洋書を読むための電子書籍リーダー,あるいはiPadについて

shorebird2010-05-04


先月後半にサンフランシスコに所用があり,時間があったのでアップルストアにもよってきた.さすがにお膝元のアップルストアとあってカウンターの後にはiPadが山積みで,それが片端から売れていく.売り切れかと思うとすぐに奥からワゴンで次の山が運ばれてくるという仕組みになっている.
もちろんiPadも触り放題とあって,現物をいじってみると,環境設定で言語を日本語に簡単に変えることができる.当然サファリで問題なく日本語が読める.いじっているうちに,買わずに済ませるという選択肢はなくなってしまった.32G WiFiモデル,599ドル+リサイクルフィー8ドルに消費税9.5%がかかって665ドルお買い上げと相成った.

現在旅行中なので,その場で仮にアクティベートしてくれないかと交渉してみたが,すげなくNoといわれ,*1その場でのアクティベートをあきらめ,戻った後iTunesにつなぐこととなった.現在いろいろ試している最中だが,「日本語母語読者が洋書を読むための電子書籍リーダー」としての感想をとりあえずまとめておく.



<ハードウェア>

  • 重い.680グラムというのは全体の機能からして決して重くないし,ガジェットとしてはアルミとガラスのコンビネーションによる剛体として見事な作りだが,電車で片手に持って読むにはちょっと重い.時々持ち替えが必要だ.
  • 画面の美しさは特筆すべきものだ.バックライト液晶は目が疲れるという話が流布されているが本当だろうか?私の場合少なくとも1時間ほどの読書ではまったく問題がない.カラー表示ができるというのはKindleに対して大きなアドバンテージだ.
  • 直射日光下では見にくいという話も出ているが,誰が直射日光のあるところで本など読むだろうか?逆にちょっと暗いところでは非常に読みやすい.
  • 1日2,3時間の読書なら電池の持ちはまったく問題ない.
  • (5/8追記:ガラス面の反射は気になる人には気になるだろう.私の場合マットタイプの“iPad用保護フィルム”を入手して貼ってからはあまり気にならなくなった)


<iBookソフトウェア>

  • annotationの機能が実装されていない.これはライバルたるKindleのハードにはある機能なので是非実装して欲しいところだ.洋書は気づいたところで書き込んでいかないと後でどこに何が書かれていたか把握するのが難しいだけに重要な機能だ.
  • ブックマーク,ハイライト,検索,英英辞書が使用可能だ.タッチパネルでわからない単語をタップしてやると辞書が呼び出せる.これは想像以上に素晴らしい.通常の本を読む場合,普通に電子辞書を開けようとするとどうしても読んでいる文章から目が離れるが,この直接タップ方式ではそういうことが全くない.こんな快適な洋書読書体験ははじめてだ.Kindle for iPadではブックマークのみでハイライトも辞書も機能がないのでこの差は圧倒的だ.(Kindleのハードウェア版ではハイライト,アノテーションが可能だが,直接タップではなく小さなボタンでカーソル移動しなければならないのでこの快感は得られないだろう)同じ本がiBook StoreとKindle Storeにあるなら迷わずにiBook Storeで買うことになるだろう.AmazonはKindleのハードウェアを売りたいがためにPC版やiPad版では機能制限しているのだろうか.もしそうであればこれは愚かな戦略といわざるを得ないだろう.


(5/20追記,その後Kindle for iPadでもハイライトとアノテーションができることがわかった.http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20100520参照)


  • iBook Storeの品揃えはまだまだだ.専門書はまったくといっていいほどないし,ポピュラーサイエンスの本もKindleに比べると圧倒的に少ない.例えばドーキンスの本を例にとるとKindleではThe God Delusion,The Greatest Show on Earth,Unweaving the Rainbow ,River Out of Eden,Climbing Mount Improbableと5冊ラインアップされているが,iBook StoreではThe Greatest Show on Earthだけだ.グールドになるとKindleでもFull HouseとQuestioning the Millenniumの2冊だけ,iBook Storeには一冊もおいていないという有様だ.Kindleの品揃えだって大したことはないが,このあたりはこれからおいおい改善されていくことを期待するということになろう.
  • なおiBook StoreでもKindle Storeでも,売っている本についてサンプルが無料で落とせる.大体表紙から第1章全部が無料で読め,気に入ったら購入という仕組みになっている.これはなかなか良いサービスだ.(5/8追記:サンプル版は第1章全部が必ず読めるというわけではないようだ.ちょっと残念)


<現時点での評価>
いろいろな欠点もあるが,とにかく単語をタップすれば意味がわかるというのは革命的だ.一旦この機能に慣れると絶対に元には戻れないだろう.実際しばらくiPadで洋書を読んだあとでは,紙の本を読んでいてもその単語をタップしたくなる衝動を抑えることができない.現在はまだまだ読みたい本がないが,品揃えがよくなってくれば,買う洋書はすべてiBook電子版ということになりそうだ.後はアノテーション機能と英和辞書の実装に期待というところだろうか.


(Kindleハードウェアとの比較でいえば)母語で読むにしても画面の見やすさ,直観的な操作フィーリングから行ってiPadの圧勝ではないかと思う.AmazonはKindleハードウェアの価格を大幅に下げて格安リーダーとして売るか,iPad版やPC版の機能制限を取り払って,品揃えのリードを守り電子書籍コンテンツの売上シェア維持を目指すかしかないのではないだろうか.


*1:なぜMacBookを持ってきていないんだという非難のまなざしを感じた