読書中 「The Evolution of Animal Communication」第2章 その5

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)



第3節は警戒信号.警戒音はヴェルヴェットモンキーが3種類の警戒音を持つということで言語の進化に絡んで有名だし,いろいろな地上性リス類の警戒音は血縁淘汰で説明できるという話も聞いている.最初に読んだときにもっとも印象的なのはザハヴィのいうガゼルのストッティングが対捕食者への信号という話だ.


本書でもこの辺の有名どころがどんどん登場する.警戒信号については同種個体向けに「警戒せよ」と知らせるものと,捕食者に「あきらめろ」という信号を送るものに大きく分けて議論される.前者は霊長類,鳴鳥類,リス類に見られる警戒コールであり,後者は草食有蹄類に見られるストッティング,白色フラッシュパターンということになる.


<対捕食者信号>
ガゼルのストッティングやオジロジカの白色フラッシュが何故捕食者向けの信号と考えられるかについてはかなりの証拠があるようだ.しかし捕食者が本当にこれを見てあきらめているのかについては証拠はまだ無いということらしい.それでもこの行動は捕食者向けの信号と考えると理論的な予測にきわめてよく合致しているので今やほとんど疑いはないということのようだ.


<対同種個体信号>
逆に同種個体向けの信号については難問が多く残っているようだ.リス類の同種個体向けの警戒音については地上性捕食者コールには血縁個体に対してより出しているらしいが,飛行性捕食者コールはそうでないという傾向があるというのは面白い.シャーマンはこれを操作ではないかと示唆している.
鳥の警戒コールも血縁個体向け信号であるものがあるようだ.霊長類では同種個体向けの警戒を促す機能と,捕食者向けに捕食をあきらめさせる機能の両方があるようだ.


信頼性についてはフォルスアラームがあるので検証は難しいが,受信者に反応を起こさせるに十分な信頼性はあるようだ.またエラーとしてのフォルスアラーム自体は合理的であり,だましの入り込む余地も作っているという.鳥類の警戒音では明らかにだましが混じっている.


問題はコストだ.ジリスのコールについては地上性捕食者警戒音はリスクを伴っているようだが,飛行性捕食者警戒音はそうでないようだ.これは地上性捕食者警戒音が血縁個体向けという観察と合致している.さらに著者は,地上性捕食者警戒音についてもだましの時にはコストがないだろうと指摘している.これはなかなか鋭い指摘だ.つまり同種個体向け警戒音の信頼性はコストによって担保されているわけではなさそうだ.


ここの結論はあまりはっきりとしていない.この信号を継続させている仕組みは何なのだろう.信号が相利的であれば正直な信号が発信され続けるのは理解できるが,何がだましの頻度を受信者が平均して利益が得られるように抑えているのだろうか.単純にだましが利益になるような場面が少なくて頻度が少ない様な状況下でのみ,このような信号が残っているということなのだろうか.よくわかっていないという印象だ.




第2章 利害が重複しているときの信号


(3)警戒音