日本生物地理学会参加日誌2010

 
日本生物地理学会参加日誌2010 その1
shorebird2010-04-06
 

日本生物地理学会が4月3日4日の週末に立教大学で開かれた.
昨年に続いて今年も桜が満開.3日は立教大学の入学式も開かれていたようでキャンパスは賑やかだった.生物地理学会会場近くまで来ると新入生歓迎の喧噪もやや遠くに去り,静かな桜のたたずまいだ.





大会初日 4月3日


午後の一般発表から始まる.


最近座礁したクジラ類から検出された蠕虫類およびフジツボ類-その概要と現地 調査状況の紹介 浅川 満彦


日本近海で網に絡まったり座礁したりして報告されたクジラの寄生生物の報告.エコツーリズムやホエールウォッチングの影響で報告数は増えているそうだ.
報告されたクジラ類は,スナメリ,シャチ,シロイルカ,オガワコマッコウ,コククジラ.
寄生生物としては外部寄生としてフジツボ類,クジラジラミ,内部寄生虫としては吸虫,線虫などが報告された.
印象深いのはまずフジツボ類,シャチには尾びれの後ろに並んでつく,コククジラにつくオニフジツボは平たくなっていて昔のアルミの灰皿をひっくり返したような形だそうだ.ここでは説明はなかったがどのような適応なのかは興味深い.やはり遊泳時にはがれにくいということが重要なのだろうか.
内部寄生虫ではアニサキスがよく見つかるというのも印象的.それにしても打ち上げられたクジラの何十メートルもある小腸を見ていくのは大変そうだ.





ここから昨年の続きで「種」問題について


生物がもつ二面性と“種”の意味 −生命の視点から 森中 定治


カザリシロチョウやヒグマの例をとって側系統だから種ではないという議論は納得できないのだが,それは個体群と種をごちゃごちゃに議論しているところがおかしいのだという点,「個体」が何を意味するかは難しいという点などを上げながら,命をつなぐものが実体としての種なのだという主張.基本的に昨年の主張と同じ内容だったように思う.
「私はこう思う.(側系統でも種でいいのだ)」ということはよくわかるのだが,議論としてはよくわからなかった.個体群から種が生まれて何がおかしいのかもよくわからないし,無性生殖を行う生物について「個体」を議論することの意味もよくわからない.その「個体」概念の議論と「種」問題のつながりもよくわからない.(「個体」が便宜的操作的な概念であるということから類推すればむしろ「種」の実在性の否定につながるような気がする)
また「命をつなぐもの」といわゆる「生物学的種概念」の違いもよくわからなかった.これは質疑で直海からも突っ込みがはいっていた.森中は結論は同じかもしれないが考え方が違うのだと答えていた.


リニージ種概念・生物体系学・生物の命名規約を繋ぐ新たな枠組み 直海 俊一郎


これも昨年からの続き.昨年の発表を整理して「進化的リニージ」としての種という統合的種概念の俯瞰的な説明を行った.(去年はリネージといっていたように思うが,いつから表記が変わったのだろう)
基本は種とはどういうものかと,どういう基準で分類するかを区別して考えようというもので,概念としては進化的なリニージ,基準は様々なものを使うということになる.そして実際の区分は「生物学的種概念」より細かい分類になる.
これを模式図を使ってわかりやすく説明していた.
系統樹からよりうまく枝を切る方法を見つけようと試みるなかで,統合的な基準で切るのが収まりがいいということで分類学者たちの意見が収束しつつあるということのようだ.そして実務としても,病原媒介生物(カ,ハエなど),さらにクモ,魚類,両生類,爬虫類の分類にこの考え方が広がりつつあるということだった.

この「よりうまく枝を切る方法」という言い方に,三中もそれなら同意できると応じ.昨年とは異なり,なごやかな和解の雰囲気に包まれた.



ミニシンポジウム「次世代にどのような社会を贈るのか?」


虫を‘食べる’目に学ぶ 野中 健一


昆虫食についての試食つき講演.最後の結論めいたところは,食べるという視点で生き物を見ることによって自然と人間とのつながりを感じることができるというような当たり障りのないところだが,なんと言っても昆虫食のディテールが面白い講演だった.(そしてもちろん試食も)
基本は肉なのでおいしい.ただしおいしく食べるには消化管をのぞくなどの下ごしらえが重要ということだ.(糞を出し切ったさなぎはその手間が少なくていいらしい,カメムシは湯を何度もかけて臭いを出し切らせてからいただく)
主食にするには大量に必要になるので難しく,基本的にはスナックという感じ.途上国の田舎では現金収入になるというところが重要だそうだ.(質疑では食料生産効率としてもいいのではという質問も出ていたが,処理まで考えると疑問だ)
取り方もいろいろ紹介されていた.印象的だったのは,サバクトビバッタの大発生ではたき火にどんどん飛び込んできてくれるという話,ツムギアリの巣の取り方などだった.
試食昆虫は:イモムシの塩味スナック,カメムシ塩アスパラ炒め,コオロギ,バッタ,ガムシなどの山椒甘辛煮ということだった.基本は干しエビ味でイモムシの方がやや上品な味.成虫はややキチン質が多くて苦みがある.ガムシのいかにも「甲虫」という姿は口に放り込むにはちょっと勇気が要る.前羽根はやや固くて取り除いた方がいいのではという感想.カメムシはなかなかいける味だった.





子ども達に豊かな自然を残してあげよう 山田 胤雄


最後は正統的な環境保護の講演.「不都合な真実」から始まり,「伝説のスピーチ」でしめるというよい作りのものだった.


以上で大会初日は終了である.