- 作者: ブライアン・スウィーテク,桃井緑美子
- 出版社/メーカー: 白揚社
- 発売日: 2015/07/04
- メディア: 単行本
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本書はLaelapsブログ(http://www.wired.com/wiredscience/laelaps)で有名な古生物学マニアでかつサイエンスライターであるブライアン・スウィーテクによる恐竜を扱った一冊.前作「移行化石の発見」に続く第2作になる.そして古生物学マニアということから予想がつく通り,スウィーテクは子供の頃からの恐竜ファンであり,その恐竜愛にあふれた本になっている.原題は「My Beloved Brontosaurus」
冒頭では子供の頃の恐竜にまつわる想い出が書かれている.幼稚園の「恐竜の夕べ」(!)という催し物において著者はステゴザウルスの役(!)になってアロサウルスと戦うのだが,ステゴザウルスが負ける台本に納得がいかず(骨をも砕く尾のスパイクがあるのだから!)その場で役柄を無視して大暴れしたそうだ.
第1章では子供の頃に愛した恐竜のイメージが最新の恐竜学によって大幅に書き換えられていることについて哀愁たっぷりに語っている.特に沼地に棲むブロントサウルスが名前まで失っているのは確かに切ない.これはかつてスティーヴン・ジェイ・グールドもエッセイを書いている通りで,全世界の中年恐竜ファン共通の思いだろう*1.著者はその経緯を詳しく紹介し,そして発掘の実際,主要な恐竜の系統樹を含む概説をしている.
第2章は恐竜が成功した理由がテーマになる.これもかつては四肢あるいは後肢の直立による運動能力の向上だけで簡単に説明されていたのだが,著者は現在では恐竜勃興時にワニ類にも直立に近い姿勢を持つものがいたことがわかっていてそれほど単純には説明できないのだと力説している.著者はこのあたりを恐竜発見時の学説の変遷,近縁動物群との関係を交えて,ペルム紀の大絶滅からいかに速く放散できたかという偶然の要素も大きいのだと解説している.
第3章は恐竜の性.化石から恐竜の性別を判定する難しさが解説されたあと,どのような交尾姿勢をとっていたかが妄想たくましくいろいろ考察されている.確かに剣竜類の交尾姿勢にはどのようにスパイクを避けたのかを含め謎が多い.ここは割と自由に書かれていて読んでいて楽しい.
第4章ではジャック・ホーナーの最近の爆弾「これまで新種とされていた多くの恐竜は単に同一種の異なる成長段階のものではないか」が取り上げられている.角竜類の成長過程と合わせて詳しい.この話題は恐竜ファンにとって結構センセーショナルな割にはこれまであまり一般向けの本には取り上げられていないところで,本書の魅力の1つだ.
第5章は竜脚類恐竜.ここでは「史上最大の恐竜は何か」という話題が振られている.あまり専門的な本では取り上げられることがないがいかにも中二病的で楽しい話題だ.これは70年代まではブラキオサウルスとされていたのが,スーパーサウルス,ウルトラサウロス,セイズモサウルス,アルゼンチノサウルスなど*2がどんどん名乗りを上げてなんだかよくわからなくなっているところだ.著者はこのあたりは骨の一部からの推定なので異説がいろいろとあることを解説しつつ,お気に入りとしてアンフィコエリアスを挙げてその行方不明になっていた化石骨の再発見の経緯を語っている.このほかにも長い首の謎,恒温性などが取り上げられている.
第6章は化石の話.著者の発掘体験を交えながら,ボーンヘッド,足跡化石,そのような多くの化石から何がわかるかについてオストロムのデイノニクスのリサーチ,竜脚類の移動様式や群れの形成,トリケラトプスの角やパキケファロサウルスの頭蓋ドームの役割などについての推測が解説されている.
第7章は羽毛.これは近時いろいろなところで詳しく解説されているところ,著者はアメリカにある始祖鳥化石を見に行ったことを交えながら,鳥類の起源学説史や様々な羽毛恐竜化石を解説し,そして今やほとんどの恐竜が(少なくともフィラメント状の)羽毛を(少なくとも身体の一部分には)持っていたことがかなり明らかだ(つまりおそらく羽毛は全恐竜の共通祖先形質だった可能性が高い)とし,背中がふわふわの竜脚類や獣脚類のイラストともに説明している.
第8章はハドロサウルスの音声コミュニケーションとティラノサウルスの臭覚が優れていたことについて.現在パラサウロロフスなどのハドロサウルス類の頭部は音声の共鳴器官であり,その多様性から見て性淘汰形質である可能性が高いとされているが,本章前半ではこれについての学説史が解説されている.後半では脳のキャストから臭覚が発達していたかどうかが推測できること,そしてティラノサウルスの臭覚が優れていたと考えられることが扱われ,さらにティラノサウルス腐肉食説について触れている.著者はティラノサウルスは当時の生態系の中で圧倒的に強大であり,狩猟もできたし,腐肉があればもちろんそれも食べただろうとコメントしている.
第9章は恐竜への寄生生物.シカゴにあるティラノサウルス「スー」の化石から彼女が原生生物に寄生され,顎に重度の潰瘍が生じていたことが明らかになった.その他では糞化石からいくつかの寄生生物の証拠があり,また中生代に分岐しているシラミの系統樹から恐竜もシラミに寄生されていたことが推測される.著者は最後に19カ所もの傷跡のあるアロサウルスの化石の話を置いている.
第10章は恐竜絶滅.これも最近よく解説されているところだ.著者はアルバレス説以降の学説史を紹介し,巨大隕石は確かに大きなインパクトを与えたがそれ以外の状況の理解も重要だろうと締めている.
本書は子供の頃から恐竜が大好きだったサイエンスライターによる思い入れのこもった恐竜本だ.特別に優れた解説があるわけではないが,自分の恐竜体験(著者は恐竜が好きなあまり生活の場をユタ州に移すのだがそのあたりまで含めていろいろと書かれている)を交えながら楽しそうに語っているのが魅力だろう.恐竜ファンなら感情移入しながら読める軽めの一冊というところだ.
関連書籍
原書
My Beloved Brontosaurus: On the Road with Old Bones, New Science, and Our Favorite Dinosaurs
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同原書
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The Dinosaur Heresies: New Theories Unlocking the Mystery of the Dinosaurs and Their Extinction
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羽毛問題はこの本が詳しい.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20130524
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