「Sex Allocation」 第4章 血縁者間の相互作用2:局所配偶競争(LMC) その6

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)



4.4.4 その他の分類群


LMCの局所条件に合わせた性比調節のその他の分類群での観察例は少ない.それらも生活史が複雑なので拡張モデルで扱うべきものが多い.それらは第5章で扱う.
ここではアリ,原生生物,同時雌雄同体生物におけるベイシックなテストが行われた例を取り上げる.


<アリ>
アリでは通常婚姻飛行で交尾が生じるのでLMCはまれだ.しかし例外的に生まれコロニーで交尾が生じる場合,あるいは婚姻飛行が非常に小規模な場合にはLMCが生じうる.
LMCの局所条件に合わせた性比調節の,最も明瞭なケースはキイロハダカアリ Cardiocondyla obscurior のものだ.このアリには有翅と無翅のオスの2型があり,無翅のものは分散せず,生まれコロニーの処女女王と交尾する.クレマーとハインツはコロニーの女王数が2以上の場合には女王が1匹の場合より性比のメスへの傾きが弱いことを見つけた.ただし交尾は生まれコロニーの外でも生じうるので,モデルとの定量的テストには向かない.


マラリア原虫>
マラリア原虫がLMCのレベルに応じて性比調節をしているかどうかについて議論がある.交尾は最終ホスト血管内から中間ホストに吸血された直後にその腸内で生じる.だから原虫がホスト内の原虫間の遺伝的多様性についてアセスできれば調整する方が有利になる.
実際にトカゲや齧歯類マラリアについてのリサーチでは生殖母細胞濃度と性比に相関がみられた.これはクローンが多いと生殖母細胞密度が高くなるとすると予測されるパターンだ.またクローンが多い方が密度が高くなる証拠もある.
しかしヒトや鳥類のマラリアではこの相関は見いだされていない.トカゲのマラリアでのマラリア原虫の系統数を操作した実験でも性比に影響は見られなかった.
最新の分子的テクニックを使ったマウスの実験では感染数が増えると性比はよりオスに傾いた.しかし原虫がどのようにLMC強度についてアセスしているのかはわかっていない.ウエストはさらにリサーチが望まれるとコメントしている.


<雌雄同体生物>
いくつかの同時雌雄同体生物で交尾グループサイズ依存の性比調節が生じている報告されている.交尾グループが小さいとよりメス機能に投資するのだ.報告されているのは東オーストラリアのフジツボ,寄生性扁形動物,自由生活性扁形動物,ヒル,多毛類などだ.
エストは,特に有用なのはLMC効果が密度効果と分離できているリサーチだとコメントしている.密度が高いと個体は小さくなり,繁殖に回すリソースも減り,メスへの投資費も減るからだ(なぜ全繁殖に回すリソースが減ると最適性比が小さくなるのかについては第5章で扱われる).また雌雄同株植物では雌雄同株個体とオスのみの個体が共存する場合があるが,この場合には高い密度は同株個体の自家受粉を減少させ,最適性比は増加する.このあたりも複雑でなかなか興味深い.


4.5 結論と将来の方向


<結論>
エストは以下の通り本章をまとめている

  • 本章ではハミルトンのオリジナルモデルを扱った.それは以下のことが説明できる.
  1. 多くの生物群におけるメスに傾いた性比
  2. 種間や個体群間の性比の多様性
  3. 局所条件への性比調節
  • 次章ではこのモデルの拡張を扱う.


<将来の方向>
またウエストは次のように将来の方向を整理している.

  1. なお限られた分類群の生物しかリサーチされていない.多くのリサーチ候補が残っている.例としては社会性と非社会性のクモの比較,有翅と無翅のアブラムシの比較,多毛類,シラミ,樹皮下の甲虫などがある.
  2. 分子分析の進展はNやfの推定を容易にしている.
  3. 系統効果をきちんと考慮した比較分析
  4. LMCが報告されている性比がメスに傾いた多くの動物群で,局所条件調節があるのかがなお調べられていない.
  5. 局所条件性比調節の至近メカニズムのリサーチ
  6. 局所条件性比調節が期待されながら見つからないケースについての深いリサーチ


<テストに関してのコメント>
エストは最後に以下のコメントをしている.

  • 理論の検証能力は,理論がどこまで現実を単純化しているかによって異なる.単純化による制限には以下のものがある
  1. 局所条件性比調節があるかもしれないが,集団の平均性比だけを扱っている
  2. 局所条件性比調節を行う際の条件の範囲
  • 最も強力な検証は比較リサーチによって得られる.
  • このようなことをよく考慮すると,これまで量的な理論性比を検証できたリサーチはある程度幸運も作用した結果だとすべきだとわかる.次章の拡張モデルを見るとそれはさらによくわかるだろう.


この最後のコメントには含蓄がある.性比理論は量的な検証を可能にした進化生物学の偉大な理論だとよくいわれるが,そのものずばりの性比予測は非常に難しいのだ.