From Darwin to Derrida その162

 
ヘイグによる「ダーウィンからデリダ」,デリダの登場するインターミッションの第X章を終えて第13章に突入.ここでは「意味」が扱われるようだ.
 

第13章 意味の起源について その1

 
冒頭の引用はあまりにも有名なダーウィンの「種の起源」の最終パラグラフだ.
 

この生命の見方には荘厳なものがある.生命は,原初いくつかの力とともに,1種類,あるいは数種類の形態に吹き込まれたのだ.そしてこの惑星が不変の重力の法則に従って回転しているあいだに,単純な始まりから,最高に美しく素晴らしい,尽きることのない多様な形態に進化し,そして今も進化しつつあるのだ.

ダーウィン

 
ダーウィンの時代には(創造説をとらないとしたときの)生命の起源は全くの謎だった.このパラグラフが含まれる「結論」の直前で,ダーウィンは生命の起源についてもう少し詳しく推測を述べている.それはこの「変化を伴う由来」説の適用範囲はどこまで広げられるかという問題として語られている.そこでまず同一の綱に属する生物には当てはまる(つまり共通祖先がある)ことを確信していること,そこからさきは慎重に考えるべきではあるが,類推から推測すれば地球上にかつて生息した全ての生物はただ1つの共通祖先を持つのだろうと書かれている.またダーウィンの書いた書簡の中では生命の起源が温かい池の中で生じたと考えていたことがわかるものもある.いずれもダーウィンの炯眼を物語るものだ.
ヘイグはまさにその温かい池(あるいは海)で生じたはずの生命の起源について,RNAワールド説に準拠しながら語り始める.
 

  • その始まりののち,しかし遥か昔に,世界にはRNAがあったが,DNAもタンパク質もなかった.心を持たない自然淘汰のプロセスによって,非効率的なRNAは何もせずに分解され,効率的なRNAはそれ自身の複製の向上に向けて,直接的にあるいは間接的に,働いた.それぞれの成功したRNAの自己複製効果はそのレゾンデートル(Raison d'etre:存在理由)であり,生命の機能であり目的だった.一部のRNAは有益な化学反応の触媒として働いた.

 
これはRNAワールド説の基盤であり,かつてはRNAは複製子であると同時に触媒だったという(のちにそれぞれの機能はDNAとタンパク質にになわれるようになった)考え方だ.
 

  • より効率的な触媒を優先的にコピーすることは,そのような優先された基質をより効率的でない分子と選別するRNAを永続化させ,金属イオンや化学的補助因子により触媒の優秀性を高める変異体を永続化させた.その他のRNAは働きの選択により世界の中のものに反応した.これらの選択は意味の最も初期の表現になる.しかしこの単純な始まりから,最高に美しく最高に醜い,尽きることのない多様な形態に進化し,そして今も進化しつつあるのだ.

 
そして自己複製子が一旦登場したあとは自然淘汰のメカニズムが働くということになる.
 

  • この原初のRNAワールドは遥か過去のことだ.そしてそれはより洗練された生命形態に置き換わった.しかしその一部の直接の子孫はmRNAの「翻訳されない領域」として生き残っている.その領域は「メッセージ」がタンパク質に翻訳されるかどうかをコントロールしているのだ.
  • 本章は,マクロ分子のアロステリック効果がいかにうまく解釈を説明できるかを示すための生化学的詳細への回り道から始まる.(生化学的詳細に興味のない)読者はこの後の部分をスキップして,可能であることと現実であることの関係,生命の意味のとっての恣意的なサインの重要性の議論の部分に進んでもよいだろう.

 
というわけで本章は「意味」を扱う前にRNAワールドの世界の痕跡を残すmRNAの分子機構の詳細がまず語られるということになる.