第15回日本人間行動進化学会(HBESJ SAPPORO 2022)参加日誌 その3

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HBESJ二日目.この日も口頭発表と招待講演がプレナリーで行われた.
 

第二日目

 

口頭発表 その3

 

アップストリーム型とダウンストリーム型間接互恵性の統合モデルのダイナミクス分析 佐々木達矢

 

  • これまで間接互恵性の数理モデル解析がいろいろなされてきた.多くはDISCとAllD,あるいはその組み合わせが均衡となり,DISCが残るには評判を基準に相手を選別して協力非協力を決められることが重要になる.
  • この評判をキーにする間接互恵にはアップストリーム型とダウンストリーム型がある.アップストリーム型とはYがZに協力しているのを知ってXがYに協力するという型,ダウンストリーム型とはWから協力してもらったXがYに協力するという型になる.これをあわせた統合型については実証研究はあるが理論研究がなかったので分析した.

(ここからレプリケータダイナミクスによる均衡解,およびそのグラフィック表示の説明)
 
なかなかテクニカルな発表で面白かった.(理解できている自信はないが)協力が安定的に生じるようにするためにはアップストリーム型の要素が重要だということのようだ.
 

ささやかな行為がrich-poorの資源共有に与える影響 陳佳玉

 

  • 資産格差は協力の進化に影響を及ぼすと考えられる.それは富者は富者同士で相互作用したいという同類好みが現れて社会が分断する方向に進むからだ.だから協力的社会を作るには富者と貧者の相互作用を促進させることが重要になる.
  • 相互作用の相手を決めるのは同類好みだけではなく,互酬期待(協力の評判を持つ他者と相互作用したい)もある.
  • ここで相互作用の前に小額の報酬を与えるオプションをつけることで(互酬期待を変え)富者と貧者間の相互作用を促進できるかをオンライン実験で調べた.

(実験の詳細の説明:相手のプロフィールとして富者か貧者かの手がかり(居住地区)とそれまでの協力度合いを示す.そして小額を相手に先に提供するオプションを設定する)

  • 結果は小額提供のオプションを利用した参加者はその後協力的になりやすいことが示され,富者と貧者間の相互作用促進に視する可能性が示唆された.

 
なかなか結果は微妙だが,視点は面白い.相手に「自分は協力者である」というコストのあるシグナルを送ることでより信頼してもらえるという期待が上がり協力しやすくなるということではないか.また投資してしまった小額提供分を回収したいというコンコルド誤謬的な心理も働いているかもしれない
 

招待講演

 

鳥の行動に見る歌とダンスの進化 相馬雅代

 
招待講演者は長谷川寿一,眞理子夫妻の弟子筋にあたる行動生態学者.
 

  • 私は大学で動物行動学をやりたいと島田先生に相談し,長谷川寿一先生の研究室に入った.私は鳥のコミュニケーションに興味があったのだが,まわりは皆ヒトに興味がある人たちで非常に異端感を感じた.その後岡ノ谷先生や眞理子先生に師事し,さらに北大の生物学科にお世話になることになった.生物学科に来てみるとまわりは皆分子や遺伝子に興味がある人たちで,ここでも異端感を感じている.
  • で,今,鳥のコミュニケーションを調べているのだが,鳥も別に好きというわけではない.本当に興味があるのは社会性,コミュニケーション行動の進化だ.だから生殖や繁殖の観点から考えたり,新奇な,あるいは珍妙な行動を考えることになる.考えてみるとヒトも理にかなわないことをいっぱいしているし,そうするとヒトの生物学的理解とも関連しているということになると思う.
  • で,鳥は珍妙な行動をすることが多い.私はまず音声から始め,今はそれ以外の行動も調べている.

 

  • 研究対象はいわゆる鳴鳥類,スズメ目の鳥になる.なぜ鳴鳥かというと,発声学習のモデル動物がキンカチョウやジュウシマツであり,ヒトの言語との関連が研究されているということがあるからだ.
  • これまでのヒトの言語との関連を追及するこの分野の研究は2013年の「Birdsong, Speech, and Language」にまとめられている.そこに2019年に「The origin of musicality」が出た.鳥の歌を言語より音楽に関連付けるこちらの方が私にはしっくり来た.

 

 

  • 鳥の発声は,学習し,記憶にあわせて発声する.固定的で言語とはまるで異なっている.音楽は固定的で,一緒に歌っていると何かを感じる,こちらの方が鳥の歌に似ていると思う
  • もう1つの違いは発声学習はオスだけが行うことが多いということだ.これもヒトの言語とはまるで違う.
  • またモデル動物だけでいいのかということも考えた.鳥の歌を多様性の中で考えたいと思った.

 

  • というわけで私の研究テーマは鳥の歌+αのコミュニケーション,非モデル動物を対象,オスメス両方を扱う,音楽との関連を考えるということになる.+αというのは鳥は求愛の時に身振りも普段と異なる(ダンスを踊る)という部分を指す.鳥は歌と一緒にダンスを踊る.音のほかに何らかの視覚情報を伝達している.このダンスの視覚情報は前から調べたいと思っていたが,北大に来てようやく前に進み始めたものだ.

 

  • ひとつのきっかけは2019年にローレンツワークショップに呼ばれたことだ.そこでは同期されたリズミックインタラクションがテーマになっていた(ワークションプのポスターにはタンチョウのダンスが載せられている).
  • ワークショップには生物学者だけでなく,リズムや振り子運動にかかる多様な学者(物理学者,音楽の専門家など)が集まっていた.そこではみんなでレビュー論文を書こうということが決まり,責任者の1人に選ばれた.いろいろな苦労の末にレビュー論文が出せた.
  • ヒトのリズム同期に関しては赤ちゃんが自分と同期してくれたヒトをより助けるなどの結果が報告されている.最初に聞いたときはちょっとヤバいと感じたが,でも面白い.現在は向社会行動における2者の呼応同期協調を調べたいと思っている.

 
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

https://psyarxiv.com/9yrkv/

 

  • ここから私のやってきたリサーチを紹介したい.まず文鳥の研究.
  • 文鳥(java sparrow)はオスが囀ってダンスし,メスもダンスする.それまで全く研究されていなかった.飼い始めてみて,メスもダンスをすることを学生が見つけてくれた.これはシジュウカラとは異なる.

 
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  • ダンスは雌雄双方向,メスからも始めることがあり,双方向でダンスがあると交尾しやすい,歌はあまり気にしていないというようなことが観察からわかった.
  • 相手の動きに合わせているのかはわかっていない.というのはダンス自体の定量化が難しく,双方向で行われるので原因と結果の切り分けも難しいからだ.
  • ヒトの手振りにも双方向ダンスを見せるかと思ってやってみたが,なかなか文鳥は騙されてくれない.そこで手乗り文鳥を用いることにした.手乗り文鳥というのはヒトを交尾相手として刷り込まれている状態になる.ヒトが手を振ると文鳥もあわせるが,同期はしない.自分のリズムがあるのかもしれない.
  • しかしこの文鳥のダンスは興味深い.歌は早期学習によって覚えるが,ダンスには学習性はないようだ.しかし相手の存在は必要であるようだ.そして歌よりも早く練習を始める.

 

  • 文鳥でもう1つ調べているのは系統種間比較だ.進化過程が知りたいと思っている.
  • (シジュウカラや文鳥が属する)カエデチョウ科には135種ほどいて,分布域はアフリカ,南アジア,東南アジア,オーストラリアになる.そしてそのほとんどはあまり調べられていない.
  • 彼らは一夫一妻制で,ナワバリをあまり作らずに群れで生活している(群れでナワバリを共有している)という共通の特徴を持つ.しかし歌やダンスの使われ方,羽根の模様の性的二型性は多様だ.
  • 歌とダンスの使われ方を系統解析すると,歌うかどうかには強い系統制約があるが,ダンスをするかどうかにはあまり系統制約がない.どうやら歌とダンスのメカニズムや機能は異なっており独立性が高いようだ.
  • では多様性はどこから来るのだろうか.彼らには種内托卵,種間托卵の現象があるが,これとの間には弱い傾向しかない.社会性との関連があるのかもしれない.いずれにせよ生態情報が乏しいのでよくわかっていない.

 

  • また別の分類群としてゴシキドリの仲間も研究している.
  • 彼らはスズメ目ではなく,キツツキに近縁な仲間だが,発声学習を行い,一部の種は雌雄でデュエットを行う.このデュエットを行うかどうかは協同繁殖種であるかどうかと相関しており,社会性が要因となっているようだ.繁殖グループ内でのステータス誇示機能があるのではないかと考えている.

 

  • カエデチョウ科の別の鳥としてはセイキチョウを調べている.これは鳥のダンスを調べたいと岡ノ谷先生に相談したところ,巣材をくわえて踊る鳥でとても可愛いよと推薦されたものだ.
  • 彼らは英語でcordon-blueと呼ばれる美しい青色の鳥で,オスもメスも歌い,ダンスを踊る.鳥飼育マニアがあげた彼らの愛らしい求愛の様子を捉えた動画がたくさんyoutubeにあって,飼育可能だということで研究を始めた.
  • 実際に飼ってみると,彼らは実に選り好みが激しく,つがいを成立させるのは容易ではないことがわかった.
  • 何とかダンスの様子を観察できるようになったが,彼らのダンスの音はかなり大きくタンタンと聞こえる.そしてやはり学生がある日彼らのダンスの動画を見て彼らの足がそろっていないことに気づいた.そしてハイスピード撮影してみると,彼らは極く短い時間に左右の足を交互に5〜6回足踏みしていることがわかった.彼らは目にも留まらぬスピードでタップダンスを踊っていたのだ.

 
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  • 求愛に際してオスに超絶技巧が見られる動物は多いが,メスもやっているのはあまり例がない.これは振動コミュニケーションなのかもしれない.
  • 性淘汰形質であると考えたが,タップの回数とモテるかどうかに相関はなかった.歌や羽根の模様などほかの手がかりも使っているようだ.
  • また何とか求愛をさせようと苦労しているときに,第3者がいると求愛をはじめやすいことに気づいた.この第3者効果も歌とダンスでは異なっており(歌とダンスの組み合わせは第3者がいると上昇するが,歌だけはあまり関係がない),やはり機能が異なっているように思われる.これをどう解釈するかはいろいろあって悩ましい.候補としては(1)そばに魅力的な誰かがいても,僕は君を愛しているよという誠実性ディスプレー(2)この相手は僕のものだよという第3者に向けての配偶者防衛的ディスプレー(3)そこの誰かよりこんなに僕の方が質が高いよというディスプレー,などがある.
  • また彼らは巣材をくわえて歌いダンスを踊る.巣材はダンスの前に念入りに選ぶ,そして実際の巣を作る際には用いない.この好みを調べようと様々な長さのテグスを与える実験を行ったところ,長いものを好むことがわかった.視覚的なインパクト,あるいは長い巣材を見つけられる,運べるという能力の誇示という機能があるのだろう.

 

  • まとめると,カエデチョウ科の鳥のダンスは特定個体へのメッセージである,種間多様性の要因はよく分かっていないが社会性が関係しそうだということになる.

 
とても楽しい講演で,魅力的だった.
これは野外のセイキチョウの求愛を捉えたであろうyoutube動画だ.
 
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