- 作者: W. D. Hamilton,Mark Ridley
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Is DMSP Synthesis in Chlorophycean Macro Algae Linked to Aerial Dispersal?
by D. T. Welsh, P. Viaroli, W. D. Hamilton and T. M. Lenton
第12論文は前論文で微生物の藻類が分散のために雲を作るとした結論を拡張し,多細胞の藻類でも同様だと主張するもの
多細胞の藻類にも遊走子,胞子,配偶子,接合子などの単細胞の分散ステージが存在する.これらもDMSPを生産しており,これが分散のための適応である可能性がある.
まずこれまでDMSPは浸透圧調整のための適応とされてきた.しかし実際の浸透圧調整とDMSPの生産の量の間に関連が見られず,DMSPの生産にはコストがかかることから別の適応的な説明が必要と考えられる.
もし分散のためとするなら以下の条件が満たされていることが必要と思われる.まず,単細胞などの小さな分散フェーズを持つこと,その「胞子」は感想や凍結などの厳しい環境に耐えるものであること,いっしょに分散するものはクローンのような血縁度の高いものであること,分散フェーズやDMSの生産が同期して分散に必要な状況にマッチしていることである.
ここで緑藻のアオサを例にとり検証してみる.アオサは非常に複雑な生活史を持つ.まず倍数体の遊走子,半数体の配偶子などの分散フェーズを持つ.また半数体の時は単為生殖を行うこともある.遊走子や配偶子は正の光走性を持ち,海面の表面に集まる(もし発芽や接合のためだけなら基質に付着することを優先すべきとおもわれる)また遊走子や配偶子は蔗糖やプロリン,そしてDMSPを生産し,乾燥や凍結に強い.ブルームの形成は機会主義的で十分成長できた後に一斉に起こる,また無性増殖も多くクローンによるブルーム形成も多いと思われる.さらにブルーム形成と分散胞子を生産したあとはこの藻類は死滅する.これはしばしば非常に厚く堆積した状態で起こり,この死骸による作用は上昇気流や雲の形勢に有利に働く.
以上のことはいずれも仮説を補強するものであり,多細胞のアオサ類も空中による分散のための適応を遂げていると考えてよいと思われる.
自然史的な傍証による主張が核をなしている.アオサの生活史はなかなか面白く,化学作用のところはちょっとつらいがそのほかは楽しく読める論文に仕上がっている.