読書中 「Narrow Roads of Geneland Vol.3」第8章 第10論文 その3

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)


第10論文というより記事
Inbreeding in Egypt and in this Book : A Childish Perspective (1993)


今日は6ページ
雑種強勢について


雑種強勢についてはこれまで議論として
1.ヘテロ接合自体が何か有利なことがあるのか
2.劣性のホモ接合による害が問題なのか
という2点が議論されてきた.


ハミルトンはここに,「表面上ヘテロ接合が多いと有利になるように見えるが,実はそれは別の遺伝子座にあるホモ接合の有利さが現れているのではないか」という議論を提出する.
あまり分散しないinbreedingな種を考えよう.ここに遠くの個体とたまたま交尾してF1が生まれて環境に適応しているとする.しかしこのF1がinbreedingにて次の世代になるとホモ接合も多いが引き続き周りの平均よりはヘテロ接合が多いF2となる.F2の中には劣性ホモにより適応的でない個体も多く淘汰されるが,よいホモ接合により利益を得ている個体も存在するはず.このような個体は実はよいホモ接合によりいい結果が出ているにもかかわらず統計分析上は平均よりヘテロ接合が多いことと有利なことに相関がでてしまう.
F1とF2の適応度と分散を見てやり,F2がより分散していて,そのいい部分はより適応的であるとすると,適応度はホモ接合と相関がでることになるはずであり,このような調査が望まれる.


傍証として2点あげる
1.半倍数体のオス,コケや藻類のうちの半数体のものはヘテロ接合にはなり得ないが,近縁の倍数体のものに比べ全く劣後するようには見えない.
2.ヘテロ接合が有利なパラメータを作ってシミュレーションをするとうまく有性が有利になる結果が得られない.ヘテロ接合を有利にすると確かに多型は保たれるが,しかしそれ自体は適応度の上昇をもたらさない.そしてシミュレーション上は有性よりヘテロ接合体の単為生殖を有利にしてしまう.


赤の女王仮説(有性のパラサイト説)によれば有性が単為生殖より有利なのはヘテロ接合の多さではなく永遠の変化.ヘテロ有利でなくとも淘汰係数が変動すれば有性は保たれる.

この仮説通りヘテロによる有利さより新しい組み合わせが望まれるなら,広くoutbreedingしたあとの世代でinbreedingしてよいホモ接合を増やそうとする戦略がよい戦略候補となる.
その観点から今後に注目したいことを3点あげる.
1.automixisな単為生殖(メスの体内で減数分裂後2倍体の卵を作る単為生殖,一種の自家受精に近い,ハエ,ハチなどで報告されている)
2.一年草における他家受粉花と自家受粉花の両モードを持つもの.今のところそれ以外の説明で十分説明できているが今後の研究を待ちたい.
3.シロアリ,outbreedingして巣を作り,その後巣内では数世代にわたりinbreeding


有性のパラサイト説
社会性昆虫はいかにも寄生者にたかられやすく,有性であるべき
例外
ファラオアリ,トビニセハリアリ,ハダカアリなどはinbreedingが報告されている.理由はまだよくわかっていないが以下のことが考えられる.
目立つ種ではなくいずれも新しい環境に最近進出した形跡があり,分散の大きい放浪種であるため寄生者が追いついていないのかもしれない.
ファラオアリのinbreedingはスコットランドのビルで採取されたコロニーの報告.元々のエジプトで調べるとinbreedingしないのかもしれない.
トビニセハリアリはやはりイタリアからスコットランドに侵入した種らしい.ハミルトン自身ロンドンのものを観察したが,確かにinbreedingしていた.しかしオスの闘争などを見るとそれほど適応していないようにも見える.

一般に社会性昆虫は強いoutbreeding種である.それは有翅型や婚姻飛行に見ることができる.

      1. +

ようやくinbreedingと寄生者という核心に近づいてきて面白くなりました.ヘテロ接合自体にアドバンテージはないのではないかというハミルトンの説明には膝をたたきたくなるほどの説得性があります.自分の仮説に不利なアリたちへの細かい説明もなかなか楽しいです.
自家受粉と他家受粉の一年草の話も出て矢原先生の見解など知りたくなる瞬間です.