
Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior
- 作者: Geoffrey Miller
- 出版社/メーカー: Viking Adult
- 発売日: 2009/05/14
- メディア: ハードカバー
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第3章ではミラーは現代社会におけるマーケティングの影響力の強さを説明しようとしている.まずアメリカにはマーケターは21万人いて,心理学者は3万7千人しかいないのだそうだ.3万7千というのも結構な数字のような気がするが,さすがにアメリカはマーケティング大国だ.
ミラーはマーケティングの歴史から始めている.
- 近代マーケティングは20世紀,フロイトの甥であるエドワード・ベルネイズに始まる.彼は民主主義社会の中で同意を得る方法を心理学的に分析し,それをビジネスに応用したのだ.彼は大衆を操作するには大衆の信念と欲望を知らなければならないと考え,ドッジ,P&G,GE,カルチエ,チキータなどへコンサルトした.
- 当時のビジネスにとって「メーカーは大衆が望むものを作るべきだ」というのは革新的なアイデアだった.それは成功し,ほとんどの会社が消費者調査,商品開発,広告宣伝,プロモーション,ディストリビューションを統合したマーケティング活動を行うようになった.
ミラーはこの後の文章でも,主権が大衆に移る民主主義のアナロジーとか,大衆の心理的ニーズを重視したルターやカルビンの宗教革命のアナロジーを用いている.
インテリはこのマーケティングの重要性を理解していないというのがミラーの託宣だ.右翼のエコノミストは価格がすべての情報を伝えていると考えているし,左翼の社会学者やジャーナリストやハリウッドの脚本家はマーケティングを大衆の操作手段としか見ていない.*1
ではマーケターはどうなのか.マーケターは実務はわかっているが,それが社会や経済や心理学革命とどう結びついているのか説明できない.
ここでミラーはマーケティング革命の長所と短所をまとめている.
長所
- それは私達をより幸福にしてくれるかもしれない.私達が何を幸福に感じるか,それは実験心理学とはけた違いの予算を持ってリサーチし商品を送り出してくれる.
短所
ミラーは,マーケティングは人類の持つ技術を大衆の欲望に奉仕させるのに使うことになる指摘している.
それは,あまりうまくない方向に向かえば,「Ideocracy」(邦題:「26世紀青年」500年の人口冬眠後の世界はバカばっかりだったというSF映画),シナボン(甘ったるい大きなお菓子が1ドルで食べられるチェーン店),そしてスーパーボウル,自己耽溺的な60億人のブロガーの世界につながるが,実際に大衆に権力を与えたという点においてここ2000年間で最大の革命でもあり,単に資源配分を変えているのではなく,何を作るかのコントロールを通じて世界をヒトの情熱のままに変えていくのだ.
要するに,世界はマーケティングを通じて,大衆の欲望に向かって変革されていくという指摘だ.なかなか何ともすさまじい.