書評 「恐竜の世界史」

恐竜の世界史

恐竜の世界史

 
 
本書は恐竜学者スティーヴ・ブルサッテによる恐竜本.縦軸には恐竜の歴史が描かれ,それに関連した著者自身の発掘やリサーチが横軸に散りばめらるというちょっと面白い構成になっている.原題は「The Rise and Fall of the Dinosaurs: A New History of a Lost World」.興亡史とあるように恐竜の興隆から絶滅までを扱っている.

プロローグでは著者が中国でチェンユエンロン・スンイ(Zhenyuanlong suni ) の化石に最初に対面したときのドキュメンタリーから始まる.なかなか読者をぐっとつかむいい工夫だ.
 

第1章 恐竜,興る

 
第1章は恐竜の起源物語.最初はペルム紀の大絶滅(252百万年前)から始まる.著者のポーランドの地層調査,そこで出合ったポーランド人古生物学者グジェゴシと後に知り合ったイギリスの古生物学者バトラーとの古生物学三銃士によるプロロトダクティルス(Prorotodactylus)の足跡化石発見の逸話を振りながら大絶滅を解説する.大絶滅の原因についてここでは大陸規模のホットスポットによる噴火の影響説から解説されている.大絶滅後,三畳紀に入ってすぐ恐竜に似た動物が現れる.やがて恐竜につながるアヴェメタタルサリア類(鳥類系統の主竜類)だが,そこには後にワニを生みだす偽顎類(ワニ系統の主竜類)も現れる.プロロトダクティルスはアヴェメタタルサリア類の中の恐竜形類になる.ネコほどの大きさで直立した脚で歩行していた.敏捷で後ろ脚の方がたくましく,成長が速いことが特徴になる.そこからしばらく経過した240~230百万年前に真の恐竜が現れる(ここではアルゼンチンのエレラサウルス(Herrerasaurus )の発掘記が付されている)
 

第2章 恐竜,台頭する

 
実は恐竜は登場後すぐに地上を席捲したわけではない.三畳紀はパンゲアが一つながりで温暖化が進んだ時期(メガモンスーン)だった.そして恐竜はパンゲアの南方,温帯域の湿潤地域にリンコサウルス類やディキノドン類の影に隠れて小さなまま押し込められていた.さらに熱帯や乾燥地域では哺乳類の祖先や偽顎類が繁栄し,恐竜類は進出できなかったらしい.しかし225~215百万年前ぐらいから,大型化,乾燥地帯への進出を果たすようになった(理由についてはなおはっきりしないとされている).このあたりの物語はニューメキシコのヘイデン発掘地のチンル四天王*1の発掘物語を交えて語られている.発掘のデータが積み上がるにつれて,大型化し世界に広がった三畳紀後期であっても,恐竜が一方的に陸上世界を席巻していったのではなく偽顎類と激しい競争をしていたことが明らかになっていく.著者は化石形態をデータ化して統計処理を行い,三畳紀後期において偽顎類の形態の多様さは恐竜のそれを明らかに上回っていたことを見いだす.恐竜は偽顎類に押さえ付けられて暮らしていたのだ.
 

第3章 恐竜,のし上がる

 
240百万年前ごろからパンゲアが割れ始め,201百万年前にパンゲアの亀裂から大規模な噴火が続き,大量絶滅と共に三畳紀からジュラ紀に入る.この絶滅が偽顎類を失墜させ(数種類のワニ以外は絶滅する),恐竜は地上を席捲するようになる(なぜ恐竜が生き残ったのかについて定説はない.著者は単に運が良かったという可能性もあるとしている).この交替劇はニュージャージーのニューアーク盆地の発掘物語と共に語られる.これは白亜紀末の大量絶滅による(非鳥類型)恐竜から哺乳類への交替劇とまさにパラレルでありなかなか興味深い.
ジュラ紀に入り恐竜は一気に多様化する.著者はここでスコットランドのスカイ島の発掘物語(足跡化石の発見譚はなかなか楽しい)を交えて竜脚類の多様化,体重の推定方法,巨体進化の謎(長い首による採餌効率向上,気嚢システムによる表面積の増大とエネルギー効率の良さ,そして成長率の速さ)などの進化の謎を語っている.
 

第4章 恐竜と漂流する大陸

 
ここから4章に渡って恐竜の繁栄が語られる.冒頭はピーボディ博物館の恐竜大広間にあるザリンガーの壁画の描写から始まる.ここに描かれた恐竜はアメリカ西部のモリソン層から出土したものが主体になる.ここから著者は著者自身のモリソン層発掘体験,そして19世紀のコープとマーシュの大発掘戦争時代を語り,アロサウルス,ステゴサウルス,カマラサウルスなどのスター恐竜を解説する.そしてジュラ紀にはまだ分裂後の大陸はなおつながっていて世界中で同じような恐竜生態系が成立していたことが説明される.
145百万年前にジュラ紀は終わり,白亜紀にゆるやかに移行する(三畳紀→ジュラ紀や白亜紀→新生代のような大破局ではないが,気候,海水準,大陸の分裂などが2500百万年ぐらいかけていろいろ生じている).恐竜の構成も変化する.例えばブロントサウルス,ディプロドクス,ブラキオサウルスのような竜脚類は急激に衰退し,新しいティタノサウルス類に入れ替わった.植物食ニッチでは小柄の鳥盤類が栄える.また剣竜から鎧竜への交代も見られる.小型獣脚類の多様性も大きく上がる.
ここで著者の子供の頃のスーパースター考古学者であったポール・セレノとの出合い,北アフリカ各地から出土したカルカロドントサウルスの謎に系統解析から迫ったことを語っている.大型獣脚類であるカルカロドントサウルス類はアロサウルス類と近縁だが,アロサウルスから獣脚類の王座を奪い取り,まだつながっていた大陸間を渡って世界に広がった.その後大陸が互いに隔離されると各大陸でそれぞれ多様化する.そしてその影にいたのがティラノサウルス類になる.
 

第5章 暴君恐竜

 
著者は第5章と第6章をかけてティラノサウルスのみを扱っている.まさにスター扱いということだろう.冒頭では中国で発見され,著者が中国の研究者と一緒に調べることになったたチエンチョウサウルス・シネンシス(Qianzhousaurussinensis)(通称ピノキオ・レックス)の化石物語が語られ,オズボーンとブラウンによるティラノサウルス・レックスの発掘物語,その後のスター恐竜化の経緯につなげている.

  • ティラノサウルス類の起源は古く,ティラノサウルス・レックスの登場より1億年も前になる.(シベリアで発掘された170百万年前のキレスクス(Kileskus)が最古のティラノサウルスとされている. 中国で発掘された近縁の「グアンロン(Guanlong)の化石のリサーチによりこのグループにはティラノサウルス類のみに見られる派生的な特徴を持つことがわかっている. 彼等は小型のまま80百万年間とどまっていた.アロサウルス類の影で中小型の捕食者のニッチにおいて成功し繁栄していたのだ.
  • そして白亜紀初頭にティラノサウルス類は最初の大型化を見せる.その例となるユーティラヌス(Yutyrannus)の化石からは羽毛の痕跡も見つかっている.そして系統解析によると大型化は独立に何度も生じている.ティラノサウルスは機会があればいつでも大型に進化できたが,それは周りに他の大型恐竜がいないときという条件付きだったようだ.
  • そして真の巨大ティラノサウルスであるティラノサウルス・レックスの大型化は84百万年前にカルカロドントサウルス類が絶滅したあとに生じた.

 

第6章 恐竜の王者

 
第6章は特にティラノサウルス・レックスを扱っている.まずその特徴が詳細に語られる.獣脚類の中で特有のボディプラン(太い体躯,巨大な後肢と小さな前肢など)をもつ.系統的にはアジアで生まれベーリングを渡って北アメリカに到達したあとその地を制覇したようだ.著者は屍肉食説を明確に否定し,巨大な頭に鋭い歯を持つ俊敏な動物が屍肉のみを漁っていたはずはないと力説している.

  • 獲物恐竜の骨に残る歯形は複雑で,最初は丸く徐々に細長い溝に変わっていく.これは獲物に深く噛みついて後に引きちぎっていたことを示している.獲物の骨を噛み砕いていたことは糞化石からもわかる.骨を噛み砕くことができる恐竜はティラノサウルス類だけだった(それを可能にする解剖学的な特徴,有限要素解析を用いた力学リサーチの解説が詳しい).
  • 「ジュラシックパーク」の再現とは異なり,持続的に速く走ることができなかった.おそらく待ち伏せ型の狩りをしていたのだろう.気嚢システムを持っていて瞬間的は素速く身体を動かせたはずだ(ここもリサーチの解説が詳しい).
  • 貧弱な前肢は何に使っていたのか:確かに前肢は小さいが,筋肉はしっかりついており,逃げ出そうとする獲物をがっちりつかむのに使っていたと考えられる.
  • 頭蓋をCTスキャンして脳の形状を見ると,臭球が大きく三半規管も発達していた.これらも狩猟を行っていたことを裏づける.
  • 骨の成長線を調べることにより,ティラノサウルスは非常に素速く成長していたことがわかった.彼等は駆け抜けるように生き,若くして死んでいったのだ.

最後に著者はティラノサウルス・レックスは生命進化が生みだした傑作であり,真の王者であると強調している.この2章は著者の少年時代からのティラノサウルス愛を十分に感じさせるものになっている.
 

第7章 恐竜,栄華を極める

 
王者といってもティラノサウルス・レックスの北アメリカの王者であったに過ぎない.大陸が完全に隔離された白亜紀末期にはそれぞれの大陸で少しずつ異なる肉食恐竜がそれぞれの王国を築いていた.ここから著者はそれぞれの王国をそれぞれの発掘物語(ヨーロッパのノプシャ男爵の話はかなり詳しくそして面白く紹介されている)を交えながら紹介する.

  • 北アメリカのティラノサウルス・レックスの王国で最も繁栄した植物食の恐竜はトリケラトプスだった.ヘルクリークでは恐竜化石の40%がトリケラトプス,25%がティラノサウルス・レックスになる.それ以外にはパキケファロサウルス,ハドロサウルス類が繁栄していた.(それぞれの恐竜群についての詳しい解説がある)
  • 南アメリカではティラノサウルス類は見られず,カルカロドントサウルス類の天下が白亜紀の最後まで続いていた.角竜も堅頭竜も存在せず,竜脚類のティタノサウルス類が主要な植物食恐竜だった.中小型の肉食ニッチには獣脚類に加えてワニが食い込んでいた.
  • ヨーロッパはテチス海に浮かぶ島々に島嶼化で小型化した恐竜が独特の生態系を築いていた.バラウル・ボンドク(Balaur bondoc)は後脚にそれぞれ2本の鉤爪を持つ特殊なラプトルだ.

 

第8章 恐竜,飛び立つ

 
第8章は恐竜の1グループである鳥について.まず鳥類の恐竜起源学説史がダーウィン,アーケオプテリクス(始祖鳥)の発見,ハクスリーの小型獣脚類起源説,1920年~69年までの非恐竜起源説の優勢,オストロムによるデイノニクスの発見と恐竜起源説の復活,90年代の羽毛恐竜の発掘と語られる.オストロムが自説発表の27年後についに(決定的となる)羽毛恐竜の化石を初めて見せられた時のエピソードは印象的だ.ここから著者による遼寧省産の羽毛恐竜のリサーチに基づいた鳥類の系統樹的位置づけ,共有派生形質,どこから鳥類とされるか(鳥類の定義)については歴史的経緯から始祖鳥以降とされているが,そこが特に大きな境界というわけではなく,行動や生理まで含めた様々な特徴は漸進的に進化していることの解説がなされる.ここでは羽根の起源,翼の起源*2,飛翔の起源*3の問題についても関連するリサーチや恐竜学者たちと共に詳しく語られている.
 

第9章 恐竜,滅びる

 
最終第9章は(非鳥類型)恐竜の絶滅について.冒頭で北アメリカの恐竜視点からの66百万年前の小惑星激突時の光景が描かれ,アルバレス父子による小惑星絶滅原因説が語られる.ここでは著者とウォルター・アルバレスをめぐる逸話*4も交えながらアルバレス説をめぐる論争が丁寧に語られる.そして著者自身もこの論争に参加し,大規模データベースを用いた統計的な議論で恐竜の絶滅が地質学的にみて唐突に生じたことを示し,アルバレス説を裏付ける(詳細はかなり複雑だ).
 

エピローグ 恐竜後の世界

 
本書は恐竜絶滅後の哺乳類の適応放散まで扱っている.ここは恐竜本としては独特だが,歴史物語としてはより大きくなる良い工夫だと思う.著者によるニューメキシコの新生代地層の発掘エピソードを交えながら,生態系の立ち直りの様子を簡単に描いている.
 
 
本書は第1線の恐竜学者の手による最新の知見を元にした壮大な恐竜史物語であり,そしてその各章各テーマに関連した著者を含む様々な恐竜学者の奮闘振りが散りばめられている.これにより読者は2億年近いタイムスパンを持つ悠久の恐竜の興亡史と発掘やリサーチの臨場感を同時に味わうことができる.私は読んでいて大変楽しかった.恐竜ファン向けに非常に工夫されたいい本だと思う.


原書

The Rise and Fall of the Dinosaurs: A New History of a Lost World

The Rise and Fall of the Dinosaurs: A New History of a Lost World

  • 作者:Steve Brusatte
  • 出版社/メーカー: William Morrow
  • 発売日: 2018/04/24
  • メディア: ハードカバー

*1:ランディ・アーミス,スターリング・ネスビット,ネイト・スミス,アラン・ターナーという著者より一世代上の古生物学者たち

*2:著者はメラノソームのリサーチからディスプレイ説を採っている.

*3:飛翔能力は恐竜の中で何度も独立に進化したらしいと解説されている

*4:アルバレスの「絶滅のクレーター」を読んでいたく感激していた著者は家族でのイタリア旅行に際してどうしてもグッビオの件の地層を見たくて,どうすればいいか手紙でアルバレスに問い合わせてみたところ,アルバレスは一面識もない少年であった著者に丁寧な返事をくれたそうだ.

第12回日本人間行動進化学会(HBESJ SHIROKANE 2019)参加日誌 その4

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大会2日目 12月8日 その2

午後は総会から.いろいろ議題の多い総会だった.来年は福岡での開催であるとアナウンスがあった.引き続いて口頭発表へ
 

口頭セッション3

 

英語の完了構文の進化ダイナミクス:複数の大規模コーパスを用いた検討 奥田慎平

 

  • 言語進化学は言語がどのような適応により,いかに起源し変化していったかを調べる学問になる.起源問題は大進化,変化問題は文化進化としての小進化という位置づけになる.今日はこの変容の部分を採り上げたい.
  • テーマは英語の過去完了形の変化.過去完了形は元々 be+pp だったのが have+pp の形に変化した.これは have が内容語から機能語に変化したと捉えることができる.
  • これには先行研究があるが,用いたデータが百万語程度と小さい.(ここで会場がざわめく)
  • また2017年に過去形の規則化,不規則化についてのリサーチが出されている.この駆動因が淘汰か浮動かという問題意識に基づくもので,結論としては多くがドリフトだが,一部押韻パターンに引きずられるというものだった.

 

  • ここからが私のリサーチになる.
  • まず用いたデータソースの紹介をしたい.まずEEBO,これは1473年から1700年までのデータで7.5億語.次にCOFA.これは1810~2009年で4億語.この間を埋めるものとしてGoogle Booksも利用した.これはデータの代表性や抽出性に一部問題があるが4680億語と大きい.
  • ここから分析に使う動詞を選ぶ.登場頻度上位6万語には5764動詞が含まれる.ここから受け身形と区別がつかないという問題を避けるために自動詞に絞り込み19語を選ぶ(一覧のリストが表示される)
  • 英語のこの完了形の変化は主にEEBOとCOFAの時代の間で生じているので,この2つのデータとうまくつながるようにGoogle Booksのデータを調整する(詳細の説明あり)
  • こうして be+pp から have+pp の形への頻度変化のグラフがすべての動詞について得られた.
  • 多いのはS字型を描いて be+pp から have+pp の形への変化が生じているもの.その他一回上がって下がる形,逆に下がってから上がる形もある.
  • まずドリフトかどうかを検定すると棄却された.
  • have+pp の形へ行かないものを見るとそれぞれ個別の要因がある.例えば go は be gone に形容詞的な意味(行ってしまってもう帰ってこない)が生じて継続的に使用されている.

 

  • 今後はより多くの動詞を扱う,年代を広げる,言葉の共起を調べるなどの方向を考えたい.

 
Q&A
 
Q:本のジャンルごとのバイアスがあるのではないか
 
A:今調べているところ.Google Booksにはバイアスがあるのではとよくいわれるが,実際にはあまりないようだ.Google Books自体の特性としては1500~1700年ぐらいの本が少ないという問題がある.
 
 

文法範疇に着目した原型言語の考察 藤田遥

 

  • 原型言語とは人間言語の特徴を部分的に持つ前言語的な記号体系を指す.
  • これがどのようなものだったのかについては2つの立場がある.1つはビッカートンたちが提唱する合成説.これは単語が元になっていると考えるもの.もう1つはアービブたちが提唱する一語文説だ.
  • 一語文説には問題があると考える.まずこれは状況に依存しない表現があることを説明できない.また当時の人類に音と意味の分析が可能だったのかも疑問だし,説明が必要な事項が多いという問題もある.
  • というわけで本発表は合成説の立場から行う.

 

  • 文法範疇(カテゴリー)は語彙カテゴリーと機能カテゴリーからなる.語彙カテゴリーは動詞成分と名詞成分の組み合わせて決まる(名詞,動詞,形容詞,前置詞).そしてそれ以外のカテゴリーが機能カテゴリーになる.
  • さらに機能カテゴリーは内容的カテゴリーと構造的カテゴリーからなる.内容的カテゴリーは時空間情報を指示するもので,時制,相,指示詞などが含まれる.構造的カテゴリーは構造を示すもので,補文標示,格標示,一致標示などがある.

 

  • では原型言語はどのように人間言語に変わっていったのか.ここでは語彙カテゴリーのみの組合せによる原型言語→内容的カテゴリーの発達→構造的カテゴリーの発達という過程を提唱する.

 

  • 最初の語彙カテゴリーのみの原型言語についてはいくつかの先行研究がある.未分化の語彙カテゴリーのみの原型言語は時空間の区別がなく「今ここ」という文脈への依存度が非常に高いだろう.そこからプロト文法が生じる.そこでは並列的な組合せ,回数制限,原型言語の化石的原理(動作主が先に来るなど)が観察できる.
  • この段階は初期ホモ属段階で生じたのではないか.ビッカートンは支持証拠として脳の増大を挙げている.またFOXP2を証拠として上げる論者もいる.

 

  • 次が内容的カテゴリーの発達になる.進化的にはカテゴリー化スキーマの形成能力(共通の時間の認識→時制,共通の空間の認識→指示詞(thisなど))と,概念の組合せ能力の向上が重要だっただろう.
  • これにより命題内容と意味が明確になり,推論,計画が可能になる.
  • サピエンス段階でサブサハラとそれ以外の人類の分岐前でこうだったと考えられる.

 

  • 最後が構造的カテゴリーの発達だ.
  • 進化的には外在化の発達,コミュニケーション,文化的,個別言語的な背景がある.
  • 構造情報を付加し,曖昧性を排除する機能を持つ.
  • これは15万年前より新しく,文化(言語)ごとに段階が異なっている.また構造的カテゴリーの表現方法は言語により様々だ.形態で示す言語もあれば,語順による言語,イントネーションに頼る言語もある.

 

  • この仮説を検証するために様々な言語のデータを分析した.様々な言語で内容的カテゴリー,構造的カテゴリーが形態としてしっかり現れているかどうかを調べる.すると内容的カテゴリーよりも構造的カテゴリーの方が形態的に標示されにくいことを示しており仮説と整合的だった.

 
Q&Aではこの言語の段階と人類進化の段階の結びつけのところに集中した.確かに論拠は曖昧に感じられるところだ.
 
 

階層構造の創発における文化伝達の役割:繰り返し学習を用いた実験的検討 中田星矢

 

  • ヒトの言語は階層性を持つ.これは他の動物の信号システムにはほとんど見られない.
  • ではこの階層性はどのように現れたのか.
  • ここでは世代を越えた伝達の中で創発したのではないかという観点からリサーチを行った.
  • Simon Gameを用いた先行研究がある.4つの異なる色のパネルを順番に提示し,その順序を覚えて回答してもらう.この回答を次世代の被験者に提示し,同じことを繰り返す.すると10世代程度で階層構造が創発した.計算進化言語学ではこれを引いて構造は文化伝達で創発すると結論している.
  • しかしこれは本当に文化伝達による階層性の創発なのだろうか.単に記憶しやすくなっただけだと解釈もできる.そこで文化伝達が必須の要素かどうかをコントロール状況を作って調べてみた.
  • コントロール状況は同一人物にこのシリーズを作ってもらうことだ.自分の回答が問題になっていると気づかれないように30シリーズを作ってランダムに提示した(実験後のアンケートで自由記載欄も設けてみたが,気づいた被験者はいなかった模様だとのこと)

 

  • 結果:個人系列でも伝達系列でも正答率は上がっていった.(個人系列の方がより正答率が高くなった)これは覚えやすい系列が創発したと解釈できる.
  • ではこの覚えやすさは単純な構造化なのか階層性なのか.これを区分するために現れた系列をテキスト変換して,zip圧縮比(構造化の程度を表すと考える),文法圧縮比(階層性の程度を表すと考える)をそれぞれ調べた.
  • その結果は構造化も階層性も伝達系列でより進んだ.これは個人系列ではその個人が覚えやすい特殊な配列が表れやすかったが,伝達系列ではより一般的な構造化,階層性になって現れたと解釈できるだろう.実際に系列間の多様性は個人系列の方が大きかった.(伝達系列では収斂化があった)
  • この結果は多数の人への伝達において階層性が創発することを示している.

 
Q&Aでは階層性の定義が議論され,また本当に気づかれなかったのか,回文データにすればいいのではないかというコメントがなされていた.
 
 
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口頭セッション4

 
 

言語進化と構成能力 中橋渉

 
ヒトの文化に見られる構造性の伝達にかかる数理的な発表.残念ながらSNSでの言及を控えて欲しいマークがついているのでここでの紹介は差し控える.
 
 

進化心理学の次なる敵 ― 二面論的人間観への対抗に向けて 内藤淳

 
内藤は法哲学者で以前基本的人権をめぐって本大会でも発表を行っていた(参照:https://shorebird.hatenablog.com/entry/20091227/1261876667https://shorebird.hatenablog.com/entry/20101214)が,本大会で久しぶりの発表.
 

  • 進化心理学の基本的な考え方は,ヒトの心は適応産物であり,モジュールの集合体のようになっており,その中身や機能の発見・特定を行っていくというものだ.
  • そして進化心理学には敵が多い.これまでの敵はSSSM,そしてブランクスレート派だ.これらはヒトの心は完全に可塑的だと考えるもので,トゥービイとコスミデス,ピンカーなどによって紹介されている.
  • そしてこのような考え方に対して,事実の問題としては進化心理学の勝利といっていいと思う.

 

  • しかし影響力は限定的だ.本学会ではあまり感じることはないが,一歩外に出ると進化心理学を擁護すると批判の矢面に立たされる.
  • 社会科学,人文科学まわりでは「ヒトには他の生物を超えた部分があり,人間の本質はそこにある」という考え方が強い.これはある意味プラトン以来の心身二元論ということになる.彼等のモデルは生物的な部分の上に理性があり,ここに意識的な合理性があって生物的な身体を制御しているというものになる.
  • なぜこの考え方が根強いのか.それはこの考え方に説得力があるからだ.人々は日々超越性(理性で感情を抑えることなど)を実感している.
  • そしてこのような論者は「ヒトに生物的な部分はあっても中心はその上にある.進化心理学の主張は認めるが意義は小さい」と主張する.一つの例はスタノヴィッチで「(生物的な)TASSの上に分析的システムがあり,行動を考えるにはこちらが重要だ.進化心理学はTASSを扱っているだけでそれは道具的合理性に過ぎない,真に重要なのは認識的合理性だ」と主張する.このような考え方はカントの定言命法と相性がいい.カウフマンは「これは進化心理学からの防波堤であり,EOウィルソンのいうコンシリエンスはあり得ない」と言っている.

 

  • これに対して進化心理学はいかに対抗すべきか.
  • モジュールだけではなく行動導出を行う全体像を提示するモデルが必要ではないか.
  • 1つの有望な仮説はヒュームモデルだ.行動を導くのは意欲を駆動する情動だとする.ハイトの考え方もこれに近い.
  • しかしこれだけでは「超越性の実感」に対抗するには不十分だろう.もう一歩踏み込んだモデルが望ましい.

 

  • 1つの方向性は認識的合理性が必ずしも純合理的でなく,個人によって異なっていることを示すものだろう.
  • もう1つはスタノヴィッチの理性の合理性の上にもう1つヒュームモデルを乗せ,ここが理性を情動で制御することにより価値観,人生観のような行動方針を決めるとするものだ.

 

  • 進化心理学を広めるには,生物的な部分の上に理性があるという考え方を打破していくことが重要だ.このためには内面作用の総体的な把握,環境に応じた適応的行動の導出,心理的利己主義の価値論道徳論を構築していくことが重要だと考える.

 
Q&A
 
Q:様々なモデルの説明があったが,これはどのように異なる予測をするのか(検証が可能なのか)
 
A:予測というより,ここで話したのは説得力の問題.どちらがフィットしているかは別途検討が必要になる.
 
進化心理学に対する応援エールのような発表.人生観を形成するモジュールがあって理性と共同して行動方針を決めていくというのは面白いモデルだが,質疑応答の通り検証は非常に困難だろう.
 
 
以上で本大会の発表はすべて終了となった.
 
恒例の若手賞は口頭発表部門は「階層構造の創発における文化伝達の役割」の中田星矢,ポスター部門は「Speed–accuracy tradeoff状況における社会情報処理の認知過程」の黒田起吏,「評判手がかりは評判関連語への反応を促進するか」の河村悠太と発表された.いつもご当地ものの凝った副賞が紹介されるのだが,今回は保温ボトルとおとなしめだった.
 
 

長谷川眞理子会長挨拶

 

  • 今回もいろいろ面白い発表,活発な議論があり,大変嬉しく思う.
  • この学会は若い人が多くて人口ピラミッドが下に広く,活力を感じる.
  • (最後の発表の)人文学との対立は昔からそうだ.でも着実に検証可能な科学的な議論に変わってきているのも実感している.いろいろな発展方向も示されている.
  • 本学会も最初の頃は行動生態学ベースの発表に偏っていた.これはSSSMへの対抗,そして動物の行動研究の進展が背景にあった.しかし最近では文化進化,発達,学習,脳科学に関連する発表が増えている.ヒトの固有な感情,思考,文化環境の重要性,発達の中での構築などの話題が増えている.文化,学習,認知は非常に大切だ.
  • ここから先は心理と行動生態が一緒になってもっと大きくなれるといいと思う.
  • でも,みんな,戦いましょう,また来年も.

 
 
最後に事務局,お手伝いいただいた方々に感謝を表して本大会は終了となった.今回も大変楽しい学会だった.私からもここで事務局の皆様に感謝の意を表しておきたい.どうもありがとうございました.

 

<完>

 
 
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地下鉄白金台駅のステンドグラス

第12回日本人間行動進化学会(HBESJ SHIROKANE 2019)参加日誌 その3

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大会2日目 12月8日 その1

 
大会2日目の12月8日は快晴で気持ちのいい日になった.最初のプログラムは招待講演.

招待講演

 

捕食者の認知機構と被食者の形態の適応進化 後藤和宏

 
後藤は6年前の広島大会で招待講演を行うことになっていたが,急遽奥様が出産のために入院することになってキャンセルになった経緯がある(参照https://shorebird.hatenablog.com/entry/20131218/1387361167).講演に先立ち平石さんから,その経緯の説明があり,本人も冒頭でそのことに触れ,スライドではそのときに生まれたお子さんの紹介などがあって会場がひときわ和んだ.
 

  • 今日の講演の内容は自分がアラン・ボンドとアル・カミールの元でポスドクをやっていたときの研究が元になっている.
  • 前半はアオカケスを使った捕食者のサーチイメージ形成仮説についてのリサーチを紹介したい.サーチイメージにより注意のチューニングが生じるのか,プライミングがあるかがポイントになる.後半はこのような捕食者の採餌行動と被食者側の形態の共進化について話したい.

 

  • 動物の採餌行動を観察すると同じ餌を連続して見つけていることがよく生じていることがわかる.捕食者はそこで豊富な餌に注意を向けて探しているのだろう.実際に補食量と餌密度の関係をグラフ化するとS字型になる.上方の平坦化は飽和することによるが,原点近くの平坦化は見つけにくい餌は探しに行かないことを示している.
  • これがどのような認知バイアスによっているかはよくリサーチされている.
  • ここで問題は「これは捕食者の探索がサーチイメージによっているためか,餌の期待密度に対応する形になっているためか」「これは被食者にとって少数者有利になっていて,アポスタティック淘汰によって多型の維持に効いているのか」になる.

 

  • 最初の問題で重要なのがサーチイメージ仮説だ.これを最初に提唱したのはユクスキュルで環世界の説明と共にサーチイメージ,サーチトーンを概念を提示している.頭の中に探すべきイメージがあり,それと異なるものは見逃す(ユクスキュルによる部屋の中で水差しにあると思っていた水が違う形のデキャンタにあると見逃してしまうという逸話が紹介される).
  • これを実験で調べたものがある.有名なシジュウカラの実験で,ガのタイプをコントールして密度に対して巣への持ち帰り量がS字型になることが示されている.
  • この実験には批判がある.異なる餌が異なる場所にいたなら,餌場を変えていきその際にこの餌場ではこの餌を探すという認知であることによってもこのような結果になるだろう,だとするとこれは期待に基づく探索ということになり,それと区別できていないというものだ.

 

  • で,アオカケスを用いてここを調べた.
  • まず先行研究を説明したい.指導教官のカミールは厳密な統制を行うべく実験的検討を行った.背景写真の中に様々なガのイメージを重ねたものを液晶パネルでアオカケスに提示する.アオカケスはガが止まっている写真に対して餌ボタンを押すと餌がもらえる.またその隣には「次の写真」ボタンがあり,止まっていないと判断したらそれを押すと次の問題が提示される(なおこの次の問題ボタンは訓練できる動物とできない動物があり,できる動物は少なく,そしてなぜかアオカケスはこれができるのだそうだ)ここでカミールはこれが本当に自然状況を再現できているかを確かめるために,「樹木の種類とガの向きによって自然状態と同じように検出率が異なるか」「遠くからの写真で検出率が落ちるか」を確認している. 
  • この実験装置を用い同じ背景のもとにAB2種類のガを連続してカケスに提示する.パターンは互い違いにABABAB・・・と出す系列,ところどころで連続して同じガが提示される系列をいくつか(連続具合を2〜8まで)を用意する.すると連続具合を上げていくと互い違い系列より検出率が上がっていった.
  • これに対して,これが本当にサーチイメージによる結果なのか,それとも提示刺激が予測手がかりになっているのか(プライミング)かがなお判別できていないのではないかという批判が寄せられた.ここからはお前がやれといわれて私が調べることになった.

 

  • どのように調べるか.サーチイメージは5〜6回の連続刺激で形成されるのに対して,プライミングはもっと長期の学習が必要で,おそらく認知機構が違っているだろう.だからこれを競合させてみればいいのではないかと考えた.
  • 環境手がかりと系列手がかりが矛盾するようなケースを作ってやれば良いことになる.そこで背景(プライミング刺激)とガの模様(サーチイメージ形成刺激)を組み合わせて競合を起こさせてみた.(具体的な説明あり)その結果サーチイメージの影響の方が強いという結果が得られた.プライミングは学習が必要でワーキングメモリを多く使用するし,自然条件ではそれほど有効ではないということかもしれない.

 

  • 次に捕食者と被食者の共進化の話をしたい.
  • 捕食者の行動は被食者にとっては淘汰圧になる.カケスの行動はガの形態進化を促すだろう.
  • 先ほどのカケスの実験装置は時代が進みタッチパネルでガの場所をつつけるようになっていた.これを用いてデジタルなガのイメージの進化シミュレーション実験を行った.つつかれたガが死亡し,つつかれなかったガが生き残って交配し遺伝子を混ぜ合わせて繁殖する.表現型に対する遺伝型はチョウの翅の模様の遺伝子と同じと仮定して設定した.
  • 結果は(全くのランダム交配コントロール条件に比べて)見かけが多様化し,よりクリプティックになった.
  • また背景に応じた2極化もシミュレートできた.(背景を黒っぽいのと白っぽいのに2極化させるとガの色彩も2極化する)

 

  • 今後は捕食者の認知機構,警告色の進化を調べていきたい.

 
 
大変興味深い講演だった.サーチイメージ実験の厳密性は印象的で,実際のアオカケスを用いた進化シミュレーションも意表をついていて大変面白く感じられた.
 
 
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ポスター発表

 
続いてポスター発表.会場は別棟のガラス張りなおしゃれなカフェのようなスペースで開放感があって素晴らしい.面白かったものをいくつか紹介しよう.
 
 

主張の受けとめられ方はコストのかかる信号によって影響されるのか? 平田皓大

 

  • コストリーシグナル理論によれば説得力はその説得にかけるコストにより増減することが予想される.これを選挙を題材にして架空の首長選挙の2人の候補者のインタビュー記事へのアンケートで検証しようとしたもの.記事においては論拠の強弱とコスト(街頭演説を熱心に行ったかどうか)の高低を組み合わせ,アンケートでは2人の主張の信頼性,説得力,重要性,好ましさについて回答してもらう.
  • 結果は高コスト条件の方が信頼性,説得力,重要性,好ましさについて高評価になっていた.ただ重要性の評価について女性は高コスト条件の方が重要だと回答したが,男性は有意差が無かった.

 
なかなか最後の性差の存在は興味深い.演説を熱心に行ったかどうかが評価を左右するかどうかを考えると重要性は最も左右されないはずの問題なので,「自分は理性的な人間である」というディスプレイをしたいという心理が働いたのだろうか.

 

コストをかける意思の定量的な測定–価値ある関係仮説による妥当性の検討 小田亮

 

  • 先行研究では謝罪する相手との関係が自分にとって価値が高いほど謝罪にコストをかけることが示されている.ただ先行研究ではコストをかけるかどうかについて直接測定せずにアンケートによっている.この点を直接測定してみた.
  • 方法はアンケート用紙にチェックボックスを100個用意し,どのぐらいコストをかけるのかの程度をチェックする数によって答えてもらった.
  • この方法によっても謝罪する相手との関係が自分にとって価値が高いほどチェック数が多くなることが明らかになった.

 
ここまでは予想の通りということだが,グラフを見ると100個全部チェックした回答が非常に多いことがわかる.発表者たちはこれは回答が飽和している可能性があり,次回はチェックボックス数を大きく増やしてみたいと書いてあって,被験者が1000個のチェックボックスがあるアンケート用紙を見て驚愕する姿が目に浮かび,思わず吹き出してしまった.
 
 

道徳基盤理論の<聖不浄>基盤を中心とした日本人の道徳的判断の検討 柳澤田実

 
ハイトの道徳次元説を日本人学生,日本人クリスチャンを使って調べてみたもの.ここでは後の(自由/抑圧軸を含む)6次元拡張ではなくオリジナルの5次元の軸(ケア,公正,忠誠,権威,神聖)で調べている.

  • アメリカの分析はリベラルはケアと公正の軸のみ高く,あとの3つで低い.一方保守は5つの軸みなで高いことが知られている.またアメリカでもリバタリアンはケア公正とあとの3つでやや差があり(リベラルと同じく前者が高いものの差の際は小さい,リベラルほど前者の評点は高くない),クリスチャン左派ではみな高いがやはり前者と後者でやや差がある形になる.
  • 日本人クリスチャンと日本人学生で調べてみると日本人学生はアメリカの保守と同じような形,日本人クリスチャンはそこからケアと公正と神聖が高い形になった.さらに各軸の相関を調べるとアメリカと異なりケア,公正,神聖間に正の相関が高いという結果になった.
  • また各質問ごとによく見ると,神聖軸の「たとえ誰も傷つかないとしても,極めて不快で人の気持ちを逆なでするような行為をすべきでない」と公正軸の「裕福な家庭の子だけが多額の財産を受け継ぎ,貧しい家庭の子が何も受け継がないというのは道徳的に間違っている」への回答振りにアメリカとの差があることもわかった.前者がケア軸と強く相関し,後者はクリスチャンの中で評点が低くなっている.クリスチャンの中でアメリカ同様に相続の不平等性をモラル的な問題だと考える層27%をさらに分析するとこれは特に信仰の厚い層15%と欧米リベラル的で神聖基盤が低い層12%に分かれる.
  • 日本人の神聖軸には「空気」を重んじるという要素があるようだ.
  • またクリスチャンの中の相続不平等制への回答の分かれ方は宗教心的モラルの限界を表しているのかもしれない.

 
ハイトの道徳次元説を日本人で調べてみたという点で非常に興味深い.私の感想としては,まず前者はこの「たとえ誰も傷つかないとしても,極めて不快で人の気持ちを逆なでするような行為をすべきでない」というのはdisgustingの訳の影響が大きく,回答者はこれを「誰かを極めて不快にすることが是認されるか」というケアの問題として受け取った可能性が高いのではないかと思う.また相続の不平等性は,片方で親の自らの財産の処分の自由の侵害とのトレードオフになっていて,単純な公正軸の質問としてはあまりいいものではないのではないか,ここはハイトの後の6つ目の軸(自由/抑圧軸)を含めた6次元で分析をした方が良いのではないかと思う.
 
 
このほかポスター発表では「高次の再帰的推論とワーキングメモリの関係性」,「マッチングサイトにおけるシグナリング行動」なども大変面白かったのだが,残念ながらSNSでの言及を控えて欲しいマークがついているのでここでの紹介は差し控える.
  
 
以上で午前の部は終了だ.大変温かな気持ちのよい日だったのでランチはプラチナ通りまで出向いて腰塚のメンチカツコロッケ定食をいただいた.
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第12回日本人間行動進化学会(HBESJ SHIROKANE 2019)参加日誌 その2

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大会初日 12月7日 その2

  
口頭発表1のあとは招待講演.
 

マウスの脳内シミュレーションとロボットの報酬進化 銅谷賢治

 
講演は講演者の所属する沖縄科学技術大学,および神経計算ユニットOISTの紹介から始まる.
 

  • OISTではAIで柔軟で適応的なシステムを作ることと,脳はそれをどう実装しているかの両方を扱っている.
  • AIの業界においては前世紀には専門家の知識を実装しようという流れがあり,それが挫折したあと現在ではビッグデータと統計学習を利用する方法が主流になっている.そこに知能を作るだけなら脳を知る必要はないという立場と既にそこにあるのだから調べた方がいいという二つの立場がある.
  • そして実際には脳科学とAIは互いに影響を与え合って共進化している.
  • 一つの例は視覚だ.脳科学における特徴抽出細胞,経験依存学習,場所処理細胞,顔認識細胞の発見とAIにおけるパーセプトロン,多層教師あり学習などの概念は影響を与え合っているのだ.
  • もう1つの例は強化学習だ.古典的条件付け,オペラント条件付けをヒントにして発展したAIの分野ではTD学習において報酬の予測が重要であることが見いだされ,それはドーパミン細胞での報酬予測応答や線条体の行動価値発現の発見につながった.そしてそれはAI側のモデルの進歩につながっている.

 

  • 先日とあるAIのカンファレンスで「AIは脳からさらに何を学ぶべきか」が議論された.私はこれについて,エネルギー効率(ヒトの脳は20Wで動作可能),データ効率(世界モデルと脳内シミュレーション,モジュールの自己組織化,メタ学習など),自律性,社会性だと思っている.

 

  • このなかの自律性について:自律的な強化学習モデルを作る.学習者が状態を知覚し,行動し,その状態変化と報酬を予測し,実際の変化と報酬の誤差から予測モデルを改善していく.このようなシステムを回してみて面白いのは,押してもだめなら引いてみなとか急がば回れのようなことができることがあることだ.(頭の高さが報酬になっている起立ロボットが,試行錯誤で頭の高さが低いまま準備態勢に入ることを学習できることが説明される)これはディープラーニングとQネットワークを使った価値評価,行動選択,予測修正をおこなう囲碁プログラムでも見られる.
  • この価値評価,行動選択,予測修正はおそらく脳にとっても重要だと考えられる.そして脳科学で最近わかってきたのは大脳基底核の部分でTD学習の強化学習が行われているらしいことだ.ここでは線条体,淡蒼球,ドーパミン細胞,視床が働いている.
  • これをラットやマウスでフォローする.神経パターンを予測し,それと類似したパターンを出している細胞を探していく.特に最近は遺伝子操作で光学神経活動記録を行い特定ニューロンだけのパターンを見るとことができるようになっている.

 

  • ここまでの話はモデルフリーの学習.記憶から学習していくもので,直感的反射的行動がまずあってそこから学習が進む.処理は単純だが試行錯誤が多数必要になる.
  • これと異なりモデルベースの学習もある.これは予測を行う内部モデルを持つもので,先読みによる脳内シミュレーション,つまりやる前に考えるものだ.この学習によると柔軟な適応が可能だが,内部的な処理は複雑になる.(ここでスマホを2輪軸に取り付けて直立させるデモが紹介される)
  • 脳内シミュレーションは行動による身体や環境の変化を予測する.過去の状態と行動から現在の状態を推定し,現在の状態とこれからの行動から未来の状態を予測する.結果や原因を予測する.これは思考,推論,言語,科学につながる活動だ.
  • これを脳内で行うには学習アルゴリズムによる機能分化が必要になる.先ほどの基底核に加えて,内部モデルでは小脳と大脳皮質が関与し,教師ありモデルは小脳が,教師なしモデルは大脳が関与すると考えるとうまく説明できそうだ.(モデルフリートモデルベースの機能分化の差が図によって説明される)
  • ではこれは本当にそうなっているのかを脳の活性部位で調べてみた.(ヒトの脳のMRIでのリサーチが紹介される.プランニングしているときには大脳皮質のほかに基底核の一部や小脳の一部で活動が見られる)
  • さらにマウスの細胞レベルでも理論を捉えることができる.二光子励起顕微鏡を用いると皮膚から2ミリはいったところの様子がわかる.いつどの行動を予測したのか,実際の行動の予測とその感覚入力による修正を見ると予測修正はベイジアン的になされているようだ.(多くのニューロンのデータをとりそれをデコーディングすると距離の動的ベイス推定モデルと感覚の修正という仮説を支持する)

 

  • パラメータはどのように設定されるのかという問題もある.今調べているのは将来報酬の時間割引率.電池パックを取りに行くロボットを作るとこのパラメータによりどこまでの距離なら電池パックを取りに行くかが変化する.割引率が小さいと引きこもって電池パックをなかなか取りに行かない鬱的な行動を見せる.
  • では脳ではどのようにこの時間割引率が実装されているのか.鬱的な行動はセロトニンが大きく関与している.実際にマウスのセロトニンニューロンではこれを支持するデータが得られている.セロトニンによりマウスは待ち続けるようになるが報酬確率が高い場合には上書きされる.これは報酬の事前確率を高めるパラメータとするとよく行動を説明できる.このほかドーパミンは報酬予測に関するパラメータ,アセチルコリンは学習速度に関するパラメータ,ノルアドレナリンは探索刺激に関するパラメータに関わっているのかもしれない.
  • ロボットの報酬系のデザインにこのような知見は利用できる.
  • 生物においては報酬とは食糧や繁殖相手との接触になる.ロボットでは食糧を電池パックに,繁殖成功を接触した際のプログラムコピー(コピー成功確率が充電レベルに依存する)として実装できる.こうして学習パラメータの進化をシミュレートできる.成功が集団内の頻度に依存するような場合には多型の進化の結果が得られる.

 

  • 自立AIエージェントは脅威になるだろうか.よくいわれるのは悪意を持った利用や誤作動だ.だからこれに対応することが重要になる.これは人間社会の解決がヒントになると思っている.チェックバランスと民主制の知恵を活かすといいのではないか.複数のオープンソースAIエージェントによる相互監視と連携などが考えられる.また脳では社会的価値志向性と扁桃体の活動に関係があることが知られている.こういうアンカーをAIに埋め込んでおくことも重要かもしれない.

 
Q&A
 
Q:多型はどのように進化したのか
 
A:コロニーの10〜20%で多型になった.初期パラメータを広くしていないと進化しないので,分岐進化ではないと思われる.
 
Q:AIと比べたヒトの特徴は何か
 
A:作業記憶が大きいところ,マルチステップでもうまくいくところ,抽象状態の定義ができるところがヒト特有だと感じる.
 
 
AIのリサーチと脳科学がどのように互いに影響を与え合っているかという話は面白かった.またコンピュータ上でなくロボット実物を使った進化シミュレーションの話は頻度依存型淘汰の結果と合わせて意表を突いていて印象深かった.
 
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口頭セッション2

 

民話に埋め込まれた素朴動物学的知識 中分遥

 

  • 民話の定量的分析の話をしたい.
  • 民話はかなり古くからあり,類似民話の分析から少なくとも印欧祖語の時代に存在していたとされている.狩猟民族の会話のリサーチによると朝はいろいろなことをしゃべっているが,夜は80%がストーリーになる.
  • ここで民話はある種の情報伝達(道徳規範,自然環境に関する知識)の機能を果たしているのではないかと考え,それを定量的に調べてみた.
  • 民話にはいろいろな定義があり,たとえばFolktale, Mith, Legendに分けられたりする.ここでは民話集に収録されているものはすべて民話として分析した.
  • データとしては国際民話抄録の動物民話を用いた.合計382話.モチーフについてはトムソンモチーフ分析にしたがった.
  • この民話について登場する動物の共起分析を行い,さらにモチーフとの関連を調べた.
  • (結果についての図を示しながら)これをみるとヒトとキツネ,ヒトとオオカミ,オオカミとキツネがよく一緒に現れること,キツネはニワトリや鳥と一緒に,オオカミはヒツジ,ヤギ,ブタと一緒に現れることがわかる.これらはキツネはニワトリを襲うリスクがある,オオカミはヒツジやブタを襲うリスクがあることを教示する機能があると考えることができる
  • モチーフを見ると多いのは対立型(騙し)などと賢者と愚者型で,前者にはハイエナやジャッカルのような捕食獣とそれらが襲う獲物が登場し,後者にはウシやロバのような家畜がよく登場する.
  • 結論として民話には現実の動物の対立が再現されていると考えることができる.物語形式の法が知識の伝達に役に立ったのだろう.

 
Q&A
 
Q:一つの物語が分岐して同じような話になっているのはあるか(それを考慮した定量分析になっているか)
 
A:元データで分かれたものは1物語として整理されている.
 


様々な嘘の噂を流す非協力戦略の下での協力の進化と社会ネットワーク構造について 中丸麻由子

 
嘘のパターンに注目した噂の機能のリサーチ 残念ながらSNSでの言及を控えて欲しいマークがついているのでここでの紹介は差し控える.

認知症は高齢者のストレス度を低下させるか? 五十嵐友子

 
現在高齢者には不要あるいはむしろ有害な形で抗認知症薬が処方されていることが多いが,それをどうやって止めればいいかという視点からの発表.
 

  • 認知症は多くの人にとっての恐怖だ.実際に予防商品は巷にあふれている.抗認知症効能をうたうサプリも無数にでている.そして医療現場で抗認知症薬は非常によく処方されている.85歳以上の認知症患者の85%に処方され,これは85歳以上人口の17%に処方されていることを意味する.
  • そして問題なのはそれが漫然処方されている実態だ.多くの場合効果の検証なく延々と処方される(認知症の改善の検証事態が難しいという問題はある).そして副作用の不全感からQOLを落としているのが実情だ.そしてそもそも抗認知症薬は認知機能が落ちてしまった中期後期の患者に投与されることは意図されていない.認知症の90%以上で抗認知症薬が意味もなく投薬されていると断言する専門家もいる.
  • これには投薬のガイドラインがあり,判断アルゴリズムも提唱されているが,現場における問題点は投薬中止のタイミングが具体的にわからないということだ.

 

  • ここでは介護現場から中止の目安(中止時期特定の根拠)を提示してはどうかということを話したい.

 

  • 「長期抗認知症薬内複写のQOLは下がっているか」:これを調べるために介護現場の職員アンケートを行った.表情,会話の様子,身だしなみ,立ち居振る舞い,活動への参加意欲についてそれぞれの患者を10スケールで評価してもらう.これによると長期服用者の方が有意にQOLが低いことが示された.
  • 「家族の認識が困難になるところが中止時点として妥当ではないか」:家族想起させるやや意地悪目の質問(昨日娘さん来てましたよね?など)をしてストレスを計測する.すると(1人の例外を除き)家族想起ができなくなる段階ではストレスが下がっていることがわかった.
  • また実際に老人ホームなどでは,入所当初はみなそのホームに溶け込もうとするが,しばらくすると一定割合の入居者は他人と関わり合いを持とうとせずに単独行動をするようになる.これはあたかも単独性の霊長類の段階に戻ったようなものかもしれない.
  • 以上のことから抗認知症薬の長期内服はQOLを下げており,どこかで中止する方が良い,そして中止時期は家族想起できなくなる時点(そこからは認知能力の低下がストレスにならない)がいいのではないかと考える.
  • 単独性霊長類の段階に戻るのなら進化的に考えても無理して認知機能を保とうとする必要はないと考えられるのではないか.ただ家族にこの進化的説明が受け入れらレるかどうかについては慎重に考えなくてはならないかもしれない.

 
高齢の認知症患者に無意味でQOLを下げる抗認知症薬が漫然と処方されているというのは衝撃の事実だった.何らかの中止目安は是非設けた方がいいだろう.ただ最後の「進化的」云々にはかなり自然主義的誤謬が混じっているような印象で,フロアから厳しい突っ込みが入るかと思っていたが,進化的理由と適当の関係に関する質問があっただけで,それ以上の時間がなくそこはスルーされてしまった.
 
夕刻からポスター発表.これについては翌日にもポスターセッションがあったのでそこでまとめて触れることとしたい.
 
以上で大会初日は終了となった.
 
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第12回日本人間行動進化学会(HBESJ SHIROKANE 2019)参加日誌 その1

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大会初日 12月7日 その1

  
本年のHBESJは明治学院大学の白金キャンパス.明治学院大学は,ヘボン式ローマ字で有名なヘボン(James Curtis Hepburn)博士により創設されたミッション系の大学だ.シロガネーゼの闊歩する高級住宅地の一角にあるキャンパスはいかにもの風情で,素晴らしい.
 
 
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口頭セッション1

 
会長による開会挨拶が予定されていたようだが,眞理子会長に所用が発生し夕刻以降の参加になったということで事務連絡のあと早速口頭セッションに
 

罰システムは協力行動のCrowding-out 現象をもたらす:公共財供給実験による検討 金恵璘

 

  • 協力の進化においてはフリーライダー問題の解決が重要になることはよく知られている.
  • 代表的な仕組みはサンクション(罰と報償を含む)になる.
  • しかしこのサンクション自体が集団の社会的選好を変えてしまうケースもあることが知られている.有名なのは,保育園のお迎えに遅れる保護者に罰金を導入したら,かえって遅刻が増え,罰金制をやめても元に戻らなかったという事例だ.これは遅刻の意味が変わってしまったために生じたと考えられている.ここではこのような社会的選好の(非協力方向への)変更をクラウディングアウトと呼ぶ.

 

  • 本研究では罰が本当に社会的選好を変えるのか.その際に生じたクラウディングアウトは集団レベルだけでなく個人レベルでも非効率をもたらすのかを調べた.
  • 学生384人を被験者とし,4人1組で罰ステージ付きの公共財ゲームを1セッション16回やってもらう.各自最初に100ポイント持ち,1回あたり最大10ポイントまで投資する.4人の投資額合計を16倍にして均等に配分する.ここで投資に対するコストを線形に付加する形と非線形に付加する(大きな投資にはより追加コストがかかる)形の2種類のゲームを行う.(それぞれのナッシュ均衡投資額は線形ゲームでは0ポイント,非線形ゲームでは2ポイントになる).当初は罰なしで行い,途中で罰ステージを設け,さらにその後罰なしステージに戻す.罰ステージでは罰として可罰者の提供ポイントの4倍が差し引かれる.
  • 結果:線形,非線形どちらのゲームでもまず最初に徐々に投資額が下がっていき,罰導入と共に投資額は跳ね上がる.その後罰を外すと投資は下がり,当初のレベルよりも下になる.
  • 注目すべきは非線形ステージで,当初の罰なしステージでは投資額がナッシュ均衡以下になることはなかったが,一旦罰を入れたあとの罰なしステージではナッシュ均衡以下の投資額になる場合が数多く見られた(平均は2をわずかに下回る程度だが,最頻値は0になった).
  • この結果は罰によるクラウディングアウトが生じていること,非線形ゲームの結果を見るとそれは個人レベルでの非効率も生じさせていると評価できる.
  • 今後はクラウディングアウトが発生するメカニズムについて調べていきたい.

 
Q&Aでは社会的選好の定義が議論されていた.

このクラウディングアウトがなぜ生じるのかは確かに興味深い.保育所の遅刻については,遅刻が道徳的に悪い行為から金を払って手に入れるサービスのようにフレームが変わったのではないかという説明を聞いたことがあるが,この公共財ゲームでは相手から罰を受けたりしているうちに自分のポイント絶対値最大化ゲームから,相手より相対的に勝てば良いゼロサムゲーム的に認識が変化したのだろうか.参加者が「ナッシュ均衡は0より上だ」と気づいていたのかのところもちょっと気になるところだ. 
 

2者間の相互作用によるリスク選好の収束 杉本海里

 
他者の振る舞いを観察することによりリスク選好が同調するのか,どのような形で同調するのかについての発表.残念ながらSNSでの言及を控えて欲しいマークがついているのでここでの紹介は差し控える.
 

婚姻交換による親族構造形成のダイナミクス 板尾健司

 

  • ヒト社会には様々な婚姻交換のシステムがある.この創発を物理モデルで説明したい.
  • 通常の伝統的な社会は,家族血縁の小集団リネージが集まってクランを作るという構造になっていることが多い.そしてクラン内はそれほど血縁度が高くなくてもインセストタブーに含まれていることが多い,
  • その結果配偶相手は他クランから得ることになるが,双方向か,一方向かの違いがある.またこれに世代が絡んで同世代婚がなされる場合と,異世代間のみでなされる場合がある.これらの組合せでいろいろなシステムがある.例えば文化人類学では全面交換型はカースト制になりやすいのかなどの議論がある.
  • ではどのようにしてこのような様々なシステムが創発するのか.モデルを作ってみた.
  • <1次元モデル>リネージとクランのある集団を想定する.各個人は自らの形質 t とどのような形質の相手と婚姻したいか p の2つの形質値を持つ.t と p により協力と(配偶相手をめぐる)競争がの大きさが決まり,それにより繁殖成功が決まる.全体は人口動態を含んだマルチレベル淘汰モデルになる.この中でどのような婚姻交換を行うクランとインセストタブーが進化するかを見る.
  • <2次元モデル>1次元モデルに父から受け継ぐ性質と母から受け継ぐ性質の二つを持たせる.(これは父から名前をもらい母と住むなどの形を表現したもの)
  • こういう形でシミュレートすると協力と競争を決めるパラメータにより様々な婚姻システムが(ちょうど相転移のように)創発する.女性をめぐる競争が強いと限定交換的,クラン内の協力が重要になると全面交換的になる領域になる
  • これまで報告された民族集団に当てはめてみると,限定交換であったアボリジニやヤノマミは狩猟採集民で女性のめぐる競争が激しいと思われ,農耕民では集団間の争いがあり,全面交換になる傾向があり,このモデルと整合的だ.

 
流れるような説明で,モデルの詳細はよくわからなかった.クラン内の婚姻がOKになるとクラン内男性同士で激しい競争になる.だからその弊害が大きな状況でマルチレベル淘汰をかけると厳しいインセストタブーが進化しやすく,集団間の争いがあるとそれにより男性同士の争いが緩和されるので緩いインセストタブーになるということなのだろうか.
 
ここで最初の口頭発表が終了.
 
これは明治学院大学創設者のヘボン博士の銅像だ.
 
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