第8回日本人間行動進化学会参加日誌 大会初日 その1 

2015年の人間行動進化学会は,12月5日6日,総研大葉山キャンパスでの開催となった.今回は行動生態学の理論家で素晴らしいリサーチを量産しているHanna Kokkoさんが招待講演をするというのが大目玉だ.前回の葉山開催は研究会時代の2007年で8年ぶりということになる.三浦丘陵の風光明媚な丘の上のキャンパスは相変わらず素晴らしく,瀟洒な街並みと似合っている.公共交通の便はよくないが,車で横浜横須賀道路からアクセスすると逗子インターからすぐのところだ.当日は天気もよく相模湾の向こうに富士がよく見える.

大会初日 12月5日

開会挨拶 長谷川眞理子大会委員長

これまでの研究会,学会の歴史を振り返り,ここ総研大は生活には不便だが(唯一の買い物場所だったユニオンがつぶれてからファミマができるまでの何年かは大変だったそうだ)その分どこにも行くところはないので学問と議論に集中してくださいとのことだった.

確かに湘南国際村の入り口にはこの前来たときにはなかったファミマが開店しており(あとでGoogleマップを見るとすぐそばにファミマの研修所があるようだ,デベロッパーとの間ではいろいろあったのかもしれない),賑わってるようだ.あとで散歩してみたが,確かにユニオンは閉店していた.元々何故ここに輸入品を中心に扱う店があったのかがそもそもの謎だ.


口頭セッション 1


向社会行動は「今ここ」型意思決定の制約をどう越えるか 〜問題設定と実験の紹介〜 齋藤美松


内集団の互恵的な利他行動には,ヒューリスティックや情動などの自動的な判断過程(以降「今ここ型の自動判断と呼ぶ)が働き,農耕以降のグローバルな利他行動には熟考的な判断が必要になるとされている.後者は進化時間ではなく歴史時間で現れてきたものだからだ.アフリカの飢饉に対する募金に応じるには,彼等の苦境を今ここにあるように想像し,さらに周りの人々の行動がどうなっているかという社会的判断も加味されて決定されるとされている.
ここではそれを実験的に測定してみた.
被験者にまず寄付行動の研究への協力(ユニセフのアフリカへ飢饉難民とシリアの難民への募金のポスターについての印象のアンケート)を依頼し,報酬を与える.そこで「唐突ですが,このどちらかのプロジェクトにこの報酬をもって募金をお願いできませんか」と問いかける.そこでいったん決定してもらって,さらに過去の被験者がどういう行動をとったかのデータを見せて決定を変えるかどうかを聞く.その際に決定までの反応時間等を測定する.
結果,最初の決定で半数ほどが募金に応じた.反応時間は募金に応じる方が長くかかった.これは熟考的な処理に時間がとられていると解釈できる.続いて社会的判断だが,判断変更は,もともとの被験者の判断が優勢側で,それを劣勢側に変更するという場合にのみ見られた.そして瞳孔サイズまで調べると,この判断変更は自動的な処理が効いているようであった.これは日本にいるごく少数サンプルの被験者の反応であり,ローカルな情報を情動的に処理していると解釈できる.


予想通りの結果で面白い.なお関連するポスター発表をみると,最後の判断変更する被験者は,資料の写真部分により反応している傾向があったということだ.より情動的(つまり可哀想だから)という理由で募金する人は可哀想な子供の写真により引き付けられるし,ほかの人の募金が少ないのは可哀想と思うから判断変更するのだろう.


How do the young and old generations of our society cooperate?: An economic experimental approach providing evidence for the overlapping generation mechanism 深代麻緒


現代社会では世代間の平等というのが社会問題の1つになっている.そこで世代が重複するという場合にどのような世代間協力が生じうるのかの理論研究を実証的に確かめてみたというもの.
世代重複しながら囚人ジレンマゲームを行う場合に,上の世代が若いときにどう振る舞っていたかを知ることができる場合にどのような形で戦略が淘汰されるかを見る.すると直近世代だけでなくすべての世代のヒストリーを参照できた場合には実際に協力が進化することがわかったというもの.

短い発表なので(そして私が原理論研究を知らないこともあって),世代重複ゲームの詳細とか,何故すべて非協力が進化しない形になっているのかなどがよくわからなかった.なかなか面白いゲーム理論分野なのかもしれない.


知恵の伝承場面における感謝と制御適合 田渕恵


知恵は世代間伝承されるが,どうすればうまく伝わるか(若者からうざがられないか)を探求するという発表.
知恵の価値は前世代の知識を得ることによって行動をより良い方に変えられる(制御適合)ところにある.この制御適合については促進焦点(何かを達成したい)によるものと予防焦点(何かを避けたい)によるものがある.そして調べてみると若者は同世代のアドバイスは促進焦点のものを評価するが,上の世代からのアドバイスについては促進焦点のアドバイスより予防焦点のアドバイスを受け入れる.

これは何故だろうか.それはおそらくアドバイスの内容が役に立つかどうか,そしてその内容の新奇性にあるのだと思われる.つまり老人からの促進焦点のアドバイスは「知ってることばかり」な傾向があるのだろう.そこで2つの仮説「自分の焦点とアドバイスの焦点が不適合状態にある方が感謝する」「その際にアドバイスの内容に新奇性があれば感謝する」の2つを立てて調べてみた.
被験者(若者)にOBからのアドバイスレター(と教示するもの)を読んでもらい,その書き手についての情報(若者,中年,老人),内容(促進焦点,予防焦点)を変えてアンケート調査する.その結果,若者からと教示されたレターの場合には焦点が合っている方が感謝されたが,老人からと教示された場合には逆になった.(中年では差が無かった)
(詳細はわからなかったが,さらに分析し)世代が異なることから新奇性が期待され,不適合の方が感謝されるらしいとまとめていた.


Q&Aではコントロールが必要ではないかということから話が広がって様々な議論が行われて面白かった.



以上で午前中の発表は終了だ.お昼は学会事務局手配のお弁当をいただいた.
これは総研大から少し行ったところから見た相模湾と富士.