書評 「「協力」の生命全史」

 
本書は行動生態学者でヒトの協力のリサーチも行っているニコラ・ライハニによる協力の進化を扱った一般向けの科学啓蒙書だ.オーソドックスに協力にかかる進化生態学的な解説を行いつつ,最新の知見やリサーチ結果も取り込んでいて端正な仕上がりの本になっている.原題は「The Social Instinct: How Cooperation Shaped the World」
 

はじめに

 
冒頭で新型ウイルスが感染を広げられるのはヒトが社会的に生活しているからであること,それに対処するにはヒトの協力が必要であることに触れ,ヒトの生活のあらゆる側面に協力がかかわっていること,このような社会性を持つ生物は稀だがいくつか存在すること,協力には負の側面もあることなどが指摘されている.そして著者による協力の進化を探るたびの物語が始まる.
本書は4部構成になっており,それぞれ個体の進化,家族の進化,家族を超える支援,大規模社会が扱われている.
 

第1部 「自己」と「他者」ができるまで

 
第1部のテーマは個体の進化.個体の中では遺伝子の協力,細胞の協力があること,進化の歴史において真核生物,多細胞生物という(メイナード=スミスとサトマーリの提唱した)「大きな移行」があったことが冒頭で紹介されている.
 

第1章 協力を推し進めるもの

 
最初にドーキンス流の「進化を遺伝子の視点で考えること」のスタンスをとって自然淘汰が解説されている.そこから協力の進化の説明としての包括適応度理論(血縁淘汰)が血縁度,利益,コストの観点から簡単に紹介される.
ここで行動生態学者がしばしば個体の視点で語るのは,目的駆動型の行動が観察できるのは個体レベルであり,その目的駆動型の因子を遺伝子と考えることでいつでも遺伝子視点に戻って解釈できる(その解釈には包括適応度理論が用いられる)からであることが解説される.
このあたりは行動生態学者の正統的なアプローチが的確に説明されているところだ.
 

第2章 個体の出現

 
最初に「個体」という進化の「大きな移行」がどのように生じるのかが説明される.

  • 大きな移行は個体の内側の遺伝子やゲノムや細胞が次世代に受け継がれるためのルートが1つしかない状態になった時に生じやすい.それにより内側のメンバーの関心が1つの方向にそろうからだ.そして逆にどんな状態になれば「個体」といえるのかは内部の構成体の関心(目的的なデザイン)がどれだけ一致しているかで判断される.社会性昆虫のコロニーを「超個体」と捉えるのが説得力を持つのはこのような考え方(様々な機能特化型の個体が観察される)からになる.
  • ではヒトの社会は「超個体」と考えることができるのか.そう考える進化生物学者*1もいるが自分は同意しない.ヒトの社会は個体の関心が(時に揃うことがあっても)ほぼ完全かつ永久に揃ってはいないからだ.ヒトの集団はライバル集団と競争しているが,グループ内部でも複数の利己的な個人が競っているのだ.
  • また戦争を持ち出してヒトの協力行動がグループレベルの利益のために進化したとする説*2もある.確かに戦争がグループレベルで利益をもたらすことは可能だが,それだけでは論理の飛躍であり,戦争がグループに損失をもたらすこともあり,戦争への貢献が個人の利益(地位,資源,女性との配偶機会)をもたらすことがあることを考慮しなければならない.戦争に参加するような行動は基本的に個人の利得を求める行動と一致しており,集団の利益やコストは副産物だ.

 
次の論点はヒトの腸内微生物叢のような寄生微生物の扱いだ.

  • 一部の学者は微生物のゲノムと宿主のゲノムをまとめて「ホロゲノム」という単位とみなし,宿主と微生物は1つの不可分な実体「ホロビオント」とみるべきだと主張している.このような広範なカテゴリーが理にかなっているとは思えない.彼等の運命は通常宿主の運命と密接に関係していないからだ.そしてこの例外がミトコンドリアのような細胞内オルガネルになる.

 
この章では筋悪のマルチレベル淘汰的説明が上品にやんわり批判されていて美しい.このあたりも正統的な行動生態学者の普通の感覚だろう.
 

第3章 身体の中の裏切り者

 
第3章では個体の内部にある進化的なコンフリクトが扱われる.

  • 個体内部のコンフリクトの例として,ミトコンドリアが母系列でしか子孫に受け渡されないことから男性にとってのみ有害な遺伝子が淘汰されずに保持されてしまう「母の呪い」*3,減数分裂の際の分離比の歪み(マイオティックドライブ)などがある.そしてその他の遺伝子はそれに共同で対抗することになる.これは「遺伝子議会」と呼ばれる.
  • またがんは個体内での利己的な細胞とみることができる.がんは当初クローン性の疾患と考えられていたが,腫瘍内に多様な細胞があることがわかってきた.がん性腫瘍は宿主に対抗して協力する相利共生的群集(増殖因子を持つもの,宿主のがん抑制手段に対抗するものが存在するなど)とみた方がよいのだ.あるスケールにおける協力が他のスケールで競争となる状況は生物界でかなり一般的だ.

 
がんの相利共生的群集としての説明は興味深い.第1~3章はオーソドックスな包括適応度理論による端正な説明が続いている印象だ.
 

第2部 家族のかたち

 
第2部のテーマは家族の進化.冒頭では集団生活の利益とコストが簡単に解説され,利益が上回る場合に集団が形成されること,多くの場合はそれは一時的な集団であり,ヒトでみられるような家族で構成される安定した社会集団は稀であることが指摘されている.この第2部も包括適応度理論が中心となる.
 

第4章 育児をするのは父親か母親か

 
第4章と第5章では子育てがテーマになる.冒頭ではそもそもの子育ての進化条件*4,条件を満たす1つの極端な例としてサイチョウの子育て*5が解説されている.

  • 条件を満たし子育てをする場合,オスとメスのどちらが面倒を見るかというコンフリクトが生じる.動物界ではメスがより面倒を見る方が一般的であり,ヒトもそれに含まれる*6
  • 哺乳類の90%では子育てをすべてメスが行う.ヒトは父親も手伝うのでその意味では例外になる.ただこの範囲には文化によりかなりばらつきがあり,ホルモンにより育児への関心が変化することがわかっている.
  • なぜメスが子育て負担を負うことが多いのか(オスメスの身体,生理,行動傾向がそのように進化したのか).1つの要因は父性の不確実性だ.もう1つの要因は卵と精子のコストの非対称からもたらされる.ただしこの要因の効き方は性比もからんで複雑であり,状況によっては性役割逆転が起きることもある.

 

 

第5章 働き者の親と怠け者の親

 
第5章では子育てをめぐるコンフリクトのその詳細が語られる.

  • オスとメスの子育て負担をめぐるコンフリクトについてのゲーム理論による予測によると,片方が少し手を抜いた場合に,もう片方はそれを補うが完全には補わず,不足が残るようにするはずだ(サボった方に,子供を遺棄せず子育て投資を戻す動機を残すため).そしてペアで子育てする多くの鳥で,親鳥が実際にこの予測通りに行動することが確かめられている.
  • オスメスのこのコンフリクトは繁殖機会ごとに相手を変える場合に(生涯ペアに比べ)大きくなる.
  • このようなコンフリクト状態では互いに相手を操作しようとすることもある.モンシデムシでは,働き過ぎたメスは一時的に生殖能力を無くし,性欲抑制剤を分泌する.オスはその気をなくし,子育てに専念するようになる.

 
産仔数と子供の世話への投資量はトレードオフの関係にあり,当該生物の環境条件下で最適なバランスになるように進化する.そして片親で可能な程度の世話で子供がある程度生存可能になる場合に子育てをどちらの性が行うかのコンフリクトになる.この決まり方は父性の不確実性などの要因で母親に傾きやすいが,各種の環境要因がからむゲーム理論的な決まり方になる.詳細は微妙で複雑なので,著者はここで総説的にはまとめずに一部興味深い部分のみ解説するというスタンスになっている.
 

  • ヒトでは結婚や生殖にかかる慣行は文化によりかなりばらつきがある.性的二型の大きさや精巣の大きさからは,祖先形質は主に一夫一妻で,連続単婚だったと推測される.生涯ペアではないのである程度の子育てをめぐるコンフリクトがあっただろう.
  • 子育て投資をめぐっては妊娠中の母親と胎児の間にもコンフリクトがある(胎児は母親が望むより多くの栄養を得ようとする).そしてそれはゲノミックインプリンティングにより胎児の中での母方遺伝子と父方遺伝子のコンフリクトにつながる(詳細が解説されている*7).ヒトや類人猿では浸潤性の胎盤*8になっており,胎盤自体が受け取る栄養分の量を決めることができ,母は制御できない*9.これは生涯に設ける子の数が少なく,子の質が高い種において進化上の妥協として(胎児の方が有利になるかたちで)生じたものかもしれない.赤ちゃんの夜泣きもこのコンフリクトの現れとみることができる.
  • 妊娠中に胎児と母親は流動的に細胞を交換している.これはマイクロキメリズムと呼ばれる.これらの細胞が母親や子供の体内で何をしているのかのリサーチは始まったばかりだが,初期段階のデータは極めて示唆的だ.胎児細胞は母親は乳房の組織に移動することがよくある(そこで母乳量を増やしている可能性がある).齧歯類では胎児細胞は母親の脳にも移動している(行動に影響を与えている可能性がある).以前に子供を産めた女性がその後妊娠できなくなる減少は,年長の兄弟に由来する胎児細胞が母親の体内にあることが関連していることが明らかになっている.今後さらに発見が続き,5年後には1冊の本になっていても驚くべきではない.

 
ヒトについては(リサーチでわかっていることが多いので)コンフリクトの範囲を広げてゲノミックインプリンティングやマイクロキメリズムが解説されている.マイクロキメリズムのリサーチの今後の進展には興味がもたれるところだ.
 

第6章 人類の家族のあり方

 
第6章はここまでコンフリクトを解説してきたことをふまえて,ヒトの家族(特に共同繁殖種であるということ)を考える章になる.

  • 親の子育てを年長の子が手伝うのは「協力的繁殖」と呼ばれる.このような行動は様々な動物群で何度も独立に進化した.ヒトもこれに含まれ,多くの狩猟採集民で子供は弟妹の面倒を見る手伝いをよくする.
  • 協力的繁殖を行う種の分布は地球上で特に過酷な地域に集中している.初期人類のいた東アフリカ大地溝帯もそうだ.乾燥したサバンナで捕食されることを避けながら狩猟採集するには協力が有効だったのだ.
  • 協力的繁殖を行う種の多くは一夫一妻で一腹産仔数の多い種だ(ヘルパーが実の弟妹の子育てを手伝える).ヒトは通常産仔数が1であり,例外的だ.ヒトは社会的生活様式を持ち出産間隔を短くするという協力的繁殖のルートをとった.子供は母親,父親,兄,姉,おじ,おば,祖父母という複数のヘルパーに育てられる.現代社会では学校や保育所がその一部の役割を肩代わりしている.
  • これは西洋の「核家族」理想の対極にある.欧米のモデルは愛着理論に基づく規範的なものだ.しかし核家族は広い視点から歴史を見れば極めて珍しいものだし,保育所に通った子供の発育が遅れるわけでもない.育児については複数の養育者や関係を取り入れることをもっと考えるべきだろう.

 

第7章 助け合い,教えあう動物たち

 
第7章ではいったんヒトから離れ,厳しい環境で協力的行動をとる動物種が扱われている.ここでは著者自身のリサーチテーマであった教示行動についても触れられている.

  • 私はカラハリ砂漠で協力的繁殖を行うシロクロヤブチメドリを研究した.リサーチは個体識別した上で行動観察することにより行った.彼等は3~14羽の群れで生活するが,その中で繁殖の権利を持つのは1組のオスメスのペアだけだ.砂漠では捕食リスクが高く,餌を見つけるのも簡単ではない.
  • 彼等は交代で見張りをして警戒コール(捕食者によって異なるコールがある)をあげる.捕食リスクを下げるために親はできるだけ一緒に給餌する(給餌時には見つかりやすいので,その回数を下げる).巣立ち後のヒナは天敵に襲われやすい自分の存在を利用してもっと食べ物をくれとうるさく鳴いて親を強請ることもある(これは空腹であることのハンディキャップシグナルになる).
  • 興味深いのは彼等が教示行動を見せることだ.教示行動は一種の利他行動なので,教示コストを上回る包括適応度的な利益がないと進化しない.それは教示がないと(例えば)採餌が難しいような状況が必要だということだ.サバンナのヒトはこの条件を満たしている.しかしチンパンジーのように森林の果実食だとこの条件を満たすのは難しい.(アリやミーアキャットの教示行動が解説されている)
  • チメドリの教示行動は給餌の時にゴロゴロという音を出すという形で行われる(ゴロゴロ音と給餌の関係を学ばせ,後に巣立ちを促す時に利用する).

 

第8章 長生きの理由

 
第8章では家族や血縁コロニーの中の(協力の一形態としての)分業の進化,その特殊な例としての閉経の進化,さらに関連して老化の進化が取り扱われている.

  • やるべきことが多いと分業が効率的になる.アリやハチ,ヘルパー性の鳥などの社会性生物では齢による役割分担という形で分業が進化した.さらに真社会性のアリやハチでは生涯を通した役割分担がみられる(自爆アリや蜜壺アリが紹介されている).
  • このような社会性生物でよく見られる役割分担に繁殖がある(群れの中の特定個体しか繁殖しないチメドリやミーアキャットの例,アリやシロアリの女王とワーカーの分業が紹介されている).
  • ヒトの女性に閉経があることも一種の年齢による繁殖の役割分化とみることができる.進化的には(ヒトは女性が分散するので)これは姑と嫁の間のどちらが出産するかという(子育てリソースをめぐる)コンフリクトの結果として考えることができる(18世紀初め~20世紀半ばまでのフィンランドの教会のデータでは,同じ家の姑と嫁がともに出産した場合に,子供たちの期待生存率が大きく下がることが示されている).そして姑と嫁の間には血縁度の非対称性がある(姑は嫁の産む孫と高い血縁度を持つが,嫁は姑が産む夫の弟妹と非血縁になる).だからこのコンフリクトでは姑がより譲歩する(自らの出産をあきらめ(閉経し),リソースを嫁に譲る)形に進化しやすい.
  • 17~18世紀のカナダの教会のデータからは,閉経後の女性は孫の世話をするが,その世話はより期待血縁度の高い孫(嫁の子ではなく,嫁いだ娘の子)に向かうことがわかっている.閉経の進化自体は嫁の子とのコンフリクトで生じたが,それにより可能になった子育て努力量はより娘の子に向かうということになる.
  • では祖母の寿命はなぜもっと延びないのか.上掲のフィンランドのデータからみると祖母の貢献は孫の誕生後最初の数年間に限られており,それ以降は祖母の存在は(リソースを消費する分だけ)孫の生存にとってマイナスであるようだ.
  • では祖父はどうなのか.この部分は最近注目されつつあるテーマであり結論は出ていないが,全体的な傾向としては祖父は孫の生存に対して祖母ほどの重要性を持たないようだ.だとすると男性も女性とほぼ同じだけ長寿になっていることが謎になる.1つのありうる説明は,妻が閉経したあとも新しい繁殖パートナーを見つけられる可能性があるからというものだ.
  • 社会性がヒトより高い生物においては繁殖個体がかなり長命であるものも多い(シロアリとアリの女王,デバネズミの女王*10の例が解説されている).寿命は基本的に修復と繁殖にどうリソースを配分するかというトレードオフで決まるが,彼女たちの場合はどう説明できるのだろうか.それはおそらく外的要因により死ぬリスクが低いのでより修復にリソース配分することが効率的になっているからなのだろう*11.また女王は繁殖個体を産むようになるまでは(ワーカー個体を産んでいても)超個体の繁殖器官として未成熟器官であるということも効いているだろう.

 
閉経の進化について血縁の非対称を重視するところや寿命を身体修復と繁殖のトレードオフとして考察するところは行動生態学的解説として極めてオーソドックスだ.最後の共同繁殖種の繁殖個体の寿命の考察は興味深い.
 

第9章 家族内の争い

 
第9章ではもう一度家族および血縁コロニー内のコンフリクトに戻る.協力集団の中に様々なコンフリクトがあるというのは著者が本書の中で特に強調したい部分なので,重ねて解説しているということだろう.

  • 厳しい環境に生きる協力的な生物の家族でも(みなクローンでない限り)家族内にコンフリクトがある.
  • ミーアキャットの繁殖メスは下位メス(しばしば自分の娘や姉妹)の繁殖行動を厳しく抑制し,妊娠した下位メスを執拗に追い回してコロニーから追放するし,下位メスが出産するとその子を食べてしまう*12.シママングースでは上位メスが徒党を組み下位メスの子を食べてしまう.
  • つまり集団内の協力を維持するにはメンバー間の争いを抑制することが重要になる.大部分の脊椎動物では上位個体がワーカーを統制する.しかし1個体が統制できる下位個体の数には限りがあるので協力的な集団の規模には制限がかかる.
  • 一部の真社会性昆虫ではワーカーが他のワーカーたちに統制されることがある(ワーカーによる性比調節,スズメバチのワーカーによる女王殺し*13,それに対抗するための女王の複数オスとの交尾,それによる姉妹ワーカーのワーカー産卵に対するポリシングが生じるようになること*14などが解説されている).ここで注意すべきことはコンフリクトや利益の一致状況によっては,一部メンバーの共謀によりコロニー全体の協力体制が崩れることがあるということだ.

 

第3部 利他主義の謎

 
第3部で扱われるのは非血縁者間の協力だ.これがみられるのがヒト社会の特徴で,これにより大規模な協力が可能になっている.
 

第10章 協力の社会的ジレンマ

 
第10章のテーマは社会的ジレンマ状況での互恵性による協力だ.冒頭では社会的ジレンマ状況の1つである囚人ジレンマの説明に英国のテレビショー「ゴールデン・ボールズ」の様子*15が説明されていて,なかなか興味深い.ここから,このような状況はヒトの社会にはありふれていること,このような状況でヒトはしばしば(一見個人的利益より集団の利益を優先しているように見える)協力を選ぶこと,これを「協力すると温かい気持ちになるから」と説明するのは至近的な説明であり,進化的視点からの究極的な説明*16にはならないこと,そして究極因の説明の1つとして互恵性*17があること,繰り返し囚人ジレンマ状況では互恵性による協力の進化が説明できることを解説している.

  • 動物界における互恵性による協力とされてきた例としてはチスイコウモリの他,ラビットフィッシュ(捕食者への警戒を交代で行う),マダラヒタキ(子育てペアは近隣で営巣しているペアと協力してフクロウの脅威に対して防衛する)が知られている.
  • 雌雄同体の魚であるハムレットは,卵を小分けにして(繰り返し状況を作る)日暮れ時に(相手が裏切った後に別の相手を探しにくい状況を作る)少しづつ相互に繰り返し卵と精子を交換する.1回のやり取りを小分けにする戦略は霊長類の毛繕いなどでもみられる.

 

  • ヒトでみられる(非血縁者との)典型的な協力関係(つまり友人関係における協力)は,上記の動物で見られるような厳格な返報性を持たない.あなたは困っている友人を助ける時にことさらに見返りを期待したりしない.
  • これは相互依存から説明できる.友人の存在は(特に見返りがなくとも)様々な社会的状況であなたに利益をもたらすのだ.チスイコウモリの例も相互依存から考える(自分が困った時に仲間がいる状況を作っておく方がよい)方が理解しやすいだろう.
  • ヒトの伝統社会では厳密な返報性に基づく援助(交換)システムと相互依存的な援助システムが共存していることがよくある.そしてヒトは(相互依存的な関係を大切にしているので)しばしば厳密な返報性を回避しようとする(レストランの勘定を自分が払おうとして争ったりするのは,1回あたりのやり取りの詳細を気にしないことで相互依存関係にあるというメッセージを送っているのだと解釈できる).

 
この最後の「相互依存」の説明はこれまでの行動生態学的な解説ではあまり出てこないもので面白い.結局直接互恵性も間接互恵性も,「問題になっている行動は短期的にみれば利他行動だが,長期的には相利的である」として説明するものだ.そしてヒト社会で実際によく見られる(短期的には利他的に見える)協力は厳密な貸し借りの管理の上に成立しているものではなく,互いに困ったら助けるという関係が(長期的期待値として)相利的な状況にあるものだ.そういう意味でこの概念はなかなか有用な印象だ.
 

第11章 罰と協力

 
第11章では(非血縁者)3人以上の協力が扱われる.

  • 3人以上の場合には直接互恵における「非協力」という手がうまく働かない(非協力者に対して非協力で応じると,どんどん集団内に非協力者が増えていくだけになりがち).
  • ヒトの大規模協力は互恵性ではなく,ルールや制度によって保たれている.その中で最も重要なのは罰だ(公共財ゲームにおける罰の有効性が解説されている).確かに罰は協力を支えることができるが,協力関係を破壊することもできる(報復の連鎖になる場合があるし,罰を与えることのコストの問題もある).ヒトの社会の歴史はこの罰のシステムのデザインの模索でもある.罰に制限を設け,独立した法執行機関を設立することで報復の連鎖を防ぐことはできるが,現在のシステムで犯罪者の更生,壊れた関係の修復,被害者への償いなどがすべてうまくいっているわけではない.
  • ヒトの脳には悪行を行った他者に対する罰を報酬と感じる仕組みがある.これは第3者罰においても働く.理論的にはこのような罰行使自体が(コストがかかるため)一種の利他行動になり,これを進化的にどう説明するかが問題になる.これを集団の利益のためのものだと主張する学者もいる.
  • オスメスのペアがいるホンソメワケベラのクリーニングステーションにおける罰システムを調べてみた.そこでは客の掃除をせずにその身体の一部を食べる(その方が簡単に栄養をとれる)と客はしばらく来なくなる.オスはメスが裏切った場合にメスの尾に噛みつく罰を与える*18.これは客への裏切りに対する第3者罰のようにも見えるが,客への裏切りはオスにも不利益を与えるので,第3者罰とは言えないだろう.
  • するとヒトの第3者罰的な行動も,(集団利益だけでなく)実は罰行使者に利益があるのかもしれない.1つの候補は「罰を与える公正な人」という評判だ.そして評判はより広く協力を説明できる.

 
この最後の部分もスロッピーなグループ淘汰論者に対する批判的な姿勢が窺われる.ただ「罰を与える人」という評判は必ずしも有利になるとは限らない(しばしば恐ろしい人として相互作用を避けられる)ので,なかなか難しいところだろう.
 

第12章 見栄の張り合い

 
第12章は協力における評判の役割が扱われる.ヒトが評判や他人の目を気にすることは多くの実験により明らかであることを最初に示し,動物にもそうであるものがいることを紹介する.

  • ホンソメワケベラは気難しい客(気に入らないとすぐよそに行ってしまう客)には他の客より先にサービスし,そのような客が見ているとその時点の客に対していつも以上にサービスする.(彼等の行動はおそらく単純な連合学習によるものでヒトのような認知能力があるわけではないだろうことについて注記がある)
  • ヒト社会では取引にまつわる信頼の問題を主に法と(法を強制執行できる)制度により解決しているが,それが不可欠ではない.ダークウェブやギャングの組織は評判をうまく使ってこの問題に対処している.また公の制度として評判システムを用いているものもある(現代のネットサービスの例,中世のマグレブ商人の例が紹介されている).
  • 評判を伝えるシグナルには信頼性の問題が生じるが,コストをかけた信号によりそれを解決できる場合がある(ハンディキャップ原理の説明がある).
  • 狩猟採集民に見られる自らが労力とコストをかけてとった狩猟の獲物に対する気前の良さは,自分の何らかの質に対するシグナルと解釈できる.それは身体的な能力の高さも示しているが,より重要なのは協力的な性質だ.そしてそのような評判により尊敬と名声,そして支援のネットワークを得ることができる.またそれは異性に対して配偶者としての魅力も示していると考えることができる.
  • このように気前の良さをディスプレイしてメリットが得られるなら,そのような行動は(互いに競争するような状況で)エスカレートしやすい.(オンラインの慈善資金調達プラットフォームを用いた実験の結果が説明されている.男性は他の男性が高額寄付をし,寄付が魅力的な女性の調達者のページで行われていると寄付の金額を上乗せする傾向があった.女性が寄付の競い合いをする証拠は得られなかった)

 
協力における評判の役割については通常間接互恵性的な説明がなされることが多いが,著者は「相互依存関係」を重視する立場からそこを強調していない.狩猟採集民の狩猟の獲物に対する気前の良さは,社会淘汰的な機能がメインで,性淘汰的な側面もあるという説明になっている.以前は配偶者選択から説かれることが多かったが,最近ではこういう捉え方の方が多いのだろう.
 

第13章 評判をめぐる綱渡り

 
第13章では評判をめぐる複雑で微妙な詳細が扱われる.

  • 気前の良さを示すことは協力的な性質のディスプレイになるが,それを自ら公然と言いふらすとディスプレイの信頼性は下がる.ヒトは人知れず良い行いをする人物の方に高い道徳的価値を与える.それはヒトは発言者の発言の動機を推測できる(気前のよすぎる行為は利他的というより競争的ではないかと思われる)からだ.だから他人の心を読めるヒトと,読めないホンソメワケベラでは評判システムのあり方が変わってくる.
  • そして気前の良さの評判をめぐって集団内で競争が生じる.なぜビーガンは(動機に問題なさそうなのに)嫌われがちなのか.それはビーガンでない人にとっては,(自分の道徳的優秀性をディスプレイし続けるように見える)ビーガンの存在により,評判をめぐる競争で自分が不利な状況に追い込まれると感じるからだろう.公共財ゲームの実験でも,最も多く基金に拠出し続ける人はしばしば他の参加者から嫌われる.効果的な慈善を行っていた団体が,実は営利団体だとわかった結果世間からバッシングされたような例もある.私たちは利益と慈善が両立可能であるという事実を受け入れがたいのだ.
  • だから評判を獲得する上で自分が自慢屋だと思われないことは重要になる.これは高額な寄付がしばしば匿名で行われる理由なのだろう.伝統的な社会のリサーチでは相手にだけわかるささやかな善行を積み重ねることが重要であることが示されている.

 
この章の解説も面白い.基本的にヒトは相手の意図を読むという認知能力(心の理論)があり,社会の中で評判獲得をめぐる競争状態が生じるので,評判をめぐるシグナルが単純なハンディキャップ原理によるよりも複雑になっているということになる.評判獲得競争をめぐる協力という状況もありそうだが,著者はそこまでは踏み込んでいない.
 

第4部 協力に依存するサル*19

 
第4部のテーマは大規模社会における協力だ.これは動物界でヒトだけに見られるもので,著者はそれはヒトは協力するのに認知能力を利用した道筋をとっているからだとしている.支配と裏切り,外集団の脅威など複雑な社会的相互作用の中でどのように認知能力を使って大規模社会が実現しているのかが焦点になる.著者はその道行きを,狩猟採集生活→協力と成果物の分配→不公正への敏感さ,他人の脅威に対する検知システム,それらが組み合わさって支配的ボスを排除する狩猟採集民の平等主義的社会が生まれたという形で解説する.
 

第14章 他人と比較することへの執着

 
第14章ではヒトにある「他者との社会的比較に取り憑かれた心理」がテーマになる.著者はこれが大規模社会の協力に結びついたと考えており,チンパンジーとの比較をしながら詳しく解説がある.

  • 多くのリサーチが,ヒトの幸福感や満足感が社会の中の相対感に大きく影響されることを示している.ヒトに社会的比較に取り憑かれた執着心があるのだ.それを最もよく示すのは最後通牒ゲームにおける振る舞いであり,不公平なオファーに対する拒否は4歳児にも見られる.
  • チンパンジーにはこのような執着心はない.彼等も群れをつくるが,その社会は群れの中に複数の家族があるというような複雑な構造ではない.群れの中では順位があり,協力しないでも食料を得ることができる.彼等のコロブス狩りはしばしば協力の事例だとされるが,彼等の行動はチームワークではなく単に自分がサルを捕まえられる可能性を高めているだけだとして解釈できる.またサルを捕まえた個体は獲物を独り占めしようとする.肉を分けることもあるが,しつこくせがまれてしぶしぶ少し差し出したり,メスに交尾との取引で少し渡したりするだけだ.役割に応じた分配という概念があるようには見えない.
  • これに対してヒトは協力しないと食料が調達しにくい環境におかれ,認知能力を発達させ,共同で狩猟採集するようになった.ここで共同で獲得したものに対して役割に応じた分配(公正な分配)が基本になった(そして不公平さに対して敏感になり,他者との社会比較に取り憑かれる).
  • またチンパンジーはヒトのような(相手への)支援を目的にしたシグナル(指さしなど)を理解しない.彼等は他者のシグナルが自分を支援する意図の上にある,あるいは共通の興味の対象を示そうとしているということをほとんど理解しない(何らかの要求としてしか理解しない).
  • これらの違いはヒトは「私たち」の視点で考え,チンパンジーは「私」の視点でのみ考える傾向があるということで理解できる.ヒトは公平性や相手の意図を気にし,それが他者の幸福を気にかけたり自発的に他者を助けたりする傾向につながっている.

 

第15章 連携と反乱

 
第15章のテーマは反乱であり,集団内の反乱や敵対同盟の脅威の問題が概説されている.著者は狩猟能力の獲得が,ヒトにとって最大の脅威が他のヒトであるという状況を生じさせたのだと議論している.冒頭では印象的な反乱の例として18世紀のバウンティ合の反乱が描かれている.当時の商船と海賊船の組織の違いも解説されていて楽しい.

  • 18~19世紀の商船では船長がすべての権限を握っており,しばしば反乱が生じた.海賊船では船は乗組員の共有で,船長(略奪の執行者)と財宝分配者の権限が分離され,それぞれ民主的に選出され,船の秩序についての明示的なルールが公開されていた.これにより海賊船ではほとんど反乱が生じていない.
  • ヒトには他者より優位に立ちたい,権力を掌握したいという欲求がある.これは勝者による冷酷な支配につながる可能性を与える.しかし海賊船の制度のような文化的な発明により権力者による冷酷な抑圧を抑え込むことができる.
  • 一般的に権力は社会的ネットワークにおける他者の支援に大きく依存するので,連携,交友関係,同盟は非常に重要になる(チンパンジーの政治について説明がある).チンパンジーは他者からの脅威,他者同士の関係に細心の注意を払っている.
  • ヒトはさらにこうした社会生活の細部を気にしており,他者を反射的に「内集団」と「外集団」に分ける.ヒトは協力により自然環境における困難を乗り越えられるようになったが,その結果他のヒトの存在が主要な脅威になった.そこでは社会的な脅威の検知と回避の能力が重要になったからだ.

 

第16章 パラノイアと陰謀論

 
第16章では前章で見たような脅威に対する検知,連携を得るための心理的なバイアスがテーマになる.

  • パラノイアは人々の間に広く見られる.彼等の妄想する災害は他者が意図的に引き起こすものという特徴がある.おそらくパラノイアは社会的脅威の検知と管理に重要な役割を果たす心理で,火災報知器の原理でやや過敏に設定されている.しかしそれが過剰に働くと厄介で不適応な状態になるのだろう.
  • パラノイアは社会的な脅威がどの程度ありそうかという環境によって感度が変化する(迫害された民族集団などで頻度が高い).これはこの心理が適応的なものであることを示唆している.(社会的ストレスをコントロールしてパラノイア的思考が影響を受けることを示した実験が紹介されている)
  • パラノイア的な思考の例に陰謀論を信じ込むことがある.そしてヒトは陰謀論だけでなくしばしば不合理で根拠のない信念を集団的に信じやすい(そのように働くいくつかの心理的バイアスが知られている).これは信念がときに集団に属するためのタグの役割を示すからなのだろう.私たちは現在の社会的状況で最も多くの恩恵(集団からの支援など)をもたらす信念を採用しやすくなっているのだ.このプロセスが過剰に働くと不適応的な極端なパラノイアや妄想的思考に至るのだ.

 

第17章 平等主義と独裁制

 
第17章ではボームの唱えた狩猟採集社会の平等性(独裁者をみなで抑え込む社会),そして農業革命以降それが崩れたことがテーマになる.

  • ヒトは類人猿より協力的であり,集団の境界は柔軟で,家族を持っていた.そしてチンパンジーやボノボの社会と異なる重要な点はヒトの社会が平等主義的であったことだ.ヒトの狩猟採集社会では暴力的に君臨するボスは排除され,リーダーは名誉や尊敬を集めることにより地位を得る.
  • この権力分散は大規模な綱引きと考えると理解しやすい.綱の片方には他者を支配したいという個人の衝動があり,もう一方には多数の力で少数の独裁を抑えようとする集団的利益の力がある.綱引きが前者に傾くと専制君主や皇帝による独裁制になる.狩猟採集社会における平等社会はこの綱引きの上で多数による努力により後者の優勢が維持されている状態になる.
  • 社会における個人の利益追求には,1人勝ち(独裁)を目指す戦略とチームに加わって勝率を高め分配を受け入れる戦略があることになる.そしてその状況下でより賢明な(繁殖成功期待値の高い)手法が進化的に優勢になる.狩猟採集社会では後者の方が優勢だった.農業が始まり生産力が高まると常にリーダーがいる方が効率的だっただろう.当初のリーダーは平等主義的な尊敬により地位を得ていただろうが,(社会の多数者にとって狩猟採集社会で平等な分配を受けるより,高い農業生産量のもとで少し不平等な分配を受ける方が有利になり)リーダーによる搾取が徐々に可能になり,(狩猟採集集団がなくなり,そのような生活が不可能になっていった後)支配が強制的なものに移り変わっていったと思われる.
  • ではなぜ反乱があまり生じなかったのか.それは集団の規模が大きくなるにつれて,反乱者の協力が難しくなっていったからだ(誰かに反乱者になってもらい(リスクをとってもらい),その後成功した場合に成果だけ受けとる方が有利になる).

 

第18章 協力がもたらす代償

 
最終第18章は協力の暗黒面と気候変動などの世界規模の問題に対する協力の可能性について.

  • 協力は基本的に自分が有利になるために選ばれる選択肢だ.だから裏切りによりさらに有利になれるなら裏切りの誘因が生じるし*20,しばしば協力の外側の人々に代償が発生する.
  • 協力の輪をどこまで広げる傾向があるかについては,政治的態度(保守は狭く,リベラルは広い傾向がある)や文化(東アジアの集団主義文化では狭く,西欧の普遍主義文化では広い傾向がある)により異なることが知られている.一般的に家族の絆が深いと他人に対する協力と信頼が減る.(これらの知見について道徳的に評価しているわけではないことに注記がある)
  • 協力はヒトの進化において一種の社会保険(困った時に支援を得られる)として機能してきたと見ることができる.ヒトの進化史のほとんどの間は友人と家族からなる緊密なネットワークが保険の役割を果たしてきた.しかし現代の産業化社会では国家がこの物質的保障の役割を果たしている.この物質的保障の度合いにより緊密な社会的ネットワークにどこまで投資するか,その投資を減らしてより広いやり取りを行うようになるのかが変わってくるのだろう.実際に新型コロナ感染症パンデミックは予期しない物質的保障の変動だったのであり,そして私たちは地域のネットワークの協力の復活を多く目にすることになった.
  • 気候変動のような世界規模の問題に対しては世界規模の協力が必要になる.しかし世界規模では1個人にとって協力の恩恵は小さく利己的に振る舞う誘因が大きくなりがちだ.このような問題に対して「人の良心に中途半端に訴える方法」は危険で甘い考えだといえる.私たちはもっと用心深く,リスク,コスト,恩恵を踏まえてどのような行動に労力をつぎ込むかを細かく調整している.協力の成功のためには,なじみのある基盤の上に築かれたボトムアップの手法(合意の上で定められた強制措置と罰則を含む地域的な制度など*21)が有効だ.
  • ヒトの歴史における協力の物語はおとぎ話のようだ.協力をうまく利用すれば富がもたらされるが,悪意の利用者は破滅をもたらしうる.ここまでは協力によって繁栄してきたが,よりうまく利用する方法を見つけなければ人類は破滅するかもしれない.私たちは自分自身の成功の犠牲者となるかもしれない.おとぎ話の結末がどうなるかは私たちにかかっているのだ.

 
以上が本書の概要になる.極めてオーソドックスな行動生態学的な協力の解説で(最近の本にありがちな)無理筋のグループ淘汰的な説明を軽くいなしながら,最近の知見やリサーチを取り込んで協力と裏切りの進化ダイナミクス,そしてヒトの大規模協力の本質をわかりやすく説明している.ヒトの協力に関しては直接互恵や間接互恵にこだわらずに,より柔軟な「相互依存関係」における長期的相利的な関係を重視しているところ,心の理論や社会の中の評判獲得競争により,協力をめぐる状況が認知的に極めて複雑になっていることを強調しているところは特に読みどころになるだろう.
 
関連書籍
 
原書

 
協力や利他行動に関する本は多い.その中から比較的新しいものをいくつか紹介しよう.
 
現在の学問的知見の状況を最も簡潔にまとめているものとしてはこの教科書の利他行動,協力に関する記述になるだろう.全体の状況をまず見るには便利だ.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/2023/04/30/142510

 
間接互恵性を中心にしたもの.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entries/2014/06/25
 
本書では狩猟採集民の平等主義的社会が解説されているが,それを自己家畜化,「反応的攻撃性」と「能動的攻撃性」から説明するもの.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/2021/04/25/112359
 
評判獲得競争を深く議論した本.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/2020/04/29/093951
 
マルチレベル淘汰推しの協力進化本.よくあるナイーブグループ淘汰の誤謬は排除されており(そのかわり戦争状況における極端な利益とコスト状況を重視する),私はこの議論を買わないが,批判するにも読んでおくべき本ということになる.日本人研究者による訳者解説は必読.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20180314/1520983936
 
海賊船の状況についてはこの本が詳しい.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20110511/1305111901

*1:引用はないがEOウィルソンのことをいっているのだと思われる

*2:ここでも引用はないが,ボウルズとギンタスのマルチレベル淘汰理論による偏狭な利己主義仮説のことだと思われる

*3:男性のみに失明を生じさせるレーベル遺伝性視神経症が例にあげられている

*4:基本的には子育てリソースが限られている中での子供の数と生存確率のトレードオフで決まる

*5:まず交尾前にオスメスが緊密な絆を作る.交尾後,メスは40日もの間,樹洞に閉じこもって(入り口を塞いで小さな穴だけ残して)産卵し,ヒナを育てる.その間はオスが餌をとってきてメスに渡し,メスとヒナの命を支える

*6:ここでヒトの赤ちゃんが近縁の類人猿に比べて未熟な状態で生まれてくることについて,かつては母親の産道の大きさの制限(運動能力とのトレードオフ)で決まったと考えられてきたが,最近のリサーチによるとエネルギー上の制限(母親の基礎代謝の大きさが生理上の限界に達する)で決まったと主張されていることが解説されている

*7:少しあとの部分でプラダー・ウィリー症候群とアンジェルマン症候群についても説明がある

*8:血絨毛性胎盤.胎盤組織が子宮内膜だけでなく母親の血管にまで入り込む構造を持つ

*9:これにより胎児への栄養供給はより父由来遺伝子の影響を受けやすくなり,妊娠糖尿病や子癇前症のリスクが高くなっている.また湿潤性の胎盤を持つことはがん細胞が母親に浸潤(転移)することも容易にしており,ヒトのがんのなりやすさの原因の1つになっている.

*10:ワーカーの平均寿命は8年,女王の平均寿命は30年だそうだ

*11:ここで飛翔動物である鳥やコウモリの寿命が同じ大きさの哺乳類より長寿であることもこれで説明できるとコメントがある.

*12:ただし,繁殖メスがすでに子を産んでいれば,(彼女は子供が誰の子かうまく識別できないので)この嬰児殺しは抑制されるそうだ

*13:コロニーが繁殖虫産出モードに入った際にワーカーからみて兄弟(女王が産むオス:血縁度0.25)よりも息子(血縁度0.5)や甥(姉妹ワーカーが産むオス:血縁度0.375)の方が血縁度が高くなるために女王を殺す動機が生まれることによるもの

*14:複数オスと交尾することによりワーカーからみた父の異なる甥の血縁度が0.1875まで下がることにより,女王の産む兄弟(血縁度0.25)の方が血縁度が高くなる

*15:2人の出演者を高額(片方裏切りで10万ポンド)の1回限り囚人ジレンマ状況に置き,その後2人の間で交渉させ,最後に手を選ばせる.いかに自分が絶対裏切ったりしないと相手にうまく信じさせるかが見物になる.テレビで放映されることからここで裏切るとかなり評判に傷がつくことになると思われる(そしてそうだからこそ自分は裏切らないとする説得がよくなされる)が,結構な割合の出演者が高額賞金に釣られて裏切るそうだ(みな協力するとテレビショーとしてはつまらないだろう)

*16:本書の訳者はこれらを「直接的な説明」「根本的な説明」と訳しているが,定着している科学用語に準じて至近,究極と訳してほしかったところだ

*17:訳者は「返報性」としている

*18:オスメスで体格差がありメスは罰を行えない

*19:訳者はここで「サル」としているが,原文は「A Different Ape」であり,「類人猿」とすべきだっただろう.著者は原書にあるちょっとしゃれた章題をすべてわかりやすさ重視の直截な章題に訳しているのでここだけ「全く異なる類人猿」とはしにくかったということかもしれない.

*20:ウーバー運転手たちによる価格釣り上げのための協調戦略(空港に飛行機が到着すると一斉にアプリをオフにする)と裏切りの誘因(少しでも先にアプリを再開させたい)が説明されている

*21:うまく働いた例として監視と制裁措置のある漁獲量割り当て計画が紹介されている