読書中 「The God Delusion」 第9章 その1

The God Delusion

The God Delusion


第9章は宗教と子供について.プロローグは19世紀のイタリアの事件の紹介から始まる.
ユダヤ人家庭の6歳の子供は,世話をしていた14歳のカトリックのメイドによって,病気の際に思わず洗礼されてしまった.その結果両親や本人の意思に反して彼はカトリックの子供ということになってしまい,異端裁判所の命を受けた教皇警察により(カトリックの子供をユダヤ教の環境下にはおけないという理由で)拉致され,両親から引き離されたそうだ.そして何故ユダヤ人がそのようなリスクを冒してまでカトリックのメイドを使うのかというとそれは宗教の戒律によりユダヤ人は土曜日に働いてもらうことができないからという理由だったという.そして両親は子供を取り返すために自分たちも洗礼を受けることは拒否し,子供は二度と両親の元に戻らなかったそうだ.


ドーキンスはこの事件の紹介することで,人間の幸福より優先する宗教的義務ということが如何に途方もないものであるかを示すと同時に,本人の意思や選択と関係なく子供に宗教のラベルを貼ることの非道さを訴えているのだ.確かにこの事件は現代日本の価値観では理解できないほど二重三重にねじれている.14歳の女の子がそんな重大決定に関与できる(洗礼は誰にされても有効なのだそうだ.ミーム的には適応的なのかもしれないがされてしまったほうはかなわないだろう)というのも驚きだし,とりあえず子供を取り返す方便で水を掛けて呪文を唱えてもらうことを拒否するというのも私には心情的に理解しにくいところだ.
日本ではこの子は浄土真宗の子供だとか,曹洞宗の子供だとかいわないのはある意味ほっとするし,宗教観の非我の差がよく出ている一面でもあるのだろう.


ドーキンスは続いて宗教がどのように「幼児虐待」的かをしめす.(この「幼児虐待」には性的な意味はないと断り書きがある.child abuse という言葉だと英米で真っ先に思い浮かぶのは性的なもののようだ)

英米では特に子供の虐待には敏感だ.ドーキンスは脇道にそれて小児性愛者pedophileと小児科医pediatricianの区別もつかない暴徒によって小児科医の家が焼き討ちにされた事件を紹介している.ドーキンス自体,この子供の虐待への敏感さは行き過ぎだと感じているのだろう,ハックルベリー・フィンの冒険ツバメ号とアマゾン号の冒険(これはなつかしい!)は現代ではもう望めないだろうと嘆いている.

そして現在カトリック教会は,教会や修道院や学校などでの聖職者による性的行為を含む虐待があったのではないかと過去に遡及した汚名を着せられているらしい.ドーキンスはこれについて,ダブリンでひらかれた講義の後,報道されているようなカトリックの司祭による性的虐待についてどう思うかと聞かれてとっさに「確かに性的虐待はひどいが,子供をカトリックとして育てるということに比べればたまだましだ」と答えて聴衆から賛意を得て驚いたことがあると述べている.


ドーキンスが特に宗教による子供の虐待だと指摘しているのは,精神的なものだ.例としてあげられているのは,カトリックの子供がプロテスタントの友達が死んだときに,その友達が地獄に堕ちたと聞かされた話だ.またアメリカの主流派の中には「地獄の部屋」を12歳の子供に見せて,同性愛や中絶を行うとこうなるというのをデモンストレートする人々がいるという.たしかにこれはひどい.もっともほとんどの穏健的な宗教人はこのようなことはしないだろうから,ここはドーキンスもちょっと極端な例を挙げているような感じだ.(それとも普通に他宗派の人は地獄に堕ちると子供に教えるものなのだろうか?)
それでもそもそも地獄というものがあると子供に教えること自体虐待といってよいだろう.考えてみれば確かに残酷だ.ドーキンスはこれは子供に対する信頼の虐待であり,子供が世界を理解するために感じる自由を奪っているのだと非難している.

これは日本でもある程度は行われているが,ほとんどの場合はあまり真剣みはないから,ずいぶん違うような気もする.(少なくとも私は「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれるぞ」といわれて本気にしたことはない)


最後にジュリア・スウィーニーが紹介されている.彼女はアメリカのカトリックの娘として育てられ,とても陽気なヤンキー気質丸出しの女性だ.コメディ女優として名をなした彼女は自分がどのようにして無神論者になったかをとてもコミカルに演じた1人劇"Letting Go of God"を行い,最近オーディオブックとして出版しているという.早速調べてみると19.95ドルで発売されている.もうちょっと調べてみるとiTune Music Store Japanで1300円で発売中であった.速攻でダウンロードして聞いてみたがこれは面白い.
彼女はとても人生にまっすぐで,カトリックとして育てられ,まじめに教会や聖書に向き合う.そしてドーキンスが指摘しているような聖書の残酷なメッセージに混乱し,モルモン教のばかげた話を聞きつつ,もしかしてカトリックの教義も同じくばかげているのかと気づき,そして自然や生物に神の摂理を見いだそうと考えて,アオアシカツオドリの雛の兄弟殺しを知り,さらにイカの眼の方が人間の眼より完全なことも知り,ついに信仰を捨てるのだ.それらが爆笑もののコメディとして演じられている.2時間あるがまったく飽きずに聞き通せる.お勧めだ.

なお彼女については以下のページを参照
http://www.juliasweeney.com/welcome.asp

またここで"Letting Go of God"の冒頭の「理性の年齢とサンタクロース」の場面の動画が見られる.
http://video.google.com/videoplay?docid=371164303811205573




第9章 子供,虐待と宗教からの脱出


すべての村には灯り(:教師)と消灯機(:聖職者)がある. ヴィクトル・ユーゴー


(1)物理的,心理的虐待