N. B. デイビスによるカッコウのホスト種がヒナについて見分けて捨てる防衛を行わない理由の議論


Cuckoos, Cowbirds and other Cheats (T & AD Poyser)

Cuckoos, Cowbirds and other Cheats (T & AD Poyser)




ここで帰宅してからデイビス本の議論を復習してみた.

カッコウのホスト種に対していろいろな操作実験をすると親はヒナを見分けようとまったくしない.また操作によりカッコウのヒナがホスト種のヒナを巣外に捨てられないようにして両方のヒナが巣内にいるようにしても親は区別しない.だからそばに自分のヒナがいないので比較できないからという説明は成り立たない.

ドーキンスとクレブスはカッコウのヒナによる操作ではないかと示唆したが,それはあり得ない(実験してみるとホスト種はカッコウでない種のヒナにも給餌する)
ヒナをリジェクトするのは遅すぎて淘汰圧として小さいとか,ヒナはどんどん成長して見かけが替わっていくので見分けは困難とか言う理由には説得力がない(遅くとも淘汰圧はあるし,単純な手がかりで見分けることは可能だ).
続いてアーロン・ロッテムの説.ヒナを見分けるには自分のヒナがどういうものかを学習するしかない.恐らく最初の繁殖の時に見る卵とヒナを学習するしかないだろう.しかしカッコウのヒナはホストのヒナを全部巣外に捨ててしまうので,最初の繁殖シーズンで托卵された場合ホストから見ると学習対象としてカッコウのヒナがいるだけになる.もし間違って自分のヒナをカッコウのヒナだと学習してしまったらその後一生繁殖に失敗することになる.これはコストが大きすぎるのではないか,一切学習しない方が適応的だというもの.
デイビスはこのロッテム説を支持し,ここでそのようなホスト種のヒナをイジェクトしないアフリカの托卵性フィンチについてはヒナ擬態が見られることをこの説の支持証拠としている.そしてオーストラリアのオニカッコウがカラスに托卵するときはホストヒナをイジェクトをせず,ヒナ擬態が見られるとある.


記憶とは違って,ヒナ擬態が生じる場合もちゃんと議論されていた.これからすると,このアカテリメカッコウのヒナがムシクイのヒナをイジェクトするかどうかがまず最初の注目点ということになるだろう.またいずれにせよ托卵頻度や学習効率などのパラメーターも影響しそうだし,操作実験できるならさらに面白そうだ.また2種のセンニョムシクイのヒナに対してカッコウのヒナ擬態が見られるのは1種だけということだが,もう1種への擬態するカッコウの個体はいないのか,カッコウの卵擬態のような母系系統によるホスト種への適応があるのかなども興味深い.今後の研究の進展が楽しみだ.