変異は,すでに(より親和性がある突然変異を持つものとして)ノンランダムに淘汰された枝でのみ生じるからだ.

 
原初トークンに向かうありうる潜在配列は超天文学数スケールであり,淘汰圧にしたがった刈り込みがなければ実際上TPP親和性にたどり着くことはできない.しかし刈り込みがあれば,親和性に近づく道が得られる.TPP親和性を生み出すのは変異ではなく刈り込みだということだ.