読書中 「Moral Minds」 第7章 その1

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong




第7章は第一原則と題されていて,いわゆる道徳の黄金原則「自分にして欲しくないことは他人にもしない」についての話題から始まっている.

そしてこれまで進化生物学がこの原則について適応デザインとして説明してきたことを解説し,それがどこまで動物にも当てはまっているかを調べ,何がヒトに特別なのかを考察していく章になるようだ.具体的には2つのテストで行うとしている.

  1. 道徳に特別な能力は他の動物にも見られるか?見られるものを全部取り除いた残りがヒトに特別なものだ.
  2. その人にのみある能力のうち,道徳判断領域で使われるものか,他の判断にも使われるものかを見定める.他の判断に使われるものを差し引いた残りこそヒトの道徳能力に特別なものだ.


第1節は親子関係.

トリヴァースの投資理論を中心に親子関係の進化生物学が概説される.血縁係数とコンフリクト,ヘルパー,子殺しが生じる条件など.


ハウザーのまとめは2つ

  1. 私たちは特定のパラメーターを通じて加害と援助の原則を知るにすぎない.ヒトを考えると両親は常に子供を育てるべきだ,子殺しは絶対的に許されないと結論づけたくなるが,そうではない.ヒトの進化史においては特定条件では子供の遺棄や嬰児殺しが適応的だったことがあるだろう.多くの動物で血縁個体を殺すのは無意識の原則の結果だろう.ヒトはそれに従ったり反抗したりできる.
  2. 私たちは他の動物といくつかの原則とパラメーターを共通に持っているだろう.すべての子を必ず育て,兄弟は争ってはいけないという絶対的な義務はない.例外を起こす条件があるのだ.わかっていないのは,あるパラメーターと原則における期待行動ではない行動を見たときにそれを規範違反と判断し,とめようとするかどうかだ.(たとえば餌が十分にあるのに兄弟殺しが起こるような場合親は止めようとするか)実際にサギで行った実験によると条件を変えると兄弟殺しの攻撃の強度は変わったが,両親の行動に変化はなかった.さらに実験を望みたいところだ.

第2節はコンフリクト回避のための所有という観念

まず縄張りやハレム,順位制の機能が解説される.ここでメイナードスミスのゲームが出てくるかと思ったが言及はなかった.考えてみればコンフリクト回避のための非対称性の利用は(遺伝子的視点ではなく個体的視点でいっても)まったく利己的な計算から成り立つのだからモラルとはちょっと違った話になるのかもしれない.


ハウザーの視点はこのような縄張りや順位への違反に対して罰があるのかという点だ.
霊長類の順位制に関しては,劣位個体の違反に対して優位個体は威嚇,追跡を行う.

ハウザーのまとめは,まず子育て以外でも,所有を巡って争うときに,加害と援助を決めるパラメーターがあるということ,そして所有やそれに伴う評価に必要な心理リソースについてはよくわかっていないということだ.平たくいうとリサーチはこれからということのようだ.


第3節は同盟

霊長類,イルカ,ライオンなどは同盟がある,これには調整,コミットメント,協力が重要になる.しかし大きな同盟が可能という点ではヒトは飛び抜けた存在だ.


ここで進化生物学による協力関係の整理.血縁,副産物,双方にメリット,互恵

動物の具体例としてはライオンとイルカの研究が解説される.

結局1-3節の話題については現象としてはいろいろなことが知られているということに止まっていて,ヒトの道徳能力との間の面白い議論はあまりなされていない.罰の議論は例外だが,これも心理的なところはよくわかっていないというのがコメントされているだけだ.



第7章 第一原則


(1)抱きしめるものと殺すもの


(2)所有権


(3)それには2つが必要だ