「Sex Allocation」 第3章 血縁者間の相互作用1:協力と競争 その3

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


LREの無脊椎動物リサーチはAllodapini属のハチだ.


3.3.2 協力的なハチたち

3.3.2.1 Allodapini属のハチ

エストは,これまで最もよくLREの潜在力が調べられたのは,姉妹が共同で営巣する原始的な社会性を持つハチだとしている.Exoneura bicolor では1から9匹のメスが共同営巣し,1個体当たりの適応度は,分業の利益,防衛などにより,グループサイズが増えるほど大きくなる.グループ内の血縁度は0.5から0.6と高く,多くの場合姉妹が共同営巣していると思われる.このような場合には親は一旦娘を産むなら娘を多くした方が有利になることになり,LREの候補になる.そして全体性比は大きくメスに偏っている.

シュワルツはLREを主張し3つの代替説明を退けている.(Schwarz 1988ほか)

  1. インブリーディングはなくLMCではない
  2. 巣は姉妹で構成されているのでワーカーコントロールもない.
  3. 世代重複もない

エストは以下の追加コメントをしている.

  • broodごとに性比が異なっている.broodサイズが大きいほど性比のメスへの傾きが緩和する.これは娘を産むことの限界利益がグループサイズが大きくなると逓減するからだと説明できる.これはLREを支持する.
  • しかしなお説明できないことが残っている.理論的には,メスが姉妹のみと協力する状況なので,これは分離性比を予想する.しかし実際にはそうなっていない.特になぜ(あまり協力利益がなさそうな)1〜2匹のみ産むような場合にもメスに大きく傾けるのかは説明できない.
  • これを説明しようとする説明は3つある.
  • (1)オスの繁殖価値が姉妹の存在に依存している可能性.(姉妹の防衛がないとオスは不利になる,最初の子がメスだと母親を手伝うために第一子をメスにするメリットが大きいなど)
  • (2)グループサイズが一定上限を超えるとメスの繁殖成功が逆に下がる可能性(この場合にはそれを超えたところでオスのみが生産されることになる)
  • (3)もし最適グループサイズがあるとするなら,最適broodサイズとESS性比の関係は,子の数が整数でなければならないという制限の元で複雑になる
  • グリーフは第3の説明のみがグローバルESS(0.5)とローカルESSの乖離を説明できるので重要だと指摘したが,その後の理論的研究で,0.5がグローバルに期待できる理由はないことが明らかになっている.

なかなか複雑だ.(1)と(2)は排他的ではないように思われるし.(3)は観察される傾向を説明できていないのではないかという印象だ.いずれにせよウエストはさらなるリサーチが必要だと結論している.


3.3.2.2 ほかのハチ

上記のハチ以外の2種のハチでメスに傾いたLRE性比が示唆されている.

Diadasina distinctax

  • 亜熱帯のハチ.このハチでは季節により性比が変わり,春先には0.2程度なものが夏の終わりには0.6程度になる(この間に5世代経過する).メスの方が3倍大きいので,全体性投資比は常にメスに偏っている.
  • メスは分散せず姉妹と共同営巣し,姉妹の多い巣は成長も早く,大きいほど捕食率が下がる.これはLREによるメスに傾いた性比を示唆している.
  • 巣の成長は指数関数的になるので特に春先に姉妹が多いことが最終的な巣の大きさに効いてくる.これは性比の季節変化をうまく説明する.
  • Allodapini属のハチにおけるLREの説明と以下の類似点がある.(1)LMCや世代重複などの代替説明が除外できる(2)すべての詳細を理論的に完全に説明できているわけではない(3)特になぜ分離性比が実現していないのかが謎として残っている.


Xylocopa sulcatipes

  • 大きなクマバチの一種.この種では性比はおおむね0.4で,常にメスに傾いている.メスの方が1.2倍大きく,性投資比は0.36程度ということになる.
  • 卵の産み付け順と性比に相関がある.クラッチサイズは3から6程度.最初の卵から産まれる子はほとんどメスで平均性比は0.02,最後の卵からの性比は0.65から0.75程度になる
  • リサーチをしたスタークは,最初の子は母親と共同して巣を防衛するので特に重要で,大きくLREが働くのではないかと主張している.これは鳥のヘルパーに見られる現象とよく似ている.また娘は両方の性の兄弟を助けるので分離性比を予測しないのでほかのハチたちのような謎はない.
  • なおやるべきことは残っている.(1)代替説明の吟味が不足している(2)LREの効果の定量的の実証が行われていない(3)全体性比の偏りを予測する完全な理論はない.


ハチのリサーチの詳細は楽しい.やはり半倍数体であると母親による性比操作が簡単なので,いろいろ面白い例が見つかるのだろう.理論的に予測される分離性比がなかなか観察できないというのも興味深いところだ.