「Sex Allocation」 第4章 血縁者間の相互作用2:局所配偶競争(LMC) その2

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


エストのLMC解説,まずハミルトンの(二倍体生物の)オリジナルモデルを解説した後で,半倍数体生物のケースを取り上げる.


4.2.2 半倍数体における近親交配


半倍数体生物においては,近親交配による血縁度の非対称性が(LMCにおける血縁オスの競争と近親交配によるメス算出の追加利益に加え)第3の要因として,さらにメスに傾いた性比を有利にする.
半倍数体生物において近親交配(兄弟姉妹間の交配)が生じると,母から見て娘は近親交配がない場合より血縁度が高くなるが,息子は(いずれにせよ母からしかゲノムをもらわないので)同じ血縁度のままだ.これはLMCにおいてより倍数体性物よりメスに傾いた性比を有利にする.

これをオリジナルモデルに組み込む方法はいくつもあるとウエストはコメントしている.

  • 1つのアプローチは個体群を通じて(パッチあたりの創設メス数)Nを一定とすることだ.こう仮定するとパッチにおける近親交配確率kは1/Nで一定になる.この場合のESS性比は以下のようになる.


  • 別のアプローチはパッチ数Nは個体群内でばらついていて,平均近親交配確率をkと置くことだ.こうするとLMC効果を定めるNと独立に近親交配効果を見ることができる.この場合のESSは以下のようになる.



エストはここでkの算出方法について注意を記している.これはNの調和平均を使って求められるように思われることが多いが,それには各パッチの生産性が同じという前提が必要だというものだ.このような誤りがよく見られるのだろう.
またハミルトンのオリジナルの論文ではESS性比を倍数体モデルで提示しておきながら,シミュレーションを半倍数体で行っていたために数字が微妙に合わなかった(N=2のときに論文のESS式では0.25になるべきところシミュレーションでは0.21近辺だった.この上記の半倍数体モデルのESS式ではおおむね0.214になる)というエピソードも紹介している.


4.2.3 代替的解法


LMCを定式化する方法にはいくつかある.これまでのモデルは昆虫の生活史を念頭にパッチあたりのメス数に応じて性比がどう変わるかをモデル化したものだ.ここで紹介すべきもうひとつのモデルは,近親交配の程度に応じて性比がどう変わるかを考えるものだ.変数としては近親交配確率 k や近親交配係数 f (子孫の遺伝子座が同祖的な遺伝子のホモになる確率)を用いる.
kやfはNに依存するので,この2つのモデルは基本的には同じ問題を扱うものになる.ではどのような場合にこのようなモデルが有用なのか.それは生物種によってはこのような変数の方が観測したり推測したりしやすいからだ.ウエストは単細胞寄生生物や植物を例にあげている.


エストはここから様々なESS式を紹介している.


二倍体生物の場合



半倍数体生物の場合



半数体生物の場合



エストはここでもうひとつの拡張を示している.それは二倍体の雌雄同体生物の場合だ.この場合LMCは血縁の息子同士ではなく,同じ親からの精子間で生じる,そしてここではsは雌雄機能に対するリソース配分を表すことになる.ここではESS式は以下のようになる.ウエストは自家受精する場合の方が少しメスが多くなることについて,自家受精するなら卵の生産は自家受精の可能性の分より価値が上がるからだと説明している.


自家受精可能な場合



自家受精しない場合



ここまでがLMCの理論編だ.ウエストは最後にいくつか注意をおいている.

  • 半倍数体生物において近親交配がよりメスに傾いた性比を実現させるという問題と,近親交配の強度はLMCのレベルと相関するので性比を予測するのに使えるという問題の区別は重要だ.
  • これは二倍体生物のESS性比式と半倍数体生物のESS性比式をよく比べてみればわかる.二倍体生物では近親交配自体はESS性比に影響を与えずに,単に配偶競争の強さと相関しているだけなのだ.そして半倍数体生物ではこれは性比に影響を与えている.もっともその影響は配偶競争のそれに比べて非常に小さい.

次節からは実証リサーチの紹介になる.