第11回日本人間行動進化学会(HBESJ KOCHI)参加日誌 その4

大会2日目 12月2日 その2

 
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土佐犬
 
休息を挟んで最後の口頭セッションに.

口頭セッション 4

 

伝染病の蔓延と集団主義傾向の関連の再検討:階層ベイズモデリングによる検証 堀田結孝

冒頭は2年前のHBESJのとある発表について.

  • 2016年にショーン・リーさんが発表した内容には衝撃を受けた.それはそれまで個人主義文化と主語を必須とする文法に相関があるとされていた通説に対して,系統効果を入れ込み階層ベイズ的に解析するとそのような相関が消えてしまったというものだ.
  • それにインスパイアされて別な問題についても階層ベイズで分析をしてみた.

 

  • 文化心理学者は様々な文化差を記述してきた.そしてそのような差異の要因について気候などの生態要因,政治や制度などの社会要因を考え,それらが規範に影響を与え,そして個人個人の心を形作ると考えてきた.
  • そのようなモデルの一つとして個人主義と伝染病の感染負荷がある.単純に相関をとると伝染病の負荷が高いほど集団主義に傾くように見える.しかしそれはアジアで伝染病が高く集団主義である文化が数多いことによっているようにも見える.この問題はゴールトン効果として意識はされていたが,階層ベイズを取り扱う数理計算が膨大で手つかずだった.しかし近年高性能なベイズモデリングが安価に利用できるようになった.

 

  • そこでこの問題について,系統効果を入れるためにグローバル,ローカル(ヨーロッパ,アジアなど),国という形で階層ベイズモデルを組み,再分析してみた.
  • 今回,伝染病負荷,政府の有効性から個人主義スコア,同調スコアを説明する階層モデルを組み,パラメータをMCMCで推定した.
  • 結果:ほとんどの地域で伝染病負荷と個人主義の関係は有意差を持たなかった.(わずかにヨーロッパの中では少し関連があった)個人主義については政府の有効性の方がはるかに大きな説明力があった.
  • 同調性についても多くの地域では伝染病負荷との関連には有意差がなかった.親の意見への同調性についてはヨーロッパのみ,友人の意見への同調性についてはヨーロッパ,中央アジア,ラテンアメリカ,サブサハラでのみ有意差があった.

 

  • 生態的条件と文化差の説明はこれまで過大評価されていたのではないかと考えられる.

 
系統効果の補正は簡便なやり方もあるような気もする.数理計算量の問題というより意識の低さの問題ではなかったのだろうかという感想.
 
 

サイコパシー傾向と囚人のジレンマ:PD 共起ネットワーク構造に見られる特徴 安念保昌

 
囚人ジレンマの手の推移の観察からわかることについての発表.

利他行動と互恵的利他についての簡単な前振りの後,サイコパスと囚人ジレンマの手の推移についての発表だと説明がある.

  • これまでサイコパスと囚人ジレンマの手の選択については先行研究がいくつもある.協力と負の相関があるとするもの,一般人と差がないとするもの,低協調だとするものなどいろいろだ.
  • しかし手の連鎖について調べたものはない.ここでは繰り返し囚人ジレンマゲームの選択連鎖の構造をサイコパス傾向の行程との関連で調べた.CC, CD, DC, DDをそれぞれ漢字一字で表し,連鎖を文字分析プログラムで解析した.

被験者191人のサイコパス傾向をPSPSで測定し,TFT, allD相手に囚人ジレンマを対戦してもらい,その手の推移をみる.
(ここから現れた細かいネットワーク図の説明が続く)

  • 最終的な解釈:高サイコパス傾向の被験者はCCをゴールとみないで,そこから搾取できる機会だとみている.協力するのは後の搾取のためだということだ.またDDからなんとか脱出しようともがく傾向もある.

 
選択の連鎖という視点は確かにあまりみないものだが,ネットワークから結論に至るところは(少し聞き逃し部分もあるのかもしれないが)単なる主観的解釈の域をでていないような気がする.以前に同じような話を聞いた気がすると思って調べると2013年には連鎖の性差にかかる発表をされていた.
なお冒頭ではサイコパスについて「非情な決断を追求する事態がしばしばある場合に,集団の生き残りに資する」から説明できる旨のコメントしていて,それはサイコパスの進化的説明については露骨なナイーブグループ淘汰的説明で受け入れられないという感想.


以上で口頭発表セクションはすべて終了.
 
若手発表賞は口頭発表がヴァソプレシンの河田さん,ポスターが上島さんと中田さんだった.副賞はよさこいの鳴子.札への打刻は「打勝」(これはダーウィンと読むそうだ)としたそうだ.
 

長谷川真理子会長の閉会挨拶

 

  • 発表賞の審査は難航しいずれも僅差だったと聞いている.受賞されなかった方もそういうことだからがっかりされないようにお願いしたい.
  • 今年も面白い発表があり,闊達な議論があり,たくさんの刺激をいただいた.本学会も第11回ということだが,だんだん幅も広がり議論も深まるようになっている.最近はいろいろ新しいテーマやアプローチも聞けるようになった.さらに深みのある研究が進むことを期待したい.最後にスタッフのみなさまに感謝したい.(拍手)

 
 
以上をもって2018年のHBESJは終了した.いつも通り,いろいろ面白い発表が聞けた充実した大会だった.
大会委員長の三船さんはじめとする関係者のみなさま,また高知工科大学のスタッフのみなさまにはここで改めて謝意を表しておきたい.ありがとうございました.
 
 

追録 牧野植物園訪問記

 
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当日東京に戻ることも可能だったが,せっかく四国まで来ているのだからともう一泊して観光することにしていた.しかし翌日は無情の雨.
それでもここはどうしても行きたいと思っていたので高知県立牧野植物園を訪れた.12月の雨の月曜日とあって場内は閑散.しかしここはすばらしかった.
高知市にほど近い山の広大な敷地に各種植物が栽培されており,きれいにラベリングされている.ちょうど紅葉の時期で,いかにも趣がある.さらに牧野富太郎の生涯と業績にかかる展示があり,詳しくない人にも退屈せずにストーリーを楽しむことができる.本館,展示館とも新しい美しい建物で,植物に詳しい人なら何時間でも楽しめるだろう(こういうところに来るともう少し植物も勉強しておけばよかったといつも思ってしまうが,これは不徳のいたすところで致し方ない).

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大会初日の招待講演で紹介されたノジギクとシオギクもちゃんと栽培されて展示されている.豆知識があるとやはり楽しい.
 
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そしてなんと正門のそばでやはり講演で話に出た雑種個体も見つけてしまった.これはかなり嬉しい.
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牧野博士の生涯と業績の展示も力が入っている.
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ちょうど開催されていた企画展「標本の世界」もよかった.
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快く撮影に応じていただいた研究者のお姿


高知に来られる方は桂浜や龍馬博物館だけでなく,牧野植物園にも足をのばすことをおすすめしておきたい.f:id:shorebird:20181213195334j:plainf:id:shorebird:20181213195409j:plainf:id:shorebird:20181213195428j:plainf:id:shorebird:20181213195440j:plainf:id:shorebird:20181213195451j:plainf:id:shorebird:20181213195501j:plain


<HBESJ参加日誌 完>