「Sex Allocation」 第3章 血縁者間の相互作用1:協力と競争 その6

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


LRCの続き,霊長類の次は有袋類だ.


3.4.2 有袋類のLRC


性比の歪みは有袋類でよく観察される.この性比調節は受精前のメカニズムで可能であることが示唆されており,制約やノイズの少ない性比調節が期待できる.多くの観察される歪みはオスに傾いたもので,オスが分散することから説明としてはよくLRCが持ち出されている.

最初のリサーチはコックバーンほかによるフクロネコ科の3種,9個体群の比較リサーチだ.これらの種ではオスは世代重複しないが,メスは2回目の繁殖を行い,その際に世代の異なるメス同士(母娘)で競争する.コックバーンはメスが2回目の繁殖を迎える割合と性比に相関がある(より競争があるほどオスに傾いている)ことを報告している.(Cockburn et al. 1985)
なおウエストは,これらのメスが2回目の方が子数を多くすることを母親との競争可能性が低くなるからだという解釈を紹介しているが,逆に娘との競争は多くなるのではないだろうか.あるいは1回目の出産によって生まれるメスの方が競争力が高いということなのだろうか.ウエストの記述には詳細な解説がなく,この部分はよくわからないところだ.


ジョンソンほか(Johnson et al. 2001)はフクロギツネで同様のリサーチを行っている.フクロギツネではメスは夜行性で昼間はユーカリの樹洞で過ごしている.樹洞は貴重なリソースで,なわばり内の複数の樹洞を同じ群れのメスだけで独占する.ジョンソンは8個体群でなわばり内の樹洞が少ないほど性比がオスに傾いており,その他のサイズや個体密度とは相関しないことを報告している.


エストは,これらのリサーチも霊長類のそれと同じくその他の複数の解釈が可能だと指摘している.

  • このうちのいくつかの個体群では性比がメスに傾いており,これはLRCだけでは説明不可能だ.
  • 有袋類のリサーチの議論は全体性比が念頭にあるが,もし局所条件により調節があるなら,全体性比の予測は難しい.
  • TW効果や順位の相続などの可能性が排除されていない.特にこれらの有袋類では性差があってオスの方が大きく,より栄養状態のいいメスがより子供の性比をオスに傾けているという報告があることはTW効果が無視できないことを強く示唆している.
  • さらに有袋類では一腹子数が大きく,これは,例えば授乳期間をオスとメスで変えることなどを可能にし,事態を複雑にしている.

霊長類と同じく,クリアーなデモンストレーションは難しいことがよくわかる.


3.4.3 偶蹄類におけるLRC


クラットン=ブロックはアカシカの性比をリサーチした.アカシカではオスが分散し,メスがナワバリに残る.そして残ったメスの平均サイズが小さいグループの方が大きなグループより繁殖成功が高い.これは競争があることを強く示唆している,クラットンブロックはこのことをもってLRCにより全体性比がオスに傾いていることが説明できると主張した.(Clutton-Brock et al. 1982)
エストは,アカシカではメスが局所条件に応じてTW効果により性比を変えることが明らかになっており,全体性比の予測は難しいはずだとコメントしている.


3.4.4 鳥類におけるLRC


ゴワティは鳥類におけるLRCの存在を主張した.多くの鳴鳥類ではメスがより分散し,メスに傾いた性比が好まれ,ガンカモ類ではオスが分散し,オスに傾いた性比が好まれているはずだと予測し,18種のデータを集めた.データはゴワティの予測傾向を強く示していた.

エストは,このゴワティのリサーチには多くの批判があると指摘している.

  • 鳴鳥類とガンカモ類という二つの系統しか用いていないので,系統関係を考慮に入れるとデータは有意とは言えない.
  • いくつかのアウトライアーなデータポイントには疑問が残る.
  • 発見されたパターンはサンプルヴァリエーションとして解釈できる.
  • ハヤブサ類とキツツキ類のデータを加えると有意ではなくなる.
  • LRCを引き起こすような実質的な競争があるかどうか疑わしい.
  • よりコストのかかる性の子の死亡率が高いと考えてもこのデータは説明できる.


LRCを実証的に示すのは至難の業であることがよくわかる.ウエストは続いて社会性昆虫のリサーチの紹介に移る.