「Sex Allocation」 第11章 一般的な問題 その15

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


残る問題の3つ目はメカニズム.


11.4.3 メカニズム


私たちの理解をはばむ大きな要因の一つは,性比調節の基礎にあるメカニズムがよくわかっていないことだ.特に環境をどのように評価するのかの部分が難しい.
進化生物学者は,メカニズムの問題を無視し,生物個体をブラックボックスとして扱ってしまいがちだ.これは究極因と至近因の区別,両者は補完代替的なアプローチであって排他的なアプローチではないという理解が元になっている.そして行動生態学はメカニズムを理解できなくとも究極因を考えることで物事の理解を進めることができることをよく示している.
しかしながら性比リサーチの多くのエリアで私たちの理解は非常に深くなったので,今やリサーチは個体の実現する性比が理論的な予測とどこまでフィットするかを調べ始めている.このような場合にはメカニズムの問題は非常に重要になる.それは最適性比が環境に依存する場合には,個体がどこまで環境についてアセスできるかに影響されるからだ.

  • アリのワーカーは,クイーンが何度交尾したかを評価するメカニズムの制約によって,最適性比を間違うことがある.
  • 寄生バチのLMC性比への調整能力は,そのパッチに産み付けるハチの個体数を評価できる能力に依存する.
  • エビの性転換戦略は彼等の個体群中の相対的な体サイズ評価能力に依存する.
  • 社会性膜翅目昆虫のクイーンとワーカーの性比戦略は,それぞれワーカーの性比調整能力の大きさに依存する.

適応現象について理解が進むとよりメカニズムの問題が重要になるということだ.これらのメカニズム的な制約を理論に組み込むことは残された大きな問題の一つだ.



エストは特に性比理論について解説しているが,これは行動生態学全体の問題とも重なるだろう.基本的に行動生態学はthe phenotypic gambitの上に大きな成果を挙げてきたわけだが,究極因がより理解されればされるほど,残された問題の中でのメカニズムの理解が相対的に重要になるわけだ.