「Spent」第13章 誠実性 その4

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


ペット,ヘアトリートメント,フィットネス,クレジットレイティングとなかなか様々な商品に関連する誠実性ディスプレー.


ミラーは本章の最後に最も重要な誠実性インディケーターとして「高い教育を受けたこと」と「よい就職先に勤めていること」をあげている.ミラーにいわせれば,高い教育や良い就職ヒストリーを金で買うことはできない.これらはいずれも高い誠実性なしには入手困難なのだ.そしてこれらのことは人に高所得と高い商品の購買を可能にする.つまり誠実性のメタインディケーターとしても重要になる.


なぜこれらが誠実性指標になるのか.それは誠実性が低いと,遅刻をせずボスの望む仕事をしていると見せることができないからだ.トラブルを起こし,無断欠勤を繰り返す.だからレギュラーな仕事に就いていることはよい誠実性の指標になるとミラーは説明している.これは就業がより流動的なアメリカでは特によく当てはまるだろう.
(なお高い教育について,なぜそれが誠実性インディケーターとなるのかの理由の説明はない.誠実性がある方が学業成績には有利だろうからある意味自明だが,ミラーは学歴を知性インディケーターとして説明してきたのだから,それとの関連についても一言説明して欲しかったところだ.)


さらにミラーはこの「定職」については知性とは逆相関だと指摘している.これもアメリカ的で面白い.アメリカでは一般知性が少し低くて誠実な人が最も労働者として高い価値があり,定着するということらしい.(アメリカでは高い知性の人はより良い職を求めて定着しない傾向があるということだろう)


そして誠実性と定職について(本書の想定読者には)少しわかりにくいと考えたのだろう,以下のように補足している.

高い学歴を持つ人たちは通常このような低い誠実性の人たちと直接職場で顔を合わすことはない.それはベビーシッターや庭師を雇おうとするときに突然立ち現れるのだ.例えば家のリフォームでもっとも難しいのは,電話に出ない大工や,約束にルーズな納入業者とどう渡り合うかというところなのだ.そういうことを半年も続けると,ほとんどの人は高い誠実性の人をリスペクトするようになる.

これもまたアメリカ的だ.日本ではそこまで苦労はしないだろう.日本は文化的に(あるいは民族的に)誠実性が高いということなのだろうか.逆に言うと日本ではアメリカのような単純でわかりやすい誠実性の示し方は難しいのかもしれない.同じ会社や仕事に長く就いているのは極めて普通のことだ.おそらくディスプレーは非常に微妙な形になっているのだろう.


またこの誠実性の職場でのディスプレーについてクラス差があると説明している,ここもいかにもアメリカ的だ.

ワーキングクラスは,毎日定時に出勤し,きちんと働くこと,定量的なコンシステンシーを示す.
ミドルクラスは,まず学歴を示し,マネージャーからの特定の指示に沿った仕事をこなす.
スモールビジネスオーナーや,創造的な職業の人は,特に強いられていないにもかかわらず長い時間の集中が必要な仕事をしてみせる.フリーランスのサイエンスジャーナリストや角の雑貨屋や小説家はこの手のディスプレーをする.既にテニュアをとった教授が素晴らしい授業や創造的な研究をするのは非常に良い誠実性の示し方になる.


ミラーはこれは職業に対するリスペクトにも関連していると示唆している,俳優には通常長い下積み生活があること,アスリートはつらい訓練を行っていること,そして大統領はまるまる2年のキャンペーンが課せられていることからそれらの職業は敬意を持って受け入れられるのだと言っている.
大統領キャンペーンにはなかなか皮肉が効いているが,確かに私達が下積みや苦労のない成功者に対して結構辛辣であるのはそういうことがあるのかもしれない.


ミラーは本章をこうまとめている.

学校,仕事,クレジットは消費者資本主義の3つの尖塔だ.そしてそれはもっとも信頼できる誠実性のインディケーターだ.すべての消費者の購入はこの3つに依存する.だからこれは誇示的消費の基礎にあたるのだ.