「The Better Angels of Our Nature」 第2章 平和化プロセス その1  

The Better Angels of Our Nature: Why Violence Has Declined

The Better Angels of Our Nature: Why Violence Has Declined


ピンカーは暴力減少を6つのトレンドに分けて説明していくことになるがこの第2章ではその最初のトレンド「平和化プロセス」が扱われる.ここでは原初の状態からの最初のプロセスということになるので,まず暴力に関する進化的なロジックを見ることから始める.


<暴力のロジック>
ピンカーは巷によくある「進化とは最適者生存で,ただただ互いに争うものだ」という誤解から始める.進化はそのように単純なものではない.争うこともあれば協力することもある.
ドーキンス利己的な遺伝子のロジックを紹介し,個体はヴィークルであり,遺伝子視点から見て他個体をどのように利用するかという問題になることを簡単に説明している.


すると多くの場合には他者を収奪的に利用した方がよいから,暴力はデフォルトになるのだ.これが他種個体なら補食とか寄生と呼ばれる.そしてその方が遺伝子視点で有利になれば同種個体にも暴力をふるうことになる.
しかしそうでない場合もある.血縁個体とは遺伝子を共有しているし,他個体は抵抗する場合があるので暴力をふるうものにとってコストになることもある.つまり暴力は戦略的に使われることになる.


ピンカーはここでホッブスの考え方を引いている.ホッブスは(遺伝子視点というところはなくとも)戦略的な利用という観点から考えているということだろう.

ホッブスによる暴力の3つの戦略的使用

  1. 競争 利益のため
  2. 安全 自分や家族を守ろうとする
  3. 名誉 


ピンカーはこの三つの関係について簡単に解説している.
リソースが限られていれば第1の競争が生じる.すると襲撃されるリスクがあることになり,その対応として第2の防衛が生じる.(先制攻撃の方が有利であれば「ホッブスの罠」になる)
そしてこれへの一つ目の合理的な解決策:「威嚇による抑止」のためには先制攻撃に対して生き残る能力と報復を実行する信頼性:コミットメントが重要になる.だから名誉のために暴力をふるう動機が生まれるのだ.(ここには報復の連鎖のリスクが生じる)


もうひとつの合理的な解決策はリバイアサン:「政府による暴力の独占」ということになる.これは先制攻撃のインセンティブを減らせるし,政府はサードパーティなので「悪」と認定されにくく,報復の連鎖を減らせる.


ピンカーはこれをリバイアサン理論と呼び,暴力の歴史について検証可能な予測「最初は無政府状態による暴力の蔓延があり,政府ができて減っただろう」を生むとしている.
そしてこれへの反対説がルソーの「原始的な状態のヒトは無垢で平和的だっただろう」という考え方ということになる.ピンカーは.この両者の考え方は激しく論争されたが,20世紀後半にルソーの考え方が「政治的に正しい」とされ,狩猟採集民の戦争は儀式的なものだと主張されたとまとめている.ホッブスもルソーも何ら証拠なく思索した.しかしその後多くの知見が得られている.果たして事実はどうだったのか,ピンカーはここから証拠を見ていく.