Language, Cognition, and Human Nature 第4論文 「ヒトの物体認知はどのようなときに観察者中心フレームを使うのか」 その2

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

導入


ピンカーは,網膜へ投影されるイメージが対象物体の移動や回転によって変化するにもかかわらず,その同一性を認知できるということはヒトの視覚認知にとってもコンピュータの画像解析にとっても重要な問題になると指摘し,ここまでの議論を整理する.

<マーと西村(1978)の説明>

  • 視覚システムは物体中心の座標を持ち,物体のパーツの軸に対しての対称性,伸縮,移動を記述する.(この結果,物体の観察者に対する向きにかかわらず記述は同一になる)
  • そして(同一性判定の際には)提示された物体についてのこの記述を,記憶の中にある物体についての同じフォーマットの記述と比較する


<代替的な説明,ロック(1974),ターとピンカー(1989)>

  • (提示された物体の視覚情報の)入力は一旦規範的な方向に変換され,記憶の中にあるその方向からの記述と比較される.


ここから論文の取り組みが解説される.

  • われわれはこの論文においてヒトがいつどのようにしてこの比較メカニズムを使うかを調べる実験結果を報告する.
  • 実験デザインはシェパードたちの「ヒトはメンタルローテーションというアナログの視覚変換プロセスを持つ」という発見に依存している.
  • メンタルローテーションの重要な特徴は,比較のために必要な回転角度が大きくなるほど,同一性の判断に時間がかかるということだ.そしてこれは回転させるプロセスそれ自体から来る特徴であることが別の証拠からわかっている.被験者はイメージが提示されてからそれを連続的に回転させていくのだ.
  • ただし,メンタルローテーションというメカニズムがあるということが,すなわちそれが物体認知に使われているということを意味するわけではない.
  • 多くのメンタルローテーションタスクは被験者があるイメージとその鏡映反転イメージを区別することを要求する.
  • だから「人々は一般的には物体中心座標システムを使っているが,その座標システムは左右反転イメージに同じ記述がなされうるもので,明白な左右性記述がない場合にのみ左右性の判断についてローテーションを使う」ということはありうる.
  • 入力イメージが観察者から見て明白な上下の軸を持ち,その左右が明白に異なっていれば,そのイメージは(物体中心座標であっても)左右性の記述が可能であり,(ローテーションなしでも)左右性の判断が可能になり得る.
  • 実際に被験者にイメージに名前をつけることを要求すると,反応時間の方向効果はほとんどなくなることが報告されている.(コーバリスほか 1978)
  • しかしこれは決定的とはいえない.もしイメージが方向とは関連のない局所的な特徴(例えばあるイメージのみカーブした線を持つなど)で区別されているなら被験者は簡単にショートカットできるだろう.さらによく使われているアルファベット形状は過学習されていて多重的なイメージで記憶されている可能性がある.(例えばいろいろな方向から見たAの形を学習済みなど)もしそうなら様々な角度のイメージに対して同じ時間で反応できるだろう.


<実験デザイン>
まず上記の問題を避けるために工夫されたテストイメージが示される.ここでは様々な抽象的なイメージが図示されている*1
すべて上下の軸を明示(これをピンカーは本質的な軸と読んでいる)し,下部には水平のバーのマークをつけて上下が判別できるようにしている.テストイメージは(A)左右対象イメージ,(B)微妙な左右非対称イメージ,(C)大きく歪んだ左右非対称イメージ,(D)冗長性のある左右非対称イメージが7つずつの4グループがある.それぞれのグループ内では同じパーツを同じ数使っており,その配置のみを変えている.
実験はイメージグループごとに行う.最初に上下の方向を変えずに3パターン,名前付きで提示する.その後方向を変えた7つのテストイメージを提示して名前をつけたパターンと一致するかどうかの同一性判別を行う.


続いて結果が示される.

*1:これらのイメージはピンカーの著書「心の仕組み」の第4章でも図4-32,4-33,4-34としてその一部が示されている