From Darwin to Derrida その181

 
ヘイグは第14章において自由について語る.RNAワールド仮説においてRNAの機能のうち化学的反応の制御についてはタンパク質に,情報の保存についてはDNAに置き換わった.行動という解釈を行うシステムはより精密になり,サブシステムを包含するようなものに代わっていくことまでが論じられた.

第14章 自由の過去と将来について その3

  

  • 1つ1つの遺伝的情報が遥か過去から継続するためには,遺伝子プールでの高い頻度に達するための多くの淘汰的死,その頻度を維持するための継続的な淘汰的死が必要だった.
  • 個体学習の進化は解釈的洗練における重要な進歩をもたらした.解釈者の内部機構における洗練のための淘汰的死が不要になったのだ.進化的過去の遺伝的情報と個体的過去の記憶はともに直近の経験のデータを意味ある行動に解釈するために利用できるようになった.文化伝統を含む他者からの学習は利用可能な情報の幅を広げた.記憶は,変化に関わらず持続するもの,変化の後に再発するものヘの応答を助ける.過去経験したことのないものに遭遇したときには,私たちはすでに知っていることのメタファーを探し求める.

 
ヘイグは個体学習が進化的な大革新の1つだと主張する.それにより「ランダムな変異と大部分の不適合個体の死」という過程なしにシステムをより洗練されたものにすることが可能になる.さらに個体学習の成果を他個体に伝達することができればこの洗練への動きは加速する.この観点から見るときにヒトは特別な生物ということになる.
  

  • それぞれの種はユニークだ,しかしヒトは特別だ.その特別な何かの核には文化と言語がある.これらの兆しは他の種にもある.しかし私たちは閾値を超えて全く新しい存在になったのだ.
  • それぞれの語には特有の用法がある.10の4乗の語彙を持つ言語は長さn語で10の4n乗の文章を作ることができる.その大半は(ランダムなヌクレオチドやアミノ酸配列と同じく)非文法的だが,意味を持つ文章の数だけでもこの文ぐらいの長さですでに超天文数となる.
  • ほとんどの発話されたテキストはすぐに消え去るが,多くのオーラルコミュニティは非常に長い韻文を記憶する吟唱詩人たちを生み出してきた.文字は偉大な発明だった.それにより非常に多くの文章を外部記憶装置に半永久的に保存することができるようになった.私たちは「本の人」(それは今や「インターネットの人」だが)になった.

 
個体経験の他個体への伝達は,言語により飛躍的に効率的になり,さらに文字という外部記憶の発明により正確性を増し,さらに時間や対象者の制限を超えることができるようになった.それらを使いこなしたヒトは意味を見いだす解釈システムの極限ともいえる存在になった.ここまでがヘイグの議論の前振りで,ここから自由についての議論が始まる.