第16回日本人間行動進化学会(HBESJ OSAKA 2023)参加日誌 その3

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大会2日目 12月3日

 
二日目の午後は総会と口頭セッション3
総会では来年度の開催場所が広島(広島修道大学)となるアナウンスがあった・
  

口頭発表セッション3

 

宗教的CREDsと宗教的信念:International Social Survey Programmeデータの二次分析によるGervais & Najle (2015) の拡張的追試 石井辰典

 

  • ヒトは他者から情報を受けとるが,騙される(操作される)リスクも受ける.これに対しては何らかの対策があると考えられる.信憑性を表す何らかのCREDS(他者の信憑性を高める表示)があり,それに反応する可能性がある.
  • 特に宗教的なCREDSがあると宗教的信念の学習が促進されると予測され,養育者の宗教的CREDSが子供の宗教的信念を促進することを示すデータもある.しかしこれまでのリサーチは垂直伝達の場合のみを扱ってきた.そこで斜行伝達の場合を調べてみた.
  • ISSPのデータを用い,年配集団(1970年以前の生まれ)と標的集団(1971~81年生まれ)を抽出し,父母とその他の年配者にわけて年配集団の宗教的行動,神を信じるという信念の標的集団への影響を調べた.
  • 結果,父母その他の年配者の宗教的CREDSに標的集団の宗教的信念を強める影響が見られた.効果は母>その他年配者>父となり,その他年配者の影響と父の影響には交互作用(年配者の影響が高いと父の影響が低くなる)が見られた.宗教的行動と信念の影響に差はなかった.

 
なぜ宗教的なCREDSが信頼されるのか(操作されるリスクを軽視するのか)について説明はなかったが,特にその他の年配者の影響については興味深いところだ.この結果によると若者は宗教を装った詐欺に遭いやすいことになるのだろうか.
 

私的評価下の間接互恵性の成立条件 大槻久

 

  • (間接互恵についての簡単な説明の後)私の興味は評判や行動の規範がどのように形成されるかというところにある.先行研究は評判が社会の中で一致しているという前提をおいていた.みなでうわさ話を共有しているという状況を仮定しているわけで,その方が計算が簡単だという事情もある.評判についてエラーが生じることを調べる研究もあるが,その場合も評判の元になるレポーターがエラーを起こして,エラーはみなで共有されているというのが前提だった.
  • そのような仮定の元では協力の進化のためにはリーディングエイトと呼ばれる評判,行動規範が重要であるということが知られている.
  • では評判が個人間で不一致な場合にどうなるのか.評判が異なると,その対象者の行動に対する評価が分かれていくので,不一致が拡大するという現象が生じる.これまでの(パラメータ空間の一部を調べる)限定的なシミュレーションでは協力の進化は難しいといわれてきた.
  • シミュレーションではすべての結果を網羅的に知ることが難しいのだが,ここで共同研究者の藤本さんが結果を(一定の条件の元)解析的に出すことに成功した.で,それを使って,無限集団無限相互作用,全員が独立にエラーするという状況についてリーディングエイトで協力が保たれるか(allC, allDが侵入可能か)を全パラメータ空間で調べてみた.
  • その結果リーディングエイトは大きく3つのカテゴリー(協力が保たれるパラメータの領域が広いもの,狭いもの,協力が保たれないもの)に分かれることがわかった.この場合悪い評判を持つ個体への協力をどう評価するかが鍵になった.

 
なかなか面白かった.やはり解析的に解ける威力は大きいという感想だ.
 

互恵性メカニズムの統合と協力と非協力の安定共存 佐々木達矢

 
昨年の発表の続編.

  • 間接互恵には,まず利他行為があり,利他行為をした者に(それを見ていた)第三者が(報酬として)利他行為をするという(評判を使った)ダウンストリーム型(ds)と,利他行為をされた者が(恩送りとして)第三者に利他行為をするというアップストリーム型(us)がある.
  • ここで単純なギビングゲームを使ってds, usの間接互恵戦略とallC,allDの進化ゲームの安定解析を行う.us型だとallDのみが安定解になる.ds型だとallDの他に(評判規範により)互恵戦略や混合戦略が安定解になるが,エラーや情報コストには弱いという結果になる.
  • ここでus, dsを合わせた統合型の間接互恵戦略を導入する.すると評判規範に「もらった恩を送らないのはbad」があるなら互恵戦略とallDの混合戦略が安定解になる.しかしこれだけではpureなus互恵戦略に侵入されてしまう.さらに先ほどの評判規範を「恩送りし,さらに報酬を与えるもののみgood,そうでなければbad」に変更するとusに対しても頑健になる.

 

政治的偏見が生じうる場面においてインタラクションは意思決定の質を高めるか? 金惠璘

 
(SNSによる言及不可なので公開されている発表要旨から紹介)
推定課題についてはインタラクションによる社会情報の共有化が正確性を増大させることが報告されている.これを政治的なインプリケーションを持つ推定課題に拡張して調べてみたもの.結果は政治的な偏見が生じうる問題でも社会情報の共有化が正確性を増大させることが確認されたが,中立的課題の場合とは鎖があったというもの.
 

若手発表賞授与,閉会挨拶

 
若手発表賞は,稲葉理晃さん(環境変動が協力的集団の形成を促進する),柿沼舞花さん(規範逸脱者の結末:残酷な物語の文化伝達と受容の実験的検討),大坪快さん(外集団攻撃者の評判:外集団攻撃を表出する個人の評判に影響を及ぼす状況要因の検討)と発表された.
 

閉会挨拶 竹澤正哲会長

 

  • 運営の皆様に感謝です(紹介して拍手)
  • この学会では最後に眞理子先生のお言葉をちょうだいして年を越すということになっているので,一言お願いします

 

挨拶 長谷川眞理子

 

  • 昨年の北海道の大会に続いて対面で議論することができました.対面で議論できるのは本当に素晴らしいことだと思います.
  • 学会を立ち上げた時には人数も少なく北大の社会心理の人が多かったのですが,最近では人数も増えいろんな分野の人と議論できるのを喜ばしく思っています.山岸先生も喜んでおられると思います.
  • 議論をしていく中で感じたのは,やっぱり原点である進化環境をどう捉えるかということの重要性です.そしてそれが現代環境とあまりに違うことをきちんと意識していろんな議論をしていきたいと思います.
  • 今回の大会の運営ありがとうございました.また来年会いましょう.

 
ということで今年のHBESJは閉会となった.ここで私からも改めてハイブリッド開催を行ってくれた運営の方々に御礼申し上げたい.ありがとうございました.
 

<完>