訳書情報「進化の存在証明」

進化の存在証明

進化の存在証明


原書を読んでいる途中に訳本が出版され,こちらも参照しながら読み進め,その後通して一度読んでみたものだ.
まずは原書出版から2ヶ月で訳書出版に漕ぎつけたというそのスピードはただ事ではない.おそらくダーウィン生誕200周年に間に合わせたかったということだろうと思われる.
このようなタイトなスケジュールの中,全体に大きな破綻なく翻訳がなされており,進化生物学に造詣が深くドーキンスについて何冊も訳している垂水雄二ならではの仕事だと評価できるだろう.しかしあえていうなら,「ほとんど仮訳のまま推敲できなかった部分も残っているのだが,諸般の事情により出稿を余儀なくされてしまった」感じは否めない.おそらく訳者にとっても内心忸怩たるところもあるのではないかと推察する.
これほどまでに急がせて11月に出版する必要があったのだろうか.この本をダーウィン年だから購入するが,2010年なら購入しないという読者がどれだけいるのかは疑問だ.12月としても,もう1ヶ月時間がとれたはずだ.原書の味わいより固い表現になっている個所を読むたびに「訳者にあと1ヶ月時間を与えることができたなら」と思わずにはいられなかったというのが正直な感想だ.


なお前にも述べたが,邦題「進化の存在証明」のつけ方には疑問がある.「The Greatest Show on Earth」の趣が日本人読者にわかりにくいからと副題「The Evidence of Evolution」の方をつけるのだとしても何故「進化の証拠」としなかったのだろうか.ドーキンスは,冒頭で「進化があったことは,狭い意味では「証明」できるものではなく,歴史的事実の存在と同じように豊富な証拠から得られる推論により事実だと受け入れられているものだ」と説明しているのだから.