Language, Cognition, and Human Nature 第7論文 「ヒトの概念の性質」 その5

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

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ヒトが認知しているカテゴリーは必要条件と十分条件で明確に決められる古典的カテゴリーなのか,ファジーなファミリー類似カテゴリーなのか.ピンカーは英語の不規則型をテストケースにして考察する.

意外なテストケース:英語の過去形

ピンカーはまず英語の動詞の過去形には,edをつける規則動詞のものと,そうでない不規則動詞のものがあることを説明する.この辺は外国語として英語を学んだことのある人にはおなじみのところだ.そこから深い解説に入る.

  • 実際には,不規則動詞は単一のクラスではなく,変化の種類に基づくいくつかのサブクラスのセットになっている.例をあげると以下のようなサブクラスがある.
  • 母音を緩める.: bleed/bled, breed, feed, lead, mislead, read, speed, plead, meet, hide, slide, bite, light, shoot
  • 母音を緩め「t」を加える.: lose/lost, deal, feel, kneel, mean, dream, creep, keep, leap, sleep, sweep, weep, leave
  • 韻を「ought」に換える.: buy/bought, bring, catch, fight, seek, teach, think
  • 「i」を「a」あるいは「u」に換える.: ring/rang, sing, spring, drink, shrink, sink, stink, swim, begin, cling, fling, sling, sting, string, swing, wring, stick, dig, win, spin, stink, slink, run, hang, strike, sneak
  • 母音を「u」に換える.: blow/blew, grow, know, throw, draw, withdraw, fly, slay

ピンカーはさらに詳細を見ていく.

不規則サブクラスの特性

(1)独自の非限定的な特徴
  • 不規則サブクラスは,しばしば語幹から過去形を導く厳密な必要条件的基準以外の音韻的な特性で特徴付けられている.
  • 「o」母音から「u」へ変化するサブクラス(blow, grow, know, throw, draw, withdraw, fly, slay)を考えてみよう.原理的には「o」母音あるいはそれに類似した母音を持つどんな動詞もこのサブクラスのメンバーになれる.しかし実際にはこれらの動詞はすべて母音で終わるものだ.そしてその母音は通常二重母音で,さらに複数子音が前にある.
  • 同じように,「ay」母音を「aw」に変えるサブクラス(bind, find, grind, wind)は,原理的には「ay」母音を持つ動詞ならどんな動詞でもメンバーになり得る.しかし実際にはすべてのこのサブクラスの動詞は「nd」で終わっているのだ.
  • 最後の「d」を「t」に換えるサブクラス(bend, send, spend, lend, rend, build)は,「d」で終わる動詞などんな動詞でもメンバーになり得る.しかし実際には,このサブクラスのほとんどの動詞は「end」で終わるものだ.
  • また「e」母音を「U」に換えるサブクラス(take, mistake, forsake, shake)は.「e」を持つ動詞なら何でもメンバーになり得るが,実際には「ake」という韻を持ち,舌頂音が(その韻の)前にある.
  • ここで注意しておくべきなのは,この独自の非限定的な特徴は,英語の音声パターンとして,気まぐれ的であって法則ではないことだ.どのような音韻ルールも「loan」の過去形として「*loon」を排除しないし,「chide」の過去形として「*choud」を排除しないのだ.
(2)ファミリー類似
  • 不規則サブクラスはファミリー類似構造を持つ.ここで「I」を「Λ」に換えるサブクラスを考えてみよう.ほとんどの動詞は最後が軟口蓋鼻音だ(shrink, sink, stink, cling, fling, sling, sting, string, swing, wring, slink).いくつかは軟口蓋音だが鼻音ではない(stick, dig, sneak, strike).鼻音である母音で終わるものもある(win, spin, swim, begin).
  • 同様に最後の二重母音を「u」に換えるサブクラスには,子音-共鳴音の連続音で始まり二重母音「ow」を含むもの(grow, blow, throw)が多い.しかしこのメンバーの1つ「know」は「ow」を含むが,子音連続音では始まらない.別のメンバーは子音連続音で始まるが「ow」とは異なる二重母音(あるいは単母音)を持っている(draw, withdraw, fly, slay).


要するに不規則動詞のサブクラスのメンバー性には必要条件や十分条件がないということだ.これはこのサブクラスが古典的カテゴリーには当てはまらないことを示している.ではファミリー類似カテゴリーと言えるのかどうかを次に見ていくことになる.