日本進化学会2011 KYOTO 参加日誌 その2 


学会初日 7月30日(承前)


午後はちょっとナローな武器甲虫のセッションに参加



武器甲虫の進化学:形態・行動と発生機構の統合的理解に向けて


発生と系統から説明される甲虫における顕著な武器を持つ傾向の形成 河野和男


自ら集めたコレクションの写真を紹介しながら,カブトムシやクワガタムシの武器については,種内,種間,性的二型の多様性が非常に高いことをまず説明.これに対する淘汰的な説明は,オス間の闘争,オス間でのディスプレー,メスへのディスプレー,とあるが,いずれもそれだけで説明するのは難しいと概説.(オス間闘争がもっともありそうだが,同じような形でも闘うものと闘わないものがあるし,非常にファンシーなものもある)
そして個体発生における形態変化,種内変異の様子,種間の形態差の様子がよく似ていることから非常に強いアロメトリー的な発生制約・系統制約があることを解説.性的二型→アロメトリー→体長→武器形態という方向で決まっているのではないかという説明だった.
河野はこれをもって通説への重大な挑戦だとしていたが,そこはいかにもグールド的でよくわからなかった.性的二型自体は強い淘汰要因があることを示しており,個別の種ごとにオス間競争の形式が微妙な条件によって変わっていて,形態の決まり方にはかなり強い発生制約がかかっているというだけではないのだろうか.


カブトムシとクワガタムシの闘争行動 本郷儀人


クワガタムシは異種間でも同じ餌資源も巡って競争するので,同種間だけでなく異種間闘争も淘汰要因であった可能性があるという視点から見たノコギリクワガタとミヤマクワガタの闘争行動の解説.
ノコギリクワガタは下手投げという技を持っているので,ミヤマクワガタに対して(体長の差を調整すると)有利に闘いを進められるという内容.これが進化的な共進化の問題なのかどうかについては言及がなかったが,動画もあり,昆虫好きな人には楽しい発表だっただろう.


コクヌストモドキの形態学的統合 岡田泰和


オスの武器の形態について個体の全体的なパフォーマンスの視点から考察しようというもの.
まず様々な形態の発達度合いを統計処理してみるろ,クワガタの大きさは頭部,前肢と前胸部に正に相関し,上翅と負に相関するという結果.
次にこのような特徴がよりうまくセットになっているオスの方が強いことを示し,これが機能的な適応だと主張.最後に発生的に調べると同じ遺伝子の多面的発現という現象が見られるという発表だった.


カブトムシの角の形成にかかる分子的メカニズムの理解に向けて 新美輝幸


カブトムシの角の形成が,脚や翅の発生と同じくイマジナルディスクを作って進む事やそれにかかる遺伝子などを解説する内容.


クワガタムシの性的二型大顎の発生メカニズム 後藤寛貴


これまでカブトムシ型の武器形成については研究が多いがクワガタの大顎の形成については研究が少ないので調べてみたと前振り.オスは基本的には幼虫時のエサの量が引き金になり,JH遺伝子,さらにJHA遺伝子が発現して大きくなり,メスはdsx遺伝子で抑制されるというもの.


インシュリン信号が性淘汰にかかる武器の条件付きで極端な形成のためのメカニズムだ Ian Warren


カブトムシの角は性淘汰産物で,栄養状態に対して非常にスティープな発達を示す(他の形質が2倍になるところが7倍になる),このメカニズムには発生経路にあるインシュリンレセプターの感度により決まる.実際にRNA干渉でインシュリンレセプターを阻害すると角は大きく発達しないというもの


カブトとクワガタの武器を巡って様々な話が聞けて楽しいセッションだった.




これは四条烏丸の大丸地下で食した抹茶パフェ(和カフェ・イオリ)


(この項続く)