From Darwin to Derrida その178

 

第13章 意味の起源について その16

 
意味についてのヘイグの考察.「淘汰が意味を作る」ということについてアプタマーの系統樹を例に説明し,ハーマン・マラーを引用し,自然淘汰こそが詩を意味あるものにする詩人なのだと説いた.ここで引用はダーウィンに戻る.

 

自然淘汰の創造性

 
冒頭はダーウィンの「家畜と栽培植物の変異」からの引用となっている.

  • 淘汰の力は,それが人為によるものか,自然の元での生存競争や最適者生存にかかるものかによらず,生物個体間の多様性に完全に依存している.この多様性なしには何も生じない.

Charles Darwin(1883)

 

 
この文章自体は変異(それが生み出す多様性)の重要性を指摘している部分だ.だからここまでのヘイグの力点とは少しずれていてなかなか興味深い議論の進め方になっている.ここからこの多様性の中から意味を見いだす部分に議論が進む.そしてこれについてマラーとフィッシャーがどういっているかが紹介される.
 

  • 意味の起源は,意味のない突然変異の中から意味を選別する自然淘汰にある.コピー頻度の差は価値ある変異を残し,進化的に成功してきた突然変異の系列に方向性を与える.これは鉱滓から金を分離するプロセスなのだ.マラーは「ありえなさ」による標準的な議論を行っている.

 

  • 変異の大増殖(multiplication)という特徴がなければ,そしてその必然の結果である自然淘汰なしでは,私たちにおけるようなあり得ないほどの組み合わせが生じることは事実上どのような宇宙においても不可能だろう.これにより「私たちは生物のいない自然において偶然生じたものではない」という感覚が真に正当化される.
  • しかし,遺伝子からもたらされる「生物」に見られる変異の大増殖の力があれば,全てが変わる.そして私たちはその果実を享受することができる.それは,偶然により得られたものではなく,選択の上に選択を重ねられ,膨大な可能世界の中から選ばれたものなのだ.

ハーマン・マラー

 
これは前回と同じ「The Method of Evolution」という論文からの引用だ.
 
https://www.jstor.org/stable/14848
 

  • ロナルド・フィッシャーは同様に「進化の効果的なガイドを突然変異を引き起こすエージェントに帰する」議論を批判している.彼は突然変異の存在が「進化を可能にする条件」であることは認めている.しかし彼は「特に重要な効果が帰属する創造的な因果の時と場所」を特定しようとするなら,「無数の生物の経歴における生物と環境の相互作用こそ進化的変化の効果的要因と位置づけられなければならない」と主張した.突然変異可能な複製システムは環境に対する淘汰的反応により「自発的な創造性」を示すのだ.

 
ここでの引用は「Indeterminism and Natural Selection」という1934年の論文から
 
https://digital.library.adelaide.edu.au/dspace/bitstream/2440/15119/1/121.pdf

 

  • 彼はのちにこのテーマに戻ってこう語っている.

 

  • 自然淘汰の理論は進化的変化を形作る創造的要因をどこに位置づけるだろうか.生物の実際においては,それは,環境とコンフリクト,外世界,成長ヘの無意識的努力,意識的的な行動にある.そして特に,彼等の活動のその成功と失敗の生々しいドラマにある.

ロナルド・フィッシャー 1950

 
この引用は「Creative Aspects of Natural Law」という1950年の著作から.いかにもフィッシャーらしい持って回った言い方という印象だ.
 
www.cambridge.org

 

  • 彼はさらにこう書いている:「生物自身が創造的活動の主要な設計者なのだ」 それは「意思と闘い(意図)と活動と死(行動)」を通じて設計する.「それは単なる意思ではなく,現実世界におけるその活動履歴,そしてその成功と失敗のみが効果を持つのだ」
  • それは生物とその環境のエンゲージメントだ.それは死と生存という現実的な結果による仲介され,それが生物を形作るのだ.

 
そしてこの章の最後には詩が引用されている.
 

 世界が変化することを嘆くな
 もし世界が安定して変化がないのなら
 それこそ嘆くべきことだ

from “Mutation” by William Cullen Bryant (1794–1878)

 
これは19世紀の米国の詩人ウィリアム・カレン・ブライアントによる「Mutation」という詩からの引用だ.