From Darwin to Derrida その18

 
個体内の遺伝子要素間コンフリクトを扱う第2章「社会的遺伝子」.ここで最終のまとめがおかれている.
 

レプリーズ

 

  • 生物体の遺伝的境界についての私たちの直感的な概念は,ほぼ1つのコレプリコンのメンバーシップ(同じルールに基づいて伝達される遺伝子の組)と一致する.コレプリコンは,メンバーの利益が同じ結果に依存するので,同じ目的を持つユニットとして進化する.これに対して別のコレプリコンの遺伝子は相反する利益を持つ.
  • だからバクテリアの染色体にインサートされたウイルス由来の遺伝子は,その伝達モードが異なることにより,「真のバクテリア遺伝子」とは区別される.そういう遺伝子は,自分たちをウイルス粒子の中に包み込んでホストの死と共に外にあふれ出させることにより,同じ染色体の「真のバクテリア遺伝子」より素速く増殖できる.
  • コレプリコン間の関係はこのような対立的なものでない場合もある.(ウイルスのように)盗みによらずに,価格交渉の余地ある取引によってリソースを得るようなコレプリコンもあり得る.
  • 1つのコレプリコンが内部市場を持たず,共有財産として機能することもある.このメンバーは買い手を探すコスト,価格や質の学習コスト,詐欺リスクを避けることができる.

 

  • バクテリア細胞は通常少ない数のコレプリコンしか持たない(それはしばしば1つだけだ).組換えは稀で,生じたときには勝者と敗者に分かれる.
  • これに対して真核生物では組換えは非常に頻繁だ.そしてそれは勝者や敗者のない分離プロセスを持つ.この場合コレプリコンは,長期的な運命共同体としての組換えのない仲間として協力するわけではない.それは同じルールに従う暫定的なチームメイトとして協力するのだ.高い頻度の組換えは成功するチームプレイヤーの市場を創り出すのだ.

 

  • 真核生物において.配偶子の接合,組換え,減数分裂の性サイクルがなぜあるのかの理由ははっきりわかっているわけではない.しかしそのプロセスは長期的な変動する環境下での個別の遺伝子の生存チャンスを増やしているのだろう.
  • 組換えは(遺伝的に一部を共有する)血縁者を創り出す.血縁者との相互作用は,その一部の遺伝子と別の一部の遺伝子の利益が一致しないために内部的なコンフリクトを創り出す.高いレベルにおける組換えは,内部の秘密結社をばらばらにすることで,低いレベルにおける組換えによるコンフリクトの解決策になり得る.

 
長年この問題を考え抜いてきたヘイグによる枝葉をそぎ落とした本質の解説ということになる.コレプリコン同士の関係は対立,取引,共有財産のどれでも取り得るというのも深い.組換えと性についての究極的な説明を留保しているところも,この問題の一筋縄ではいかないところをよく示しているというところだろう.