Inside Jokes 第10章 その1 

Inside Jokes: Using Humor to Reverse-Engineer the Mind (The MIT Press)

Inside Jokes: Using Humor to Reverse-Engineer the Mind (The MIT Press)


第10章 反論に対して


さて前章でハーレーたちはユーモアに関する仮説を提示した.
本章ではまず仮説をどのように検証するかという方法論を論じている.このあたりは著者にデネットがいることもあってなかなか哲学的だ.
 

A 反証可能性


参照ジョー

  • 二人の男が朝食を取っている.片方が蘊蓄を始める.「ねえ,トーストを落とすといつもバターを塗った方が下になるって知ってた」もう片方が反論する.「そんなことはないと思うよ.それはバターが下になったら後始末が大変だから印象に残りやすいと言うことに過ぎないさ.バターの側が下になる確率はちょうど半分だよ」「へえ,そうかい,じゃあやってみせよう.見てな.」最初の男は持っていたトーストを落とす.するとトーストはバターの側が上になった.二番目の男は「ほら,言った通りだろ」と勝ち誇る.最初の男はこう言った.「ああ,どうしてかわかったぞ.バターを塗る方を間違ったんだ」


まず仮説を検証するには,ある例が「おかしい」かどうかを判定できなければならない.
いずれニューロサイエンスがそれを解き明かすかもしれないが,当面のところは本人の報告とフェイクできないデュシャンヌ笑い(顔の表情や笑いを第三者に判定させる)に頼るということになる.方法論的には,フェイクのジョー*1を混ぜておく手法もあるとのことだ.


検証はまず「おかしさ」と仮説の要素の相関を見ていく.ハーレーたちは自分たちの仮説の要素として以下のものを独立変数としてあげている.

  • アクティブな信念にコミットしている
  • コミットが覆る.
  • ヒューリスティックリープによってそれは覆る
  • 他の感情に干渉されない.


次に仮説の反例と思われるものを探し,本当に反例となるのかどうかを検討する.


最後に仮説から生まれる予測をテストする.
ハーレーたちは予測として以下のような例をあげている.

  • 一人称か三人称か,また繰り返しの程度によっておかしさの程度は異なってくるだろう
  • 三人称ユーモアは心の理論を持つものだけが面白く感じるだろう.これは子供の発達段階や自閉症により調べることが可能だ.
  • 子供のうち「何故」という質問の形式について志向姿勢の一次と高次の段階の区別がつくものだけが,「何故ニワトリは道を渡ったのか」というなぞなぞジョー*2を笑えるだろう.


またユーモアに関してはほかの認知心理学のテーマと比べて実験に難しい点があることについてコメントしている.
特に背景知識が重要であること,一回聞いたことがあるかどうかに大きく左右されることなどは確かに難しそうだ.


いずれにせよ独立変数との相関,予測の検証については今後のリサーチの進展に期待し,ここではガイドを示したということらしい.


B 認識的な非決定性


参照ジョー

  • 幌馬車は燃え上がり,そのそばには入植者が倒れている.隣には血だまりがあり,彼の胸には矢が刺さっている.騎兵隊の隊士が駆け寄り声をかける.「痛むか?」「笑ったときにはね」


ここからはハーレーたちはまず反例のように思われるものを取り上げていく.


最初に取り上げるのは,従前取り上げていた「おかしい」の二義に関するものだ.単に「何かが違う」という感覚は別に笑いを誘うわけではない.
<例>

  • 家を出るときに電気を消したつもりだが,帰ると明かりがついている.
  • 右腕に違和感がある
  • エンジンの音がおかしい
  • ミルクの匂いがおかしい


ハーレーたちは,これらは確かに期待と感覚が一致しないが,まだどちらも優勢になっていないと指摘している.つまり解決していないと言うことだ.
では笑いに変えられるか?ハーレーたちは不一致を解消させ,いくつかの改変をすれば可能だと主張している.

  • 電気を消したことははっきりしていたが,実はタイマーをセットしていたのを忘れていた
  • ミルクの匂いをかいで問題ないと判断したが,いたずらですり替えられて古いミルクを飲んでしまう


前者は1人称的なユーモア.後者は第三者の志向姿勢を取ればおかしいということになる.

*1:ハーレーたちはこれに関してno soap radioを参照していて面白い.これは仲間内で示し合わせておき,カモを呼んでジョークを聞かせ,意味不明の台詞をオチのように言って皆で大笑いしてカモを煙に巻くといういたずらのようだ.そのオチが「no soap radio」だったことからこのようないたずらを総称してこう呼ぶらしい.

*2:答えは「反対側に行くため」