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第3章 人間と下等動物の心的能力の比較(続き)
<道徳>
さて前章で宗教まで切り込んだところでいよいよ本丸の「道徳」に入る.
ダーウィンはここで道徳ということの本質は「○○をするべきである」という感覚だとする.そしてこれも動物と連続しているとこれから説明することになる.「社会性動物に知的能力が備われば道徳は生まれる」というのがダーウィンの結論だ.ここでは過程が2段階だと主張されている.前章で,「感情」は行動をコントロールする中間過程であるとダーウィンが考えていることを示していたが,道徳も同じ筋道で考えていることになる.
まずダーウィンは社会性動物は,仲間と一緒にいることを喜んだり,仲間と奉仕し合うようになると議論する.ダーウィンは単独性で暮らすより,その方が個体にとっても有利である(だからこそ社会性になる)と説明している.またダーウィンはこの「仲間」というのは単に同種メンバーではなく,同じ群れにいる仲間だと釘を刺している.
仲間といることを喜んだり奉仕するために,(自然淘汰により)互いの苦痛を感じる心,「共感」という感情が生まれ,,親兄弟に対する愛情が仲間へ拡大する.これらにより社会性の本能が生まれる.
(なお社会性の本能に関しては種によって異なりうると注意書きがある.かりにミツバチの本能が倫理まで進化したとしたら,その倫理はヒトのそれとは随分異なっているだろうとあって,E. O. ウィルソンのコンシリエンスにあるシロアリの倫理の先取りのようで面白い)
さらにダーウィンはヒトの場合には,仲間への愛と共感に加え,克己心,リーダーへの服従,仲間からの賞賛,非難に反応する心などの要素が社会性本能に加わるだろうと付け加えている.
ここで道徳・倫理の進化にとって特に重要だとダーウィンが考えているのが克己心だ,
知的能力が拡大すると様々な本能がコンフリクトしてある本能に従った場合にあとで内省するようになる.そしてその場では優先されなかったが,後から振り返ってみれば別の選択をした方がよかったという形で「良心」が生みだされる.そこからあの「○○すべきだ」という感覚が生まれるのだという.(そしてそういう内省ができない人間は「悪い人間」であり,「罰」を持って対処するしかないとコメントしている)
このあたりもダーウィンは深くて,その場の選択と後から振り返ったときの選択が異なりうることが重要なのだと考えているようだ.これは双曲割引にかかるエインズリーの議論を思い起こさせてくれる.
この後ダーウィンは「未開人」の道徳と「文明人」の道徳の違いについて議論している.結局部族間抗争の局面で重要だった特質については人類共通の道徳になっているが,そうでないものは異なっているという指摘だ.特に「仲間」の範囲が狭いと,他部族からの略奪,奴隷などが許されてしまうのだと説明している.ここはインナーサークルの大きさが重要だという指摘でなかなか鋭いところだ.片方で文明国家における奴隷制はなおさら許され得るべきではないという含みを持たせているのだろう.
このほか,いかにもヴィクトリアン的な「禁欲」の賞賛については,文明以降のものであって部族間抗争では有利ではなかったのだろう(ダーウィンはヴィクトリアン紳士らしく古代ローマのみだらな絵画彫刻にも困惑しているようだ),また「勇敢さ」は特に重要だっただろうとコメントしている.
ダーウィンは以上をもって,道徳感情が動物と連続していると結論している.こうしてみると確かにあまりうまく連続性を説明できているようには思えない.動物の内的心理がどうなっているかを示すことは難しいということなのだろう.
なおではどのような淘汰によってこのような形になったのかについては後の章でもう少し詳しく議論される.本章はあくまで動物との連続性に絞って書かれているということになる.
関連書籍
シロアリの倫理はこのようにヒトとは違うのだと例示して見せて,倫理も進化の産物であることを説得的に議論したウィルソンのコンシリエンス.シロアリの倫理は,暗闇や地中への愛,生理的カースト制度の神聖さ,脱皮の後の同じ巣の仲間の糞を食べること感覚的喜びと深い社会的満足,個人の権利の否定と集団のための自己犠牲への恍惚などの賛美するものになるだろうという趣旨だ.
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道徳がインナーサークルの輪を広げていくにつれて広がっていくというのは様々なところで説かれているが,もっとも壮大に取り上げているのは「モラルアニマル」の著者ライトによるこの本.
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