「Sex Allocation」 第8章 世代が重複する場合の性投資比 その3

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


エストはここまで世代重複モデルとして死亡率や出生率に攪乱がある場合を議論してきた.次は循環的な変動がある場合の議論になる.


8.4 循環モデル


ここではまず理論が解説され,実証に触れ,最後にこのモデルが持つ社会性の進化に関するインプリケーションに触れる.


8.4.1 理論


ウィーレンとシャノフは条件依存性比調節の(季節をイメージした)循環モデルを構築した.(Werren adn Charnov 1978)

  • 繁殖は春と秋の年2回.春生まれの個体は秋に繁殖してすべて死ぬ.秋生まれのメスは次の春の繁殖シーズンの後死ぬが,オスの一部はさらに秋まで生き延びて2回目の繁殖を行ってから死ぬ.このため秋シーズンでオスが2世代重複になる.
  • 彼等はこの条件の下では,秋シーズンでオスに傾け,春シーズンでメスに傾ける生活史が進化することを示した.これは秋生まれのオスの繁殖価がより高いことから説明できる.

その後多くのリサーチャーによって様々なより一般的なモデルが構築された.これらのモデルの予測は,一般的により世代重複をする性に傾ける傾向が生じることを示している.

  • シーガーはこの点を2つのモデルによって示した.(Seger 1983)
  • 最初のモデルは「ジガバチモデル」だ.このモデルではオスもメスも終齢幼虫で冬越しし,春に成虫になって繁殖する(これを春世代とする).春世代のメスが生む子世代は夏までに成虫になり夏世代となる.夏世代で生まれる子はすべて冬越しする.シーガーは2つの重複をモデルに加えた.(1)一部の冬越しした春世代のオスは夏まで生き残る(2)一部の春世代の子は夏世代にならずに幼虫のまま冬越しする.

このモデルを解くと複雑なESS式が得られる.(ウエストは解を詳細に解説している)基本的にオスの重複が高まるとESS性比は春世代の子でメスに,夏世代の子でオスに傾くことが示されている.

  • 2番目のモデルは「ハナバチモデル」だ.このモデルでは受精したメスが成虫のまま冬越し春に卵を産む.この春世代の子は夏までに成虫になり繁殖する.この夏世代の子は秋までに成虫になり秋に交尾する.オスはそこで死に絶え,受精したメスが翌春まで生き残る.重複は(1)一部の春世代の子が成熟を遅らせて秋繁殖をする(2)一部の夏世代のオスが夏だけでなく秋にも繁殖する,ことによって生じる.

このモデルからも複雑なESS式が得られる.

エストはこれらのモデルについてこうまとめている.

  • これらのモデルはメスが純粋に二化性であれば(オス側でのみ重複が生じる場合に)等価になる.
  • しかしメス側で重複が生じるようになると両モデルは異なってくる.ハナバチモデルでは冬越しするメスが重複に大きな影響を持つのでより性比の調節が大きくなる.
  • 両世代を合わせた平均性比はどうなるだろうか.シーガーは0.5になるとは限らないと主張した.しかし私とペンが最近計算したところによると倍数性を前提としてメス側で二化性が保たれていると幾何平均性比は0.5になることを見いだした.(論文としては未発表)この場合算術平均性比は性比をコントロールしている性(上記モデルではメス)に傾くことになる.

最後のあたりは細かい部分でかつなかなか難解だ.


8.4.2 循環モデルの実証


実証はなかなか難しかったようだ.ウエストは以下のように解説している.

  • シーガーは彼の循環モデルを検証できるデータを探し,ジガバチモデルに適合する10の孤独性カリバチのデータを見つけた.このうち9のデータセットで予測される方向に夏世代性比が傾いており,5つのデータセットで有意であった.とはいえパラメータの値の推定値がなく強い支持データとは言えない.特にオスにおいても重複があったかどうかについて確証が無い.シーガーはオスの寿命データから重複はありそうだと述べている.(Seger 1983)
  • しかしながらそれ以降のジガバチやハナバチの詳しいデータはモデルを支持することに失敗している.世代間の性比のふらつきはあってもオスが重複していないと思われるデータが数多く集まった.(ウエストは日本人研究者のものを含め10以上のリサーチを引いている)そしてこれらは,オスメスを作るコスト比の季節変動,LRC.LREなどの代替的な説明が可能だ
  • この状況はブロックマングラフェンの7年に及ぶパイプオルガンアナバチのリサーチによく示されている.(Brockman and Grafen 1992)このリサーチでは彼等はシーガーのモデルにあるパラメータ値の推定を行い,代替説明にも気を配った.一部の観察性比はシーガーのモデルと整合的で,さらに春生まれのオスが一部夏まで生き残るようだった.しかし生き残る春世代のオスは比較的孵化が遅く最初の春シーズンの繁殖はせずにオスの世代重複は無いようだった.そして性比を説明できる他の説明は排除できなかった.
  • 寄生バチについても世代重複による性比調節の有無が調べられたが,確実なものは見いだされなかった.

モデルは美しいのだが,なかなかモデルに会うような生活史を持つハチはいなくて実証は困難だったということだろう.