「The Sense of Style」第6章収録の各論について その4 

The Sense of Style: The Thinking Person’s Guide to Writing in the 21st Century

The Sense of Style: The Thinking Person’s Guide to Writing in the 21st Century


しばらく間が空いたが,ピンカーの「The Sense of Style」の第6章各論には文法以外の部分も扱われている.ここも相当面白いので紹介しておこう.


<用語選択>

純粋主義者が「ある意味でしか使ってはいけない」と主張するが,実際には別の意味でもよく使われるようになっているという語は多い.しかしそれは多くの人が違和感なく使っているし,中には古くからある用法もある.ピンカーはこれらについては認めて良いとして一覧表にしている.いくつか紹介しよう

純粋主義者がこれしか認めない意味 よく使われる意味
anticipate 前もって用意する,未然に防ぐ 予測する
comprise 〜を包む 〜から成る
convince 〜ということを信じさせる (説得して)〜をさせる
decimate 〜の1/10を殺す 〜の多くを破壊する
Frankenstein 怪物を作った博士 怪物そのもの
graduate 卒業させる 卒業する
healthy 健康な 健康に良い
hopefully (動詞節を修飾して)希望を持つ様子で (文を修飾して)願わくは
intrigue (名)陰謀 (動)興味を引きつける
livid (あざの色を形容して)青黒い 激怒した
masterful 支配的な,傲慢な 技量の優れた
momentarily 一瞬の間 すぐに
nauseous 吐き気を催させる 吐き気を催した
presently やがて,まもなく
raise (家畜や栽培作物を)育てる (人間の子供を)育てる
transpire 知られるようになる 生じる,発生する
while 〜している間に 〜である一方,〜なのに
whose 誰の(人に対してのみ用いる) それの


基本的にピンカーは広く使われている用法はそのまま認めるが,それでも誤用から生じて英語のルール(同じルートに異なる接辞がついた語は異なる意味になる)を破る用法について,英語の明晰性を損ねるとし「これについては私は純粋主義者だ」としていくつか提示している.ここは「自分の主義主張大原則には反してしまうことになるが,そして皆がそれでいいといっても,これだけは認めたくない」というアンビバレントな想いがあふれていてコメントが面白い.

   語     望ましい用法としての意味 問題ある用法としての意味 コメント
adverse 有害な 嫌がっている averseとの混同
appraise 評価する,見積もる 知らせる appriseとの混同
beg the question (循環論法で)質問をごまかす 質問を提示する 学問の世界では「循環論法でごまかす」は定着した用法
bemused 困惑した 面白がっている amusedとの混同
credible 信頼できる 騙されやすい credulousとの混同
depreciate 価値を低く評価する 貶める,けなす deprecateとの混同
dichotomy 2つの互いに排他的な選択肢 相違点,食い違い おしゃれっぽい用語に飛びついた誤用
disinterested 不偏の 興味のない 「興味のない」という用法は古くからあるが,uninterestedという語がある以上使わない方が良い
enormity 極端な残虐,邪悪 膨大さ,途方もなさ この誤用も古くからあるが,注意深い書き手は邪悪な意味があるときしか使わない
flaunt 誇示する,見せびらかす 侮る,侮辱する floutとの混同
flounder 問題を抱える,苦労する 沈む founderとの混同,意味としては関連するので可換であることが多い
fullsome 過度の 多量の 「多量の」の用法も古くからあるが,これを嫌う人が多い
hone in on 焦点を合わせる home in on の誤用
intern 拘束する 埋める interとの混同
ironic 皮肉な,反語的な 不幸な,不便な あなたはその使い方をやめないだろう.でも私はあなたが意図した意味でそれを解釈することはない
irregardless 〜にもかかわらず regardlessの誤用
literally 文字通り 比喩的に この誤用は多く,多くの注意深い読者を非常に不快にさせる
luxuriant 豊富な 贅沢な 「贅沢な」という用法は間違いとは言えないが,luxuriousという語を使う方が良い
meretricious 見かけ倒しの 賞賛に値する もともと娼婦を形容した語から来ている.meritoriousとの混同
mitigate 和らげる 妨げる militateとの混同
noisome 不快な,臭う うるさい annoyから派生した語,noisyの意味はない
opportunism 日和見主義 機会を切り拓く(良い意味で用いる) もともとは貶す用語なので誤用すると深い誤解を招く恐れがある
parameter パラメータ,媒介変数 境界条件 perimeterの連想からくる誤用
politically correct ドグマ的に左派リベラルな おしゃれな,トレンディな もともと皮肉を込めた意味で使われる
practicable 実行可能な 実務的な practicalとの混同
proscribe 禁止する 処方する prescribeとの混同
protagonist 主役,主人公 支持者,提唱者 proponentとの混同
refute 間違いであることを証明する 間違いだと主張する refuteはfactive動詞であり「確かにそれが間違いであり,その証明に成功する」という意味を持つ.factiveでないことを認める人も多いが,この区別はリスペクトするに値する用法だ
reticent 寡黙な 渋っている,いやがっている reluctantとの混同.この誤用は多くの人が嫌っている
simplistic (悪い意味で)過度に単純な (いい意味で)単純な simpleを使えばいいところファンシーな語に飛びついたことに始まる誤用
staunch 誠実な (流れを)止める stanchとの混同
tortuous 曲がりくねった ひどく苦しい torturousとの混同
unexceptionable 非の打ち所がない 面白みのない unexceptionalとの混同.これもファンシーな語に飛びついたことによる誤用
untenable 防衛不可能な,守り切れない 辛い,耐えられない 両者を合わせたような「支えきれずにつらくて耐えられない」という意味は認められつつある
verbal 言語の,言葉の 口頭の 「口頭の」という意味はかなり古くからありもはや間違いだとは言えないが,やはり混乱を招きやすく,きちんとoralを使う方が明解だ

日本でいうと漢字熟語の誤用に似ているようでもある.リベラルのピンカーにとっても「politically correct」というのはかなり悪い意味に使う用語として認識されているようで,面白い.「refute」が本来factiveであることは知らなかった.日本語だと「知る」以外のfactive動詞はあまりないのでlearn,regret,rememberなどと合わせて難しいところだ.


このほかに以下の用法にも苦言を呈している.

  • as far asの後にis concernedを省略すること(読者はこれがないと落ち着かない気持ちになる)
  • criteria, data, phenomenaなどを単数形あるいは不可算の物質名詞として扱うこと
  • shrunk, sprung, stunk, sunkなどを過去分詞でなく過去形として使うこと

最後の2つはかなり泣き言に近くて面白いところだ.


また特に似た発音の2つの語の混同による混乱は耐えがたいとして,別途に扱っている.

effectとaffect

正しい意味,用法
effect(名詞) 影響,効果
to effect 〜を(結果や効果を)もたらす
to affect(1) 〜に(〜の生活・仕事・結果などに)変化・影響をもたらす
to affect(2) 装う,フェイクする,振りをする

このそれぞれでeffectとaffectの取り違えがみられるそうだ.(一部は辞書にも非標準用法として収録されている) 2番目と3番目の違いは難しい.例文で言うと「I effected all the changes recommended by Strunk and White.」「Strunk and White affected my writing style.」(Strunk and Whiteは有名なスタイルマニュアルの名前)ということになる.
なおaffectには名詞の用法もあるが,それは(発音も異なり)「感情」とか「情緒」を表す心理学用語になる


layとlie

正しい意味 3人称単数現在形 過去形 過去分詞
to lie 寝ころぶ,横たわる lies lay lain
to lay 置く,横たえる.横に寝かす lays laid laid
to lie 嘘をつく lies lied lied

これは日本の英語教育でも間違えやすいところとして有名なところだろう.ピンカーによるとこれはlayという形を取り合うために特に混同が生じやすく,注意深い書き手であっても古くから混同が見られるのだそうだ.