書評 「進化生物学からせまる」

進化生物学からせまる (シリーズ群集生態学)

進化生物学からせまる (シリーズ群集生態学)

  • 発売日: 2009/03/01
  • メディア: 単行本

 
本書はシリーズ群集生態学の第2巻になる.出版は2009年で,私としてはアダプティブダイナミクスの勉強のために購入し,該当箇所だけ読んでそのままになっていたところ,先日このシリーズの第1巻「生物群集を理解する」(2020)を読み,これは第2巻もきちんと読まねばと思って取り組んだ一冊になる.
 
群集生態学は「生物群集はどのようなパターンをとり,それはどのように生みだされるのか」を考察する学問であり,特に群集の多様性がなぜ生まれるのか,多様性と生態系の関係がテーマとなってきた.そこでは今ある生物の特徴からの議論が基本であったわけだが,生物である以上当然進化的な視点から考察していくことが実りある知見につながる可能性が高い.本書は進化(および表現可塑性)による生物の特徴の変化が群集にどういう影響を与えるか,そして群集や生態系の特徴がどのような進化を生みだすかが取り扱われている.構成としては第1章で生物特徴の進化(および学習・表現可塑性)が生態系に与える影響が総説的に解説され,第2章〜第6章ではそれぞれ間接相互作用,進化的歴史,表現可塑性,共進化,系統淘汰がテーマとして取り扱われている.そして生態ゲノミクスとアダプティブダイナミクスをテクニカルに解説する長めのコラムがあり,最後にまとめの章がおかれている.第1巻と同じく濃密な書物になっているので,章ごとに私が興味深く感じたところを中心に紹介しよう.
 

第1章 適応による形質の変化が個体群と群集の動態に影響する
  • 1990年代までの群集生態学では生物間相互作用の変化については種内ではなく種間の差異が注目されていた.変化する生物間相互作用の重要性は近年になって理解され始めた.

 
<捕食被食関係>

  • 餌生物の防御形質に可塑性があると,その防御形質と捕食者の個体数の間にフィードバックがかかることで両者の個体数の変化はより緩やかで安定なものになると予想されるが,実証的な研究例は少ない.
  • 学習による回避行動の変化が個体群動態パターンにどういう影響を与えるかはほとんど調べられていない.ただし鳥において脳サイズが大きいほど新奇環境に侵入しやすいという種間比較研究はある.
  • 進化が個体群動態に影響を与えることは50年以上前から指摘され,数理モデルによる理論研究がなされてきた.しかし実証研究でこれらの仮説を明示的に検証できた例は少なく(ワキモンユタトカゲの例が紹介されている:r淘汰的形質とK淘汰的形質があり,捕食者密度に応じて(進化適応として)頻度が変わり,捕食者個体数との相互作用でその頻度が振動している.),形質の進化が与える個体群動態への影響についての統一的な理解はまだ得られていない.(可塑性や学習の影響と進化の影響では,状態変化が継続する時間スケールや変化する範囲が異なり,適応の場合には淘汰圧から形質変化までのタイムラグがある)

 
<食物網>

  • ギルド(同じ資源を似た方法で利用している生物の集まり)内で種によって資源利用の詳細が異なることについては,競争排除説,それぞれ独自に適応が生じた説,過去の競争で資源利用が異なるように進化した説(ニッチ分化説)がある.ニッチ分化説は適応進化により食物網の構造が変化することを捉えたものになる.ニッチ分化説の理論的研究は進化適応より個体群動態が素速く進むことを仮定し,適応動態の平衡状態を求めるものから始まった.

 
<捕食形質や防御形質の変化の効果>

  • 最適採餌理論からは個体群動態に応じてスイッチング捕食が生じることが予測される.これが素速く生じるなら安定化効果が生じ被食者が存続しやすくなると考えられる.最適メニュー選択も同じ効果があると考えられる.
  • 防御形質が捕食者特異的か一般的かによって安定化効果は異なる.捕食者が2種以上あると特異的防御は捕食者の個体群密度によってスイッチされることになり,2種の捕食者の存在を安定化させる.
  • これらの考察には情報の完全性や生物種の識別コストがないことなどの前提があることに注意すべきである.

 

  • 今後の展望としては,変化のメカニズム(可塑的変化,学習,進化)の違い,時間スケール,空間スケールの違いが群集動態への影響にどのような違いをもたらすかの解明が進むことが期待される.

  

第2章 適応と生物群集をむすぶ間接相互作用

 
第2章では形質変化が群集に与える影響のうち,特に3種以上の生物種の相互作用における間接的な影響(間接相互作用:見かけ上ある種が別の種に影響を与えるようには見えないが,第3の種への影響を通じて間接的に影響を与えるもの)が扱われている.
 

  • 間接相互作用には密度介在型と形質介在型がある.間接相互作用をはじめて明確にしたのはペインによる岩礁におけるヒトデ(最上位捕食者)除去実験だ.ヒトデを除去すると被食者のムラサキガイが増え,ムラサキガイの被食者であるカイメンやイソギンチャクが減少した.これはキーストーン種の概念を生んだ.この例は密度介在型の間接作用になる.
  • 形質介在型の間接作用には,食害を受けた植物の(誘導防御反応や補償反応などの)可塑的反応の影響が食植者にとっての資源の質の変化を招き,それが食植者と他の生物の相互作用に影響する例,植物への菌類の感染が植物群集の構造を変える例,捕食を受ける動物の行動変化が他の生物との相互作用に影響する例など数多く報告されている.これは普遍的な現象であり,密度介在型よりも形質介在型の間接相互作用の影響の方が圧倒的に大きいと考えられる.
  • 間接相互作用も生物の環境の1つなので,それに対して進化適応が生じうる.これはつながりのある種間での連鎖的な共進化となる.(虫こぶを作るミバエとミバエの天敵3種にかかる進化動態が解説されている)

 

  • 今後の展望としては,食物網における間接相互作用の重要性,進化生態学アプローチの取り入れ(群集構造や生態系は優占種やキーストーン種の延長された表現型と考えることもできる),分子遺伝学やゲノミクス手法の取り入れなどが期待される.

 

第3章 生物群集を作る進化の歴史

 
第3章では過去の種分化や絶滅(進化的歴史)が現在の生物群集に与えている影響が扱われる.
 

  • 近年の分子データによる系統推定手法の発達により,生物群集を構成するメンバーが系統的に偏っているのかランダムなのかを調べることが容易になった.熱帯雨林の樹木については狭い空間に共存する種は有意に近縁であることが報告された.ウェッブはこれは近縁のために類似した生態学的性質を持っているからではないかと考え,生態的性質と系統関係の様々な場合とそれが生じる原因について整理した.
  • ウェッブの整理は分岐の時期や収斂の有無まで考えると一般的に成り立つとは限らない.特にニッチの分化が進化によって生じるのかどうかが問題とされ,様々なリサーチにつながった.
  • ピーターソンは中米の哺乳類,鳥類,チョウを用いて異所的に生息する近縁な2種の潜在的生息地が大きく異なることを見いだし,これはニッチの保守性のためであるとした.その後のニッチの保守性に関するリサーチが多くなされたが,ニッチの保守性については支持する例も支持しない例もある.ニッチが変わりやすいがどうかは生物によって異なると考えられる.
  • これは基本的には進化の方向性と制約の問題であり,遺伝子制御ネットワーク,遺伝子浸透や移住荷重などの外部的制約の議論につながった.

 

  • 生物群集の構成がどれだけ進化的歴史に影響されるかは移動分散,(ニッチ生態にかかる)形質の進化しやすさによって異なる.進化しやすい場合において,競合2種の形質は資源分布や初期条件によって分化する場合も収斂する場合もある.進化しにくい場合には祖先形質の影響が大きく,系統的に近い2種は競合によってどちらかが絶滅しやすくなる.系統が異なり進化しにくい形質を持つ種が群集を構成する時には異なる機能を持つ種が群集内で共存するようになる.この場合群集の生産性を増大させる可能性がある.

 

  • 生物多様性の決定プロセスについてはニッチ説と中立説の間で争われ,様々な検証リサーチが行われている.また理論的にも移動分散,起源生態ゾーンにおける種分化,種分化率と絶滅率の差(進化的増加率)の重要性が議論された.
  • 低緯度でなぜ多様性が高いのかについてのtropical conservatism仮説は,多様な熱帯の種は熱帯で種分化し最近温帯地域に移動したこと,熱帯と温帯で進化的増加率は異ならないが,生物は熱帯で長い時間をかけて種分化していること,ニッチ形質が安定的であるために熱帯から温帯への移住には制限があること,多くの系統は熱帯で起源していることから説明する.
  • 検証リサーチは様々になされており,鳥や哺乳類では熱帯の方が進化的増加率が高い,熱帯では種分化率も絶滅率も高いなどの結果が報告されている.現時点ではこの問題について断定できることは少ない.

 

  • 種分化率に影響を与える要因には地理的・地史的要因,分断淘汰や多様化淘汰にかかる生態的要因,集団遺伝学的要因,生殖隔離にかかる分子・発生・遺伝的要因などが考えられる.このあたりには様々な議論がある.(分散能力と種分化率の関係,ニッチの空きの重要性,交雑前隔離にかかる形質の重要性,動物の性淘汰形質や植物の受粉促進形質の重要性,同所的種分化の生じやすさなど)

 

  • 群集の構成の影響を与える進化史的なイベントとしては絶滅がある.大量絶滅の様相,大量絶滅時の絶滅の選択性,適応進化が絶滅しやすさにつながる可能性,絶滅しやすい形質はあるか(スペシャリスト,体サイズ,浮遊生活の有無など),系統間,分布域による絶滅率の違い,背景絶滅率に影響を与える歴史的イベント(大陸間の接続,捕食者の出現など),大量絶滅からの復帰過程,現代のヒトによる大量絶滅の様相,絶滅が生じた際の群集や生態系への影響などが議論されている.

 

第4章 他種系における表現型可塑性

 
第4章は2種,3種系における表現型可塑性を扱う.具体的にエゾアカガエルとその捕食者であるサンショウウオ,ヤゴについてのリサーチが詳しく紹介されていて,研究物語のような趣もある章になっている.
  

  • エゾアカガエルは林縁部の水たまりに春先に産卵し,孵ったオタマジャクシは(同じくそこに産卵され孵化した)エゾサンショウウオの幼生に捕食される.
  • エゾサンショウウオ幼生には通常形態と頭でっかち形態がある.頭でっかち形態はオタマジャクシの引き起こす振動により誘導され,オタマジャクシを効率よく丸呑み捕食できる.
  • エゾアカガエルのオタマジャクシには通常形態,膨満形態,高尾形態がある.膨満形態はサンショウウオの近接的手がかりによって,高尾形態は(同じく捕食者である)ヤゴ(を含む多くの水生捕食昆虫)の遠隔的手がかりによって誘導される.膨満形態はオタマジャクシを丸呑みにするサンショウウオ幼生に特化した防御体型であり,高尾形態は(行動防御を通じた)多くの捕食者に対応できる一般的防御体型である.オタマジャクシは捕食者の種類,存在被存在に対して可塑的に形態変更を行える.
  • これらの可塑性は共進化を生じさせていると考えられる.地域的な分析を行った結果,サンショウウオの生息しない島のオタマジャクシは同じサンショウウオ刺激に対して膨満形態への変化が小さく,それには遺伝的基盤があることがわかっている.(コストによる負の淘汰によるものか,中立による有害変異の蓄積によるものかは不明)
  • 今後の展望としては,エコゲノミクスの利用,生物群集全体に与える(共進化形質である)多種可塑性の影響の考察がある.

 

第5章 共進化の地理的モザイクと生物群集

 
第5章では特に共進化が詳しく取り上げられている.
  

  • 共進化は最近まで種レベルの現象としてとらえられてきた.しかし最近同じ2種で起こる共進化であっても地域間で異なる動態がみられることが報告されるようになった.
  • トンプソンは共進化について,「種レベルの自然淘汰の強さは地域間で異なる,共進化の強い地域(ホットスポット)と弱い地域(コールドスポット)がある,地域個体群間で遺伝子流動があると形質の空間的混合が生じる」という地理的モザイク仮説を提唱した.
  • 野外での軍拡競争的共進化事例で詳細がリサーチされているものは少ないが,ツバキシギゾウムシの口吻長とツバキの果皮の厚さの事例については比較的よくわかっている.この系では地域によって共進化のかかり方が異なっており,地理的モザイク仮説を支持している.
  • 地域間で共進化淘汰圧が異なることは,淘汰圧を生む環境が外部環境と他種遺伝子型の両方に関わるからだと考えると理解できる.これは外部環境条件を地理的勾配として組み込んだモデルで解析できる.例えば捕食被食関係では,被食者の増殖率が高く密度効果が少ない環境下では被食者も捕食者も増加して防衛形質に強い淘汰圧がかかり共進化が進む事になる.
  • このモデルは大腸菌とバクテリオファージ系,ツバキとツバキシギゾウムシ系でそれぞれ検証されている.後者の場合緯度が光合成量を決め,それが共進化淘汰圧を決めていることが示されている.

 

  • では外部環境として資源量ではなく群集の種構成を考えるとどうなるだろうか.北米のマガリガの1種はユキノシタの1種の胚珠に産卵する.ユキノシタにとってマガリガは種子食害者であるが送粉者としても機能している.この2種だけの系を見ると(送粉の利益が大きく)相利共生系になる.しかしユキノシタはツリアブなどの他の送粉者がいればマガリガ産卵胚珠を中絶するようになる.これはツリアブなどのジェネラリスト送粉者がどのぐらい存在するかという群集構造が共進化淘汰圧を変えていると見做すことができる.(このほかにダーウィンフィンチの島ごとの種構成と共進化動態の違いについてのリサーチも紹介されている)
  • 北米のロッジポールマツの主要な種子食害者はアカリスになる.この場合マツは基部の鱗片を厚くするという防衛形態をとる.しかしアカリスのいない地域ではイスカが主要な食害者になり,そのような地域ではマツは先端部の鱗片を厚くして防衛する.イスカはリスのいる地域では(イスカ向きの防衛がないので)比較的細くて曲がりの緩いクチバシをしているが,リスのいない地域では大きくて曲がったクチバシをしている.これはリスの有無によりイスカとマツの共進化淘汰圧が異なっているとみることができる.そして(中間的なクチバシではどちらの地域でも不利になるため)地域ごとにクチバシ形態が離散的に異なる個体群となったイスカにはさえずり音の変化から生殖隔離が進行する可能性が生じる.実際イスカはクチバシの形態とさえずりで分類される9つのコールタイプからなる種群を形成している.これは群集構造から受けた共進化淘汰圧の違いがさらに群集構造に影響を与える例とみることができる.

 

  • 地域個体群間の遺伝的交流は共進化にどのような影響を与えるか.局所適応は遺伝子流動の程度によりマイナスの効果とプラスの効果を受ける.局所的にそれぞれの最適形質に安定化淘汰がかかっているとするなら,遺伝子流動頻度が高い場合には個体群間の適応的分化を生じにくくさせ,頻度が低い場合には有効な突然変異の源となって適応が進むことになる.
  • ツバキとツバキシギゾウムシの共進化系について調べてみると,ゾウムシの個体群間の遺伝的変異が小さいにもかかわらず,口吻長の日本各地の地理的分化を説明する最も重要な機構はツバキの防衛形質に対する局所的適応であり,遺伝的流動や遺伝的浮動などの中立的な要因の効果は小さかった.ただし数キロメートル程度のさらに小さなスケールでの地理的分化については遺伝的流動がマイナスの効果を与えている可能性がある.
  • 共進化系の2種で移動分散能力が大きく異なっている場合には,移動分散能力が小さい種は局所的最適に分化し,能力が大きい種はそれぞれの地域で有利になる対立遺伝子を移動によって供給するという形になることがある.(アマとサビ菌の例が解説されている)
  • 両種の遺伝子流動が軍拡的共進化を加速させることもある.遺伝子対遺伝子型の相互作用をする蛍光菌とファージの系では攪拌により両種の個体の移動が促進され,その結果寄生率が上がることで抵抗性への淘汰圧が上がり,さらにそれに対抗する形で共進化が進む.

 

  • ツバキとツバキシギゾウムシのような形質に投資するコストが軍拡競争的に増大する共進化系では,共進化が進むと適応地形全体が沈み込んでいき,片方あるいは両方の種の平均適応度が減少するだろう(共進化の強さによって地域間で絶滅リスクが異なってくることになる).

 

  • 近時自然淘汰による進化過程が急速に進行しうることが認められるようになっており,生態的過程と進化的過程を同時に追跡する方法論が求められている.そこで重要になるのは(分子系統地理学の手法も利用できる)「地理的比較」という方法論になる.
  • 群集の理解のためには3種以上の多種系で生じる拡散共進化のリサーチの充実も望まれる.
  • 最近では地域群集の特徴を基盤種の延長された表現型として説明する姿勢をとる群集遺伝学という分野,遺伝学の知見を共進化に拡張しようとする共進化遺伝学という領域が登場している.

 

第6章 生物群集の進化

 
第6章では群集を歴史的に形成する要因として「系統淘汰」が扱われる.
 

  • 複雑な種間関係がどのような仕組みで維持されるのかについては群集生態学者がこれまで取り組んできており,理解が進んでいる.一方その複雑な種間関係がどのようにして歴史的進化的に形成されてきたのかについてはこれまで系統分類学者や生物地理学者が系統樹や大陸移動などの地史を使ったアプローチにより取り組んできた.

 

  • 群集の形成を捉えるには自然淘汰と遺伝的浮動による小進化的な視点だけではなくより高次レベルの進化を理解する必要がある.ジョージ・ウィリアムズは遺伝子淘汰主義を真っ先に提唱した学者であるが,地球上の生物相の進化を説明するには系統レベルでのプロセスの理解が必要だと説いた.そのプロセスには系統間の形質差による種の存続率の違い(系統淘汰)とランダムな系統の分岐と絶滅(系統的浮動)がある.
  • 系統淘汰はいわゆる「種淘汰」とは異なる概念であり,系統淘汰の原因となる形質は小進化の結果であってもよい(論争があるが,ウィリアムズはこの立場に立ち,本書も従う).基本的にはそれぞれの系統や種に対して自然淘汰や遺伝的浮動がかかって形質の系統差が生まれ,群集内でニッチをめぐって多数の系統が競合する中で分岐や絶滅が生じ下位系統数に差が生まれるプロセスになる.
  • 通常の自然淘汰だけでなく系統淘汰を考察する必要があるのは,分岐や種の生存が自然淘汰などの小進化プロセスだけでは決まらないこと,進化を駆動するものではないとしても群集パターンを決める要因となっていることがあるからだ.

 

  • 系統淘汰を検出するには化石記録から過去パターンをみる方法のほかに姉妹群比較法がある.これは現存生物の系統樹を利用して系統の分化と絶滅のパターンを解析する手法だ.
  • 生物史を通じてなぜ生物多様性が増加し続けてきたのかについては,大量絶滅後の空きニッチの増大(競争からの解放),大陸塊の分離による異所性の発達,鍵適応,共進化などが要因として提示されてきた.近時姉妹群比較法がこの検証に用いられるようになった.(いくつかの検証例が示されている)

 

  • 大陸レベルや隔離された島レベルで見ると群集の種構成が歴史的にある傾向を持って置き換わっていくこと(進化的遷移)が観察される.これは進化に傾向や目標があるためではなく,絶滅や種分化に群集の生態遷移と同じようなパターンが生じるためだと考えられる.
  • 姉妹群比較法を用いたリサーチにより,種分化率を上げる要因としては性淘汰,植物と動物の相利関係などがあり,絶滅率を下げる要因としては体サイズの小型化,高い移動率などがあることが指摘されている.
  • 熱帯で多様性が高い原因については,過去には高い太陽エネルギー流入とするもの(生態仮説)が有力だったが,最近では群集の歴史(時間仮説),種分化率,絶滅率(多様化率仮説)から説明する考え方が有力になりつつある.その中では熱帯における相利関係の多さが注目されている.

 

  • 今後はより多くのデータを用いた分子地理系統樹,絶滅情報を用いた群集の進化的遷移リサーチの進展が期待される.

 

コラムおよび終章

 
ここから生態ゲノミクス,アダプティブダイナミクスについてのテクニカルなコラムが掲載され,最後に終章「群集生態学と進化生物学の融合から見えてくるもの」が置かれ,本書全体が俯瞰されるまとめとされている.
 
第1章の総説は力のこもったものだし,第2章から第6章の各論もそれぞれ執筆者の熱気が感じられる面白いものになっている.特に第5章の執筆にはツバキとツバキシギゾウムシをリサーチした東樹宏和が参加しており,この2種共進化系を深く考察した内容は深く,とりわけ印象に残った.その他の章もそれぞれ充実している.楽しんで読めていろいろ勉強になった一冊だ.


関連書籍
 

生物群集を理解する (シリーズ群集生態学)

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  • 発売日: 2020/09/25
  • メディア: 単行本


最後に刊行されたシリーズ第1巻.私の書評は
https://shorebird.hatenablog.com/entry/2020/11/26/103746