訳書情報 「さらば、神よ」

 
以前私が書評したリチャード・ドーキンスの「Outgrowing God」が「さらば,神よ」という邦題で邦訳出版された.この「outgrow」というのは「(子どもがおもちゃなどから)卒業する」というほどの意味で,原題は「神様などというお子様向けのものから卒業しよう」みたいなニュアンスがあるようだが,日本語にするのはやや難しい.穏当な邦題というところだろうか.
 
ドーキンスはデネットやハリスと並ぶ新無神論者の代表格の1人であり,2006年の「The God Delusion(邦題:神は妄想である)」において新無神論の主張を徹底的に行っている.また子ども向けには2011年の「Magic of Reality (邦題:ドーキンス博士が教える「世界の秘密」)」を書いて,その中で関連するトピックをやさしく説いている.
 
しかし「The God Delusion」では(想定論敵に宗教家,哲学者,宗教擁護左派インテリを含めたためもあり)戦闘的なスタイルで神の不存在を議論しており,一部の読者からはかなり反発を買っていた.そういうこともあってこの「Outgrowing God」では,神の存在について何となく疑いを持つがまだ無神論までには踏み出せない程度のごく普通の人々への案内書的な内容になっており*1,宗教の主張の非真実性,宗教なしでも道徳が崩壊しないこと,自然界のデザインや宗教心自体が唯物的に説明できることに論点を絞っている.最後の論点においては進化生物学者のドーキンスも顔を出しており,いろいろ楽しいトピックも盛り込まれている.ドーキンスファンとして素直に邦訳を喜びたい*2

 
私の原書の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/2019/10/16/072635

Outgrowing God: A Beginner's Guide (English Edition)

Outgrowing God: A Beginner's Guide (English Edition)

 
関連書籍
 
ドーキンスが新無神論を世に問うた本.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20070221/1172066931

The God Delusion: 10th Anniversary Edition (English Edition)

The God Delusion: 10th Anniversary Edition (English Edition)

 
同邦訳.
神は妄想である―宗教との決別

神は妄想である―宗教との決別

 
中学生程度の子ども向けに新無神論の内容も含んで書いた本.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20111003/1317640196


同邦訳

*1:そういうわけで原書の副題は「A Beginner's Guide」になっている.日本の想定読者にはあまり一神教信者はいないだろうから邦書の副題にはしにくかったということだろう

*2:紙版と電子書籍が同一日販売なのも嬉しい.是非ほかの出版社も早川書房に続いてほしいものだ.