「Risk Intelligence」 第3章 トワイライトゾーンへ その1 

Risk Intelligence: How to Live with Uncertainty (English Edition)

Risk Intelligence: How to Live with Uncertainty (English Edition)


エヴァンズは最初に普通の人のRQテストの結果にある典型的なパターンをいくつか指摘している

  • 人々は0%,50%,100%と答えがちで10〜40%,60〜90%とあまり回答しない
  • このような確率を扱うことへの感情的な反発がみられる

この「10〜40%,60〜90%」がトワイライトゾーンということだろう.エヴァンズにいわせるとこのような部分の確率を上手く扱うことがリスク知性を高めるためのポイントだだ.本章はこのような微妙な主観的確率の世界への導入章になる.


またエヴァンズはここでもうひとつ面白い発見をあげている.

  • 回答は有意に「正しい」という方向にずれている.

これについてエヴァンズは印刷された言説に対して肯定しやすいバイアスがあることを示しているのかもしれないとコメントしている.


<曖昧性への非耐性>


人々が曖昧さを嫌うことは「曖昧性への非耐性」として心理学でよく知られている.これにより,その場で白か黒かに決めたがる,そうでないものを嫌う,怒る,不安になるなどの傾向が現れる.新奇なこと,複雑なこと,不確実なことに対してこのバイアスがかかるとRQは下がる.
エヴァンズはこれをどのように測定するかについても解説している.当初は,イヌの絵からネコの絵に少しずつ変化する絵を見せて,どこまでイヌだと言い張り続けるかなどで測ったそうだ.曖昧回避以外のバイアスも測っているような気がしないでもない.現在では様々な答えが曖昧になりやすい質問や答えが曖昧でしかあり得ないような質問に答えさせるアンケート調査が主流だそうだ.


また心理学にはこれとよく似た別の「不確実性への非耐性」という概念もあるそうだ.心理学者の中には,前者は現在時点のことで後者は将来時点のことだとして区別する向きもあるそうだが,エヴァンズは基本的に大きくオーバーラップしていると一括りにしている.


いずれにせよこれらの非耐性は様々な現象に現れる.

エヴァンズはいくつか例をあげている.

  • ジャーナリストやCEOが株価の下落を不確実性のせいにすること.しかし多くの場合,悪い方に向かう確実性が上がるから株価は下がるのだ.典型的な例:東日本大震災日本株が下がったのも不確実性だと新聞は書き立てたが,その経済への悪影響により下がったと考えた方がわかりやすい
  • 保守派が不景気を政府規制に起因する不確実性に帰するのもよく見かける.


RQの低い人はリスクを見極めようとせずに,過度に悲観的になり実際に望ましくない結果を招いてしまうのだとエヴァンズはコメントしている.


株価については,確かに業績の期待値がより悪い方にずれることが主因で下がるのだろう.とはいえ業績の見通しが不確実になることにより下がる(ボラティリティ上昇にかかるリスクプレミアム)という要因がないわけでもないだろう.また経済マスメディアは,会社やアナリストの業績予想に対して株価が下がっていること(予想業績PERの低下)を説明しようとしていることもあるだろう.その場合には不確実性に基づくリスクプレミアムの上昇が主因である可能性がある(もうひとつの可能性は会社やアナリストの予想が何らかの理由で上方に歪んでいることをマーケットが察知したということになる).



<今すぐ答えを>


これに似た傾向としては「決着願望」がある.人々は時にとにかく物事を確定させたいのだ.逆に確定からどこまでも逃げる「決着忌避願望」を示すこともある.この両極端のどちらのより引かれるかについて個人差がある.これは測定することができる.エヴァンズによると以下のような質問にyesと答えるほど決着願望が強いことになる.

  • あるグループ全体の意見に1人だけが反対しているのをみるといらいらする.
  • 自分の決断を最後の最後に翻すのはいやだ.
  • 自分で自分のことを決められない人をみるのは不快だ
  • 不確実な状態にいるよりは悪いニュースをさっさと聞いてしまいたい


決着願望はRQテストで0%や100%と答えたがる力になり,決着忌避願望場は50%と答えたがる力になるということだろう.
RQの高い人はこの2つの力が釣り合っている.そして低い人はどちらかに大きく引っ張られていることが多いのだそうだ.