War and Peace and War:The Rise and Fall of Empires その40

 
ターチンの帝国の興亡理論.第7章はローマ帝国滅亡後に現れたフランク帝国とその後継国家群(後のヨーロッパ列強を形作る国家群)の興隆を扱う.

 

第7章 中世のブラックホール:カロリング辺境におけるヨーロッパ強国の勃興 その1

 

  • ヨーロッパは3つの帝国期を経験した.最初はローマ帝国で,地中海文明とガリアの「野蛮」の断層線上に興隆した.ローマ帝国の中心は地中海にあり,各地域は船で結ばれ,交易と文化的交流が盛んだった.ローマが内側から崩壊した後にそのコア地域(イタリア,ギリシア,スペインと北アフリカの地中海沿岸地域)はアサビーヤのブラックホールになった.そこではもはや帝国を興隆できるような社会的協力は不可能になった.

 

  • そしてローマの辺境に新しい強国(フランク,アラブ,ベルベル,ビザンチン,アヴァール)が興った.それらは帝国となり,かつてのローマのコア地域をめぐって争いあった.ヨーロッパにキリスト教が広がり,中東と北アフリカにイスラム教が広がったことで地中海は分断の海になった.

 
ここまではこれまでターチンが解説してきた部分になる.ローマは辺境に興り,拡大し,帝国となったが,崩壊後は内部のかつてのコア地域はアサビーヤのブラックホールとなり,そこから強国が興ることはなかった.代わってローマ帝国の辺境だった地域にいくつもの強国が生じたということになる.
 

  • 次の第2帝国時代にはフランク帝国とその他のゲルマン民族が西ヨーロッパを支配した.産業革命前の他の国々と同じくこれらのゲルマン帝国群も統合フェイズと分裂フェイズを持つセキュラーサイクルを経験することになる.
  • これらのゲルマン帝国群には,メロビング朝フランク王国,カロリング朝フランク帝国,ザクセン朝(Ottonian)とザーリア朝(Salian)ドイツ帝国(German Reich*1)が含まれる.これらの帝国のコア地域はラインランドだった.12世紀の初めにこのコア地域はゆっくり分裂期に入り,数多くの公国,伯領,騎士団領,教会領,自治都市が生まれる.これは新しいアサビーヤのブラックホールになり,中世ヨーロッパの中央に存在し続けることになる.

 

  • 3番目の帝国期はここ500年のヨーロッパ列強の時代で,どの1国も長期的に他を圧倒する帝国を作ることはできなかった.常に何国かがヨーロッパの覇権をかけて争ってきたのだ.この争いに参加する国はいくつか入れ替わってきたし,一時的にそのうち一国が優勢になることはあったが,ローマ帝国やフランク帝国のような圧倒的な優越国は現れなかった.
  • これがなぜなのかについて学者たちは議論してきた.この章ではそれを考えていこう.

 
というわけで,本章ではいくつものゲルマン諸王国の中で最終的にヨーロッパに大帝国を打ち立てたフランク帝国および(その後継帝国である)初期の神聖ローマ帝国の歴史,そしてそれが現代にヨーロッパ列強にいかにつながったかを見ていくことになる.
ゲルマンの大移動で初期に活躍するのはゴート族(西ゴートはイベリア半島,東ゴートはイタリア半島を征服する),ヴァンダル族(北アフリカに強国を築く)だが,いずれの王国も短命に終わり,フランクとアングロサクソンが生き残り,それぞれ西ヨーロッパ,ブリテン島に長く続く強国を築く.この辺りはギリシア・ローマ時代の歴史の伝統がローマ帝国の崩壊とともにいったん途絶えた後の時代であり,優れた歴史家による記述があまりない部分でもある.ターチンがどのように記述していくのかは興味深い.

*1:この帝国は日本では神聖ローマ帝国と呼ばれることが多いが,ターチンはここではドイツ帝国としている