Virtue Signaling その17


Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

  • 作者:Geoffrey Miller
  • 出版社/メーカー: Cambrian Moon
  • 発売日: 2019/09/17
  • メディア: Kindle版
 
長大な論文が終了し,ここからは最近のエッセイになる.
 

第5エッセイ Googleメモ その1

 
冒頭の解説では社会正義の見せびらかし屋たちによる大学におけるフリースピーチ(言論の自由)の圧迫状況が採り上げられている.

  • 2017年の夏,私は全くむかついていた.アメリカは言論の自由からどんどん離れていく.2014年から2016年まで私は自分の大学の委員会で言論の自由のために戦っていた.しかしそれは徒労に終わった.
  • 私は「教育における人権擁護」団体や「異説アカデミー」の人々と共闘していた.しかし多くの左派の同僚たちは「『言論の自由』という概念は忘却された過去の家父長制の遺物であり,『自由』自体が性差別,人種差別,ファシズム,植民地主義を隠すためのブルジョワ的幻想だ」という論陣を張ったのだ.
  • 私は2017年の1月に大学側がこそこそとマイロ・ヤノプルスを我々のキャンパスで講演することから排除しようと動いているのを見た.私は大学側の弁護士が「public law 92-318は合衆国憲法の修正第1条に優先する」と主張したのを聞いた.
  • 私は2016年初頭からツイッターでアクティブに活動するようになり,社会正義戦士たちの文化が議論を乗っ取るのをしばしば目撃するようになった.しかし私はこのような検閲的な徳ディスプレイは主流のメディアやアカデミアでは制限的だろうと楽観していた.それがアメリカの企業文化を覆うようになるとは想像もしていなかった.特に地球でもっとも賢い人々により運営される最強の企業においてそんなことが生じるなんて考えもしていなかった.
  • 2017年7月,Googleメモが流布された.読者はそのストーリーを,そしてその狂気を覚えているだろう.
  • Quilletteは,言論の自由を擁護する姿勢と,徳ディスプレイされる正義の指摘に懐疑的なことで有名な前途有望なオンラインメディアだ.編集者のクレア・リーマンは,このGoogleメモ論争が基本的にシグナリングに関するものだと見破った.彼女は科学的性差について詳しい学者に意見を募った.私はその4人に選ばれ,書いたのがこのエッセイになる.

 
Googleメモとは2017年の7月に(当時)Googleのエンジニアだったジェイムズ・ダモアが公開したメモ「Google's Ideological Echo Chamber」で性差別的だと大騒ぎになったものだ.

このメモの全文はここにある.
Googles Ideological Echo Chamber

 
このメモの基本的内容は,Google社内は1種のイデオロギー的な残響室になっていて「生得的な認知的心理的性差は存在せず,何らかのグループで女性が50%に達していないのは性差別のためだ.これに対する反論は許さない」という状況であることをまず示し,これに対して実証的な事実(生得的な認知傾向,心理傾向に性差があるリサーチがあることなど)を提示し,状況を改善するためのいくつかの提案(例えばダイバーシティについてモラル的に語ることや保守を敵視することをやめてはどうかなど)を行っているものだ.
 
これはちょうどラリー・サマーズがハーバードの総長の辞任を迫られたこととよく似た事案になる.単に生得的性差の実在の問題ではなく,この問題を徳シグナリングの視点から考察するというのがこのエッセイの趣旨ということになる.
 
 
ポリコレとアイデンティティポリティクスによる大学における言論の自由の圧迫に関連する書籍としてはこの本が詳しい.

私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/2019/04/04/172150

また性差とそれに関する論争についてはこの本がある.

私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20140313/1394710018