
Risk Intelligence: How to Live with Uncertainty (English Edition)
- 作者: Dylan Evans
- 出版社/メーカー: Free Press
- 発売日: 2012/04/17
- メディア: Kindle版
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確率を実際にどのように意思決定に利用するか.エヴァンズは確信度に応じて行動を変える方法を勧め,そのためには確信度についてアセスする必要があるが,ここにいろいろな認知バイアスなどの落とし穴があることを説明する.
<ベイズの定理>
さて理論的な話をするなら主観的確信度には当然ベイズ主義が関連するだろう.エヴァンズはここで「驚くべきことに主観的確信度をどう持つべきかについて数学的な定理がある」という言い方で紹介を始める.
まず有名なベイズの定理を書き下している.Hが仮説,Eが証拠あるいは観察事実として次のように表される.
そしてその意味についての解説がある.このあたりはベイズの入門編というところだ.ここでは先ほどの実験に関連して,推理小説を読む際に,5人の容疑者があるときにどう考えていくべきかに沿って(主観的確率の推移グラフ付きで)解説を進めている.
<ヒトは生得的ベイジアンか?>
ではヒトはベイズ的に確信度を調整しているのだろうか?これはもちろん意識的に行っている必要はない.認知科学者は何十年もヒトが生得的なベイジアンかどうかを議論してきた.
エヴァンズのまとめによると70年代から80年代のテストはおおむね否定的だった.これらのリサーチはヒトがベイズ的に推論できない特定の例をいくつか集めた.そのうちの1つは有名な結核やHIVなどの診断にかかるベースレートの誤謬だ.
これは「非常に正確な診断テスト受けて陽性になった場合に,あなたがその病気に感染している確率を問う」という問題に対して見られるバイアスだ.多くの人は,病気である人がテストを受けた場合のテストの正確性(テスト感度)に目を奪われて,そもそも全人口にどのぐらいの割合で感染者がいるのか*1(ベースレート=事前確率),非感染者がテストを受けて誤って陽性に判断される確率(偽陽性率)を無視する.
ベースレートが非常に低く(0.2%)偽陽性率がそれなり(5%)だと,感度が非常に高く(99%)ても感染確率はそれほど大きくない数字(4%)になる.エヴァンズの学生たちは,事前にベイス定理を教わっていても大半は間違え,解答を見せられさらに詳細に説明を受けてもなお信じられない風情だったそうだ.*2
しかし最近のリサーチによる議論はやや別な方向に動いている.設問を変えると,ベースレートにこだわりすぎる例,上手くやれる例が次々に見つかったのだ.
バイアスが消える設問例としては「人々がどのぐらい長く生きそうか?」「ある映画の興行成績はどのぐらいになりそうか?」などがある.これらのリサーチを行ったグリフィンとタネンバウムは,上手くやれるかどうかにとっては,人々が慣れている状況における設問かどうかが重要だと示唆している.
グリフィンたちのリサーチでは,映画の上映時間や興行成績について何らかの手がかりを与えて予想してもらうと,きちんと事前確率を考慮した解答になっているばかりか,(手がかりを動かして比較すると)被験者はその事前確率の分布まで(上映時間は正規分布)(興行成績は冪乗分布)考慮した解答になっていることが示されている.
これらのことからRQについて何がわかるだろうか? エヴァンズは次のようにまとめている.
ベイズ推定をするのに,ベイス理論を数学的に理解している必要はない.しかしいくつかの落とし穴(新しい証拠がでたときのそのほかの事象についての調整は,それまでの確率に比例的に行う,ベースレートの重要性*3については特に肝に銘じておく)に注意しておくことは有用だろう.
ベイズ推定を利用するときの実際上の問題点は,客観的な事前確率分布や尤度がなかなか得られないということだから,ここでは,良い事前確率分布と尤度推定が得られた場合の利用方法という趣旨なのだろう.
次章では期待値を用いたより洗練された方法の解説になる.