Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior
- 作者: Geoffrey Miller
- 出版社/メーカー: Viking Adult
- 発売日: 2009/05/14
- メディア: ハードカバー
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さてこれからGeoffrey Millerの「Spent」を読んでいこうと思う.
ミラーは「The Mating Mind」(邦訳「恋人選びの心」)で有名な進化心理学者だ.「The Mating Mind」はヒトの心の広範囲な特徴が性淘汰による適応形質ではないかということが議論されていて大変興味深い本だった.ミラーはその後この路線のリサーチをつづけていて,道徳についても性淘汰説を打ち出している.(私のレビューはhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20091123#1258957719参照)
さて本書「Spent」では,ヒトの消費性向についての適応的な説明を考えていくことになる.そしてミラーの説明は当然ながら性淘汰に重きを置いたものになるだろう.
ミラーは冒頭で「Consumerist Capitalism」「Consumerism」の本質は何かと問いかけている.日本語では「消費者中心資本主義」「消費者中心主義」と訳されることになるのだろうか.
あるいは問題を言い換えようとミラーはいう.「なぜ世界でもっとも賢い霊長類であるヒトはハマーブランドのSUVを14万ドルで買うのか?」
本書の出版は2009/7だからリーマンショックの後ということになるが,気分はリーマンショック以前のアメリカの消費シーンだろう.その当時何故(当時の為替換算で)1500万円以上のハマーは売れたのか?
要するに,ヒトが何かを購入したいと思うのは本当は何故なのかよく考えてみようということだ.
ミラーは結論を先に提示している.「ヒトは小さなグループの社会性動物として進化し,そこではイメージや地位が非常に重要だったのだ.それは単に生存のためでなく,配偶者を魅了し,友人に印象づけ,子供を育てるのに重要だったのだ」
つまり消費者が高額商品を買うのは,自分が楽しむより,他人に印象づけるために自分自身を飾り立てることが理由だとミラーは主張する.だから「物質主義」という言い方は正確ではない.商品はまずシグナルだということだ.
この論点は基本的に地位を巡る信号としてヴェブレンの「誇示的消費」の問題,それに対するロバート・フランクの一連の解釈がまず関連するだろう.またシグナルだということになれば,進化生物学では,ハンディキャップの問題になるだろうし,性淘汰の議論とは大変親和的になりそうだ.ゆっくり読んでいこう.
関連書籍
ミラーの本
The Mating Mind: How Sexual Choice Shaped the Evolution of Human Nature
- 作者: Geoffrey Miller
- 出版社/メーカー: Doubleday
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- メディア: ハードカバー
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- 作者: ジェフリー・F.ミラー,長谷川眞理子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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- 作者: ジェフリー・F.ミラー,長谷川眞理子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2002/07/15
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Mating Intelligence: Sex, Relationships, and the Mind's Reproductive System
- 作者: Glenn Geher,Geoffrey Miller
- 出版社/メーカー: Psychology Press
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ヴェブレンの誇示的消費の指摘
有閑階級の理論―制度の進化に関する経済学的研究 (ちくま学芸文庫)
- 作者: ソースティンヴェブレン,Thorstein Veblen,高哲男
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1998/03/01
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ロバート・H・フランクの誇示的消費にかかる本
Luxury Fever: Money and Happiness in an Era of Excess
- 作者: Robert H. Frank
- 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr
- 発売日: 2000/09/05
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進化心理学的知見をふまえて,誇示的な消費性向がヒトの心理からくるものであり,ちょうど共有地の悲劇と同じ構造を持つ公共財問題であることを論じている.解決策として直接税としての累進型消費税を提唱しているところが本書の特徴だ.
What Price the Moral High Ground?: Ethical Dilemmas in Competitive Environments
- 作者: Robert H. Frank
- 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr
- 発売日: 2003/12/02
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これもなかなか面白い本だった.ヒトにおいて有効な感情コミットメントは心理的な満足だけでなく,繁殖的なそして物質的な利益が生じうるものであり,経済行為を行う企業においても妥当するというところに話が拡張されている.このことから企業戦略としては,狭い合理的選好モデルだけではなく,進化心理をふまえた適応的合理性を取り入れるべきであるという主張を行っている.消費者相手のビジネスでは特にそういうことになるだろう.
行動経済学の本の多くが,単に伝統的なモデルでは解決できないことを指摘するだけでそれ以上の話にならないのに比べて,進化心理的な知見を生かした実践的な示唆があるのがこの本の素敵なところだ.
賃金がモラルによっても決まることを実証的に示した部分もあったりして読んでいても大変面白かった.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20060325