
- 作者: 日高敏隆,日本ICIPE協会
- 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
- 発売日: 2007/04
- メディア: 単行本
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本書は2007年の出版.昨年お亡くなりになった日高敏隆先生の監修によるもので,ケニアに作られた国際研究機関ICIPE(国際昆虫生理生態学センター)における日本人研究者の様々な研究内容を紹介するものになっている.
冒頭で日高先生によるICIPEとの関わりにかかる寄稿があり,日本がかなり積極的にかかわってきたが,ケニアの国内の民族間対立に巻き込まれたり,最近の政策変更により日本が手を引いてしまったことが説明されている.その無念も伝わるが,何より日高先生自身何度もナイロビに行きながら会議に忙殺されて昆虫のリサーチができなかったと残念そうに書かれているのが印象的だ.
その後は様々な昆虫のリサーチが並んでいる.昆虫も様々だし,分野も様々,切り口も様々と楽しいキルト模様のような本に仕上がっている.読んでいると感じるのは,アフリカの昆虫の持つ迫力だ.ひとつには熱帯の持つ多様性が出ているのだろうし,もうひとつにはヒトとの共存の歴史が長いので(特に寄生関係で)すさまじいものが目につくということなのだろう.前者では,擬態するチョウ,サバンナのフンコロガシ,極度の乾燥に適応したネムリユスリカなどが興味深いし,後者では群生相で大群になるサバクトビバッタ(最近ディスカバリーチャンネルですごいドキュメンタリーも見たばかりだったので特に印象的だ),吸血性アブ,サシチョウバエ,ツェツェバエなどが不気味な迫力を感じさせる.
昆虫食の報告も面白かった.シロアリの10cmもある女王をフライパンであぶって食べると,香ばしくタラコのような食感で美味なのだそうだ.(現地の人々はシロアリを継続的に食べるために塚を大事にしており,滅多に掘り崩したりはしないのだそうで,これは特別な食事だということだ)腹部にある卵がたらこのような食感をもたらすのだろう.是非一度食してみたいものだ.
アフリカの昆虫という以外には,特定のテーマに沿って深いわけではなく,記念碑的なアンソロジーといった性格のものだ.虫好きの人には肩の凝らない,ちょっとエキゾティックな題材の読み物として楽しめるだろう.