日本進化学会2010 参加日誌 その6

shorebird2010-08-14
大会最終日 8月5日


今日も大岡山は暑い.本日は最終日となる.午前は一般口頭発表に参加,面白かったものをいくつか紹介しよう.


OP5 一般口頭発表


偽遺伝子化と人類進化 颯田葉子


ヒトの進化における偽遺伝子についての発表.
偽遺伝子には,プロセスト偽遺伝子(上流過程にレトロトランスポゾンがインサートされたりして発現しなくなるもの)と,伝統的偽遺伝子(遺伝子重複が生じたり,環境変化により不要になったりして壊れていくもの)がある.
(チンパンジーとの比較において)ヒト特異的な偽遺伝子を調べると121個報告されているが,これをオランウータンやマカクとも比較し,プロセスト偽遺伝子をのぞいて精査した.
その結果,真にヒト特異的に固定した偽遺伝子は38個のみであることがわかった.このうち25が臭覚のレセプター関連,4つがT3レセプターだった.
またヒトと霊長類で独立に偽遺伝子化したものが25見つかった.
また同義変異,非同義変異の比率を使って偽遺伝子化した年代の推定値なども発表されていた.


ミトコンドリアDNA殻見たメソアメリカ地域先住民集団-1 水野文月
ミトコンドリアDNA殻見たメソアメリカ地域先住民集団-2 五條堀淳


おなじグループによる発表.中米の先住民のミトコンドリアハプロタイプの分析を行った結果の発表だった.
最初の発表はハプロタイプの集団ごとの分布からアメリカの拡散過程を推測するもの,次の発表はベイズ法により時期を推測するものだった.ハプロタイプの各タイプで合着時期が25千年前と一致することから1回移住の可能性が濃厚だと結論していた.
質疑でも問題になっていたが,これはベーリングにたどり着いた集団が単一集団であったことを示唆しているが,その後の移住が1回だった可能性が高いと言えることになるのだろうか.細かなタイプ数が多ければそういうことになるという理解でいいのだろうか.ちょっとわかりにくかった.


チンパンジーとヒトの目の動きの種差 狩野文浩


チンパンジーとヒトではある画像を見せたときにどこを見るかは酷似しているが,その動きは異なる.チンパンジーの方がより素速く走査する.狩野はこれについて「ゆっくり見ることに適応的な意義があったのだろう.そしてそれは取り込む情報をあえて制限することによってより深く情報処理ができるということではないか」と推測していた.
今後検証ができると面白い仮説だ.


表現型可塑性の共進化:誘導攻撃が誘導防御よりまれなわけ 舞木昭彦


補食リスクの大小により防御に関する表現型の可塑性を持つ生物は多く報告されているが,餌のとりやすさの大小により,補食に関する表現型の可塑性を持つ生物はあまり報告されていない.
これについて数理モデルを作って解析してみた.餌と捕食者双方に表現型可塑性があるとして,その選択した形質によって補食率が変わるようにし,可塑性動態,可塑性自体の進化動態,個体群動態をモデル化する.
パラメータにより2種ともに可塑性を持つ状態が得られるが,捕食者集団内での攻撃タイプは少なく,可塑性のレベルも小さいという結果が得られた.このことからこのような生物が見つかりにくいため報告されにくいのではないかと結論づけていた.

モデルのどの部分がこの結論に効いているのかはよくわからなかった.表現型と補食率の関数の形が重要な気がする.


パナマの毒ガエルの体色分化を説明する量的遺伝モデル 巌佐庸


春の生態学会の時の発表http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20100321と同じ内容.
春の時は思いつかなかったが,体色の鮮やかさは,警告色だとすると適応度が高いことになる.これは配偶者選択の性淘汰形質であれば要求されるハンディキャップコストとは真逆になるはずだ.そうするとこのモデルのようなことは生じにくいのではないだろうか.あるいは時間軸のオーダーが両淘汰で異なっていれば可能なのか.なかなか興味深い.


性的対立がもたらす頻度依存選択:少数者利益と型比の進化的動態 高橋佑麿


アオモンイトトンボには雌に2型あって色彩が異なっている.何故このような多型が保たれているのかについて,頻度依存淘汰があるのではないかということで調べてみたもの.
実際により頻度が多いタイプは,オスにより配偶相手としてより好まれ,メイトガード行動をより頻繁に受けるために適応度が減少していることが示されたというもの.
質疑でなぜオスはそのような雌を選ぶのか(頻度の高い型の雌を選ぶと不利ではないか)という鋭い質問が飛んでいた.わからないという回答だったが,なかなか興味深い問題だ.


生態適応に伴う植物間相互作用の変化 鈴木亮


奈良公園での調査.シカに食害されるとイヌタデは矮小化適応を見せる.このイヌタデとイラクサの相互関係を調べると,矮小化していない場合にはイラクサによって利益を受けるが,矮小化した場合にはイラクサによって害を受けるというように変わるというもの.



午前の部はここで終了である.今日も暑くて,昼食は正門近くのラーメン屋「凌駕」に飛び込んだ.二郎風のラーメン(業界では二郎インスパイア系というらしい)でいかにも男子学生の多い学生街の味だった.


この項続く