「地球46億年全史」

地球46億年全史

地球46億年全史


三葉虫が専門の古生物学者リチャード・フォーティによる地球全史.原題は「The Earth」.フォーティは最初に自分の専門である三葉虫についての本「Trilobite」(邦題「三葉虫の謎」)を書き,それを生物進化全体に拡大した本「Life」(邦題「生命40億年全史」)も書いている.三葉虫の本は文句なく面白かった.何十年も研究してきた古生物への愛と情熱があり,オタク心も満載で大変楽しかった.生命史の本はさすがに焦点が拡大していて内容が平凡で,私には物足りなかった.そこへこの第3弾ということになる.


今回は隣接分野である地質学の本になる.プレートテクトニクスにより,地質,地形,そして地球の成り立ちを解説するという企画である.面白いのは,地質学のそれぞれの主題について,それを最もよく示している現場に著者自身が訪問して,紀行文風に紹介しながら書いているところだ.内容的には専門的に深いというわけではないのだろうが,私は地質学にはそれほど詳しくないので大変楽しめた.


最初はポンペイを葬り去ったベスビオ火山と,ライエルの地質学原理の表紙を飾ったポッツォーリのセラピス神殿の柱を訪ね,地質学発祥に思いをはせる.続いてホットスポット上に生まれたハワイ諸島,数々の地質学者がその成り立ちの謎の解明に取り組んだアルプスの様々な解説がなされる.そしてこれらがプレートテクトニクスでいかにうまく説明できるのか,さらに大陸漂流説に始まるその理論の勃興とそれに対する反発そして受容という物語が語られる.
その後もニューファンドランド島を訪ねて,大西洋が一度閉じてまた開いた歴史を探り,大陸の移動や山脈の形成が過去から何度も繰り返されていることを実感させてくれる.次は鉱脈,鉱物,岩石の成り立ちだ.様々な岩石や鉱物の成り立ちや変成作用が楽しそうに語られる.プレートの境界や大断層を巡り,またグランドキャニオンの地層をラバにまたがり下っていく.地震波形による地球内部の探索まで語った後,世界中をぐるっと回る締めくくりのまとめがあるという構成になっている.所々論争史も逸話的に語られていて人間模様も面白い.


本書は古生物学者という近接分野の専門家が書いたことにより,解説のレベル感が初心者が読んで楽しいというレベルにそろっていて,科学啓蒙書として成功していると言えるだろう.私は読んでいて大変楽しかった.ただ1つだけさらに望むとするなら,本書はそれなりに図版やイラストが掲載されているが,初心者向けにはなお足りないと思う.地層の仕組みやら褶曲やらマントル流やら,いくら言葉を重ねるより図版一枚あるほうがはるかにわかりやすいだろう.地学の参考書でも横に置いて読むといいかもしれない.



関連書籍


原書

The Earth: An Intimate History

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フォーティの本

三葉虫の謎―「進化の目撃者」の驚くべき生態

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Trilobite: Eyewitness to Evolution

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生命40億年全史

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Life: An Unauthorized Biography

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