読書中 「The Evolution of Animal Communication」第3章 その2

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)


さてグラフェンの論文を読んで随分回り道をしてしまったが,ここからサーシィとノヴィッキの本に戻ろう.
第3章の冒頭で理論編としてまずグラフェンの論文を紹介し,信号システムは一定の条件があればハンディキャップとしてESSになることを見た.

ここから著者たちはどのようにこれをテストしていくかという問題意識になる.これをテストするためには「オスの質」とは何かが実務上問題になるのだ.そしてメスは一体何を選んでいるのだろうか.
ここはまた長らくいろいろな議論がなされている部分だ.


まとめると

I. 直接選択は,メスの適応度や繁殖価を直接高めるため選択されるというもの**

  1. 物質的利益:婚資など
  2. テリトリー:巣,エサ場
  3. 子育て支援


II. 間接選択は,メスの子孫の適応度を高めるため選択されるもの

  1. 子孫の生存能力を高める遺伝子 良い遺伝子仮説ともいわれる**
  2. 子孫が性淘汰において有利になる遺伝子(セクシャルサン)(これはフィッシャーのランナウェイプロセスを引き起こす)


III. 最後に選択ではないとする第3の仮説は感覚器官のバイアスによる副産物説がある.

このうちの一部の仮説のみが,信号理論で重要なメスの選好性(つまりオスの質の理解)につながる.(具体的には直接選択説と,間接選択のうち良い遺伝子説,上記**)まずそうでない仮説から見ていく.



ここでフィッシャーのランナウェイプロセスについての解説.これはオスの質に関係ないプロセスだ.著者も「フィッシャーは言葉で説明し,多くのモデラーモデリングした.このプロセスは最初にちょっとしたメスの選好性から始まってランナウェイプロセスにはいる.この場合にはオスの質とは無関係な信号なので,そもそも信号の正直さを議論する意味がない」と解説している.


実は現実にフィッシャーのメカニズムで進化した性淘汰信号が存在するのかどうかはまだ確定されていない問題だそうだ.これは結構驚き.ポミヤンコフスキーはそれを確立された過程として扱っているが,グラフェンは「too clever by half」と評し,十分な証拠なしにその過程を受け入れるのは方法論として良くないとしているらしい.グラフェンの言葉はなかなか難しい.話がうますぎるので注意が必要といったところだろうか?


これまでのところもっとも良い例として取り上げられているのはスナバエ Lutzomyia longipalpis の例だとしている..オスの魅力はメスの適応度を上げているようには見えず,息子の魅力度アップのみが生じると解説されているが,一体何がオスの魅力なのかは記述がなくちょっと不満だ.(これぐらい常識ということだろうか)


続いて感覚バイアス説の解説
この選好は配偶とは異なる文脈で生じたというのがこれらの仮説の基本だとされている.例えば,エサの発見,あるいはまったく何の利益もない偶然など.これらの仮説の特徴はまずメスの選好が生じて,オスの特徴はその後それが配偶関係に生じる利点によって引き起こされているというものだそうだが,そうするとフィッシャー説と何も違わないのではないかという気がする.というより最初のきっかけの説明と過程の説明という補完的なもののように見える.

この説の良い例としてはPhysalaemus 属のカエルのコール音,ソードテイルフィッシュの剣のような尾びれ,ミズダニの振動信号だとされているが,やはり具体的な記述が無くちょっと物足りない.



第3章 利害が相関しないときの信号



(1)配偶信号:理論