- 作者: デイヴィッドサルツブルグ,David S. Salsburg,竹内惠行,熊谷悦生
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/03/20
- メディア: 単行本
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統計学の歴史とその中の人間模様を描いた本.統計学者の手によるものでその筋ではかなり有名な本らしい.統計の初心者向けの本はいろいろあるが,その背後の考え方について解説されたものはそれほど多くはないと思われる.特にフィッシャー=ネイマンの論争は初学者には今ひとつよくわからない部分である.本書はこの辺の裏の事情がよくわかる.
私自身は進化学や集団遺伝学から統計に興味を持っているので心情的にはフィッシャーびいきなのだが,本書は個人的なつながりもありネイマンシンパのようである.確かに何とかより応用範囲を広げようとするネイマンの努力に対しフィッシャーはややかたくなになりすぎている部分も見えるが,しかし真実にはフィッシャーが近いのではないかという気分も抜けきれない.結局一回限りの確率とは何か,そしてそれが人の進化的な認知制約から概念把握が難しい部分をどう説明しようとするのかが論争の本質かなあというのが素朴な感想である.いずれにせよ描かれている人間模様は劇的で飽きさせない.ネイマンがフランス語で講演し,聴衆にフィッシャーがいるので厳しいつっこみを覚悟したが,フランス語のできないフィッシャーはつっこめなかったというような逸話も満載である.
また歴史的な発展が概観できるもの本書の醍醐味の一つ.統計がダーウィンによる生物学から勃興し,実験計画から小標本,正規分布統計が精密化し,そこから工程管理,経済統計がわかれていった様子,コンピュータの発達とともに統計学の変化していく様子が描かれている.
全般的には特に統計学勃興から第二次大戦前の部分は大変面白い.それに対して戦後の部分は,一つには統計学が発達して専門的に分化していったこと,そして存命の著者の個人的な知り合いが多く登場することにより批判的な著述が無く,やや散漫でちょっと残念である.
また個人的には,コラムでよいから,そこで扱っている統計的な問題を,数式含めて解説がある方が問題が明確にとらえられてよかったと思うが,数式を載せると本の売り上げが落ちるそうで,本書では一切数式を載せないスタンスを貫いている.